終.  すぐそばで笑い合う未来があってほしいと、俺は心の中でこっそりと願った

 誠治と付き合い始めてそろそろ一週間になる。
 俺たちの付き合いはなんというか、平和そのものって感じだった。お互いの性格上喧嘩をすることもないし、だけど言いたいことはちゃんと言い合って、いい関係を築けてるんじゃないかと思う。
 恋人になったからと言って、何かが劇的に変わったということはなかった。もちろん抱き合ったりキスしたりはあるけど、一緒に出かけたり、一緒に飯食ったりってのは前からしてたことだからな。でも一緒に出かけることを全部デートという単語に置き換えられる辺りはちょっと感慨深かったりする。

 俺は紛れもなく幸せだった。幸せなんだけど……もう一歩踏み込んでいけてない部分がある。なんというか……ほら、肉体的なあれですよ。実はまだ俺たちの間にそういったことはなくて、なかなかタイミングが掴めないでいた。
 というか、あれって付き合い始めてどれくらいでするものなんだ? 一週間じゃまだ早いだろうか? それとも案外もう遅かったりするんだろうか? 交際経験なんてないし、そっちの経験もないからさっぱりわからない。
 もちろんしたいという気持ちは大いにある。むしろやりたくて堪らない。誠治がどんな顔でそういうことをするのか見てみたかった。

「――何ぼうっとしてんの?」

 サークル活動中だったことをすっかり忘れて、つい物思いに耽っていたみたいだ。及川が何かおもしろいものでも見つけたような顔で近寄ってくる。

「まあ、言わなくてもだいたいわかるけどね。どうせ奥岳くんのことでも考えてたんだろう?」
「……ホントお前って目敏いよな」
「あ、やっぱ当たってた? 澤村くんて結構わかりやすいんだよね。奥岳くんがいない日はいつもやる気ないし」

 そう、今日は誠治がバイトでいない日だ。サークルのある日はいつもシフトを調整して練習に参加しているんだが、今回は思うようにいかなかったらしい。

「そんなふうに見えるか?」
「見える、見える。まあ確かに彼氏がいるのといないのとじゃ、やる気の度合いも違うだろうけど」

 後半の台詞は俺にしか聞こえないように小声で言った。
 俺は、及川にだけは誠治と付き合い始めたことを打ち明けていた。というか言わなくてもこいつにはなんとなくばれる気がして、最初から諦めることにした、って言ったほうが正しいかもしれない。
 及川は前に言っていたとおり、俺らが男同士のカップルだと知っても偏見したりしなかった。むしろ生温かく応援してくれてるけど、その半面でいろいろとおもしろがってもいるようだった。

「にしても地味なカップルだよね。なんかこう、華がないって言うのかな〜」
「うるさいよ。別に華なんかいらないだろ。本人たちが好き合ってるならそれでいいじゃないか」
「まあ、そうなんだけどね。ところで二人って、するときはどっちがどっちをしてるわけ? 及川さん気になります」
「それは……」

 言葉に窮す。だってさっき言ったとおり、まだキス以上のことはしてないしな。それにどっちがどっちをするかも想像がつかない。誠治って雰囲気柔らかいけど、基本的には男らしくてしっかりしてるし、かと言ってあいつが俺を押し倒して積極的に責めてくるってのもなんか違う気がする。いや、積極的に責めてくる誠治も結構見てみたいけど……。

「俺ら、そういうのはまだなんだ」
「はあ!? それはおかしいよ! 健康的な十九歳、あるいは十八歳のカップルが何してんの!? ひょっとしてプラトニックラブとか言っちゃう人たちなのかな!?」
「そんなんじゃねえよ! つーか声デカい!」

 そんなに驚かれるってことは、付き合い始めて一週間でそこまで進んでいないのは遅いのか。

「なんっつーか、タイミングがわかんないんだよ。俺はしたいけど、誠治がしたいかどうかもわからないし……」
「そんなの本人に直接訊けばいいじゃん」
「普通に訊き辛いんだけど……」
「男同士なんだし、その辺は遠慮なく訊いちゃっていいと思うけどなー。恥ずかしがるような歳でもないし。やっぱりお互い童貞だと、そういうのもわからないものなのかなー」
「ど、童貞ちゃうわ!」
「嘘つくなよ! もう雰囲気が童貞臭いよ!」
「うるさいなっ。お前と違って俺たちは清く正しく生きてきたんだよ」
「それとこれとは別問題だろ。つーか澤村くん、やり方わかってんの? 奥岳くんもわかってなさそうな顔してるけど……。なんだったら及川さんが実地で教えてあげようか?」
「やだよ気持ち悪い。まだ鎌先のほうがマシだよ」
「ひどくない!? しかも鎌ちより下ってショックなんですけど!?」

 まあそれは冗談って言うか、どっちも嫌だけどな。俺は誠治だけで十分だ。

「及川ってやっぱ普通に付き合ったりしたことあるんだよな?」
「じゃなきゃ君たちをからかったりしませんけど?」
「相手は男なのか?」

 及川の性的指向は謎だ。普通に女が好きそうにも見えるし、でも話を聞いていると男も平気そうな感じがする。

「まあ、どっちもあるかな。最後に付き合ったのは男のほうだったけど」

 ほら、当たってた。

「その人とは付き合い始めてどれくらいでしたんだ?」
「え、初日だけど?」
「初日!?」
「だって初めはお互い身体目的だったし。そこで気が合ったから付き合ったって感じ?」
「ひょっとしてそれが普通なのか……」
「いや、普通とは言えないかもしれないけど、君たちはもうしててもおかしくないんじゃない? お互い一人暮らしで、しかもお隣さん同士なんだし、やるタイミングはいくらでもあるでしょ?」
「確かにそうだけど……」
「きっと奥岳くんだってやりたがってるって。健全な男の子なんだからさ。なんかあんな無害そうな顔して、するときになると意外とエロそうだよね、奥岳くんって。案外経験あったりして」
「あったらなんかショックだな……」
「うん、俺もちょっとショックかも。まあいまのは冗談だから気にしないでよ。でもここで澤村くんが積極的にならなきゃ、二人は進まない気がするよ。だから頑張れ、童貞くん」
「童貞言うな!」



 いろいろと覚悟は決めた。あとは一歩踏み出す勇気さえ出れば、前へ進むことができる。
 アパートに帰ると先に帰って来ていた誠治が、飯を作ってくれていた。シャワーを浴びたあとにそれを一緒に食べて、いつもは寝る前になってやる歯磨きも早めに済ませて、ベッドの上に二人並んで座る。

「大地、さっきから顔が恐いよ」

 誠治が苦笑しながらそう言った。緊張しているのが顔に出ちゃったんだろうか。

「そう?」
「うん。なんかあったのか?」
「なんかあったっていうか、いまからなんかあるっていうか……」
「いまから?」
「いや、ほらさ……。いまだってベッドの上に二人でいるわけだろ」
「いつものことじゃん」
「そうだけど、ベッドの上で恋人同士がすることって言えば……」
「あ……」

 俺が意図してることに気づいたんだろう。誠治の顔が見る見るうちに赤く染まっていく。そういう俺も自分から言い出しておきながら顔が熱くなってきて、居心地の悪さと気恥ずかしさに苛まれる。

「そ、そういうことか〜。ごめん、なんかいつものまったりモードになってた」
「やっぱり誠治はそういうのしたくないのか?」

 そういうのはやっぱりお互いの合意の上でやるものだろう。だから自制できなくなる前に、誠治の意思は確認しておきたかった。

「そんなことないよ。俺だって男だし、大地としたいって思ってたよ。でもタイミングがわからなかったし、やっぱりちょっと恥ずかしかったから、言い出せなかった」
「そっか。俺もお前も同じだったんだな。俺もタイミングに悩んでたんだ。それに誠治がしたいと思っているかどうかも心配だった。拒否されたらやっぱりショックだろうしな」

 誠治も同じように悩んでいたのかと思うと、ちょっと嬉しくなる。そういうことに興味なさそうな顔してるけど、やっぱり男なんだよな。なんか安心した。

「でも俺らって、どっちがどっちをするんだろう?」
「い、入れるか入れられるかってこと?」

 露骨な言葉に二人して更に顔を赤くする。

「そう。誠治はどっちがしたい?」
「俺はどっちでもいいけど……でも最初は触り合いとかでいいんじゃないか?」
「ああ、なるほど……」

 確かにそれならハードルが低いし、変な心配をしなくて済みそうだ。

「もちろん大地が入れたり、入れられたりしたいって言うなら俺は構わないけど……」
「いや、今日はとりあえず触り合いからしよう。その先は追々ってことでさ。もうちょっと勉強してからじゃないと、怪我とかしたりさせたりしそうで恐いし……」
「そ、そうだな。じゃあえっと……とりあえずどうしよう? 脱げばいいんだろうか?」
「う、うん。とりあえず脱ごう」

 しまったな。エロ動画とかでもっとちゃんと手順を覚えておけばよかった。いや、エロ動画じゃ逆に参考にならないのか? とにかく何から始めていいのやらわからなくて、適当に着ているものを脱いでいく。だけどパンツ一枚になったところで、俺も誠治も手を止めてしまった。

「これを脱ぐのはちょっとな……」
「さすがに恥ずかしいよな……」

 お互いに照れ笑いが零れる。

「えっと、じゃあ次はどうしようか? 横になる?」
「そうだな……」

 狭いシングルベッドに並んで横になる。腕と腕がぶつかり合って、どちらともなく手を繋ぎ合った。
 温かい誠治の手。もう慣れ親しんだ感触だけど、今日はそれに興奮してしまう。手だけじゃなくて、少し触れ合っている肩とか足とか、そういうのを全部意識してしまうのを抑えられなかった。

「大地……ちょっと触ってもいい?」
「触るってどこを?」
「腹とか胸とか、かな?」
「なんで疑問形なんだよ」

 誠治の手が、俺の腹にそっと触れてくる。表面を撫でるように優しく動かすのが少しくすぐったくて、思わず笑ってしまうと誠治も軽く噴き出した。

「おい、笑うなよ」
「ごめん。いまの大地ちょっと可愛かった。それにしても相変わらず筋肉すごいな。俺もこんな感じになりたいよ」
「誠治だって腹筋割れてるだろ」
「大地に比べたら大したことないだろ……」

 誠治の身体はどちらかというと細身だけど、決して貧弱ってわけじゃない。それなりに筋肉は付いているし、いわゆるスリ筋ってやつに分類されるだろう。
 いままでも着替えのときとかに何度か見たことあるし、触ったことだってあった。でも今日は見るのも触るのも、それまでとは違う深い意味合いを伴う。心の中に、いやらしい感情が蔓延しているのが自分でもよくわかった。
 俺は誠治の身体に手を伸ばす。誠治がしたように腹を撫でて、それから胸板を撫でて、胸の突起を指先で突いてみた。

「大地のスケベ」
「でも、これ以上のこともするんだろ? この程度でスケベとか言ってちゃ駄目だろ。それに誠治だってさっきからビンビンになってんじゃん」
「俺も男ですから」

 硬い感触が俺の太股の辺りに触れている。でもそこを触るのはもう少しあとだ。楽しみはあとに取っておきたい。

「キスしよう」
「うん」

 はにかんだ誠治の唇に、自分の唇をそっと重ねた。薄いけど柔らかくてしっとりとした下唇に何度か吸いついたりしたあと、口の中に舌を忍び込ませる。ディープなキスは初めてだったから、もう思うがままにって感じで舌を絡めた。けれど不思議なくらいにしっくりと噛み合って、やばいくらいに気持ちよくなる。
 キスをしながら、俺は誠治の上に覆い被さった。下着にテントを張ったモノ同士を擦り合わせ、探り当てた乳首を指で弄る。

「だ、大地っ……」

 甘さを孕んだ声が誠治の口から零れた。俺はそのまま首筋や鎖骨を舐め、そして指で弄っていた乳首に、今度は唇で触れる。まるで本人の心の穢れのなさを表しているかのような綺麗なピンク色をしたそれが、ピンと張り詰めていた。気持ちいいとここも勃つって言うけど、本当なんだな。ぷっくりと膨れたそれに今度は舌を這わせ、転がすように舐め回す。

「あっ……」

 誠治はさっきより明らかに息を荒くしていた。

「乳首気持ちいいの?」
「うん……。自分で触ってもなんともないのに、大地にされるとなんか気持ちいいよ」
「自分で触ったことあるんだ。誠治って意外とやらしいんだな〜」
「うるさいよっ」

 まあ、俺も自分で自分のを触ったことあるけどな。そのときは何も感じなかったけど、やっぱり人に触られると違うんだろうか?
 誠治があんまりに可愛い反応をするもんだから、俺は執拗なまでに乳首を責めていた。おかげで我に返ったときにはそこは真っ赤になっていて、誠治もなんだか半泣きになってしまっていた。

「やりすぎだよ、もう……。ちょっと痛い」
「悪い、夢中になってた……」
「じゃあ今度は俺の番な。大人しくしてろよ」

 そう言って誠治は身体を捻り、俺を下に組み敷いた。クリッとした目が俺を見下ろす。さっき半泣きだったのが嘘みたいに、その瞳には男らしさや性欲が滲み出ていて、普段の誠治とは違うそれに俺は思わず見惚れた。

「誠治って、そういう顔するんだな」
「そういうって、どういう顔だよ?」
「やりたくて堪らないって顔。男臭くて、やらしい」
「それなら大地だって、とっくにそういう顔してるよ」

 指の腹が俺の乳首を掠めた。最初は表面を擦るように、それが徐々にこねくり回すような動きになってきたところで、くすぐったいような感覚に襲われる。なんだろう、この感じ。ひょっとしてこれが“乳首が感じる”ってことなんだろうか? う〜ん……俺はイマイチだな。
 なんて余裕ぶっていたら、誠治の舌先がそこに触れてきて、そのくすぐったいような感覚が更に深いものになった。飴玉を転がすように舌で責められ、軽く吸いつかれると身体がびくりと震えてしまう。責められているのは乳首なのに、なぜだか全然関係ないはずのあそこが疼いた。そっか、さっきの誠治もこれを味わっていたのか。

「誠治っ……舐めすぎだって…あっ」

 思わず変な声が零れてしまい、慌てて口元を手で覆う。だけどすぐに誠治に引き剥がされて、恥ずかしくて聞かれたくない声が駄々漏れになってしまう。

「うあっ……誠治、駄目だって……ああっ」

 誠治の目にいつもの優しさはなかった。一瞬だけ俺を見上げた瞳は、獲物を見つけた獣のような鋭さを灯していて、その誠治らしからぬ表情に俺はぞくりとした。もちろんいい意味でだ。
 重なった腰がそっと上下に動き始める。下着の中でパンパンに膨れ上がったモノ同士が擦れ合い、乳首に与えられる快感と相まって俺を襲った。
 それからどれくらい喘がされたかわからない。気づけば俺の乳首はさっきの誠治のそれに負けないくらい赤く腫れ上がっていて、じんじんとした痛痒さを感じるほどになっていた。
 やっと乳首責めが終わったと思ったら、今度は下着に手をかけられた。その頃には裸を見られる恥ずかしさも薄れていて、俺は脱がしやすいように腰を少し浮かせた。誠治が自分の分も脱ぎ捨てて、ついにお互い素っ裸になった。

「大地のすげえ硬い。あと先走りがすごい」

 やんわりと握られ、軽く上下に擦られる。

「誠治のだってベトベトになってんじゃん」

 同じように俺も誠治のを握って、先端を指で撫でるように擦った。

「大きさは同じくらいかな」

 言いながら誠治は、俺のと自分のを重ね合わせた。

「俺のほうが少し長い」
「いや、誠治のがちょっと上にずれてるからだろ。ちゃんと根元合わせろよ」
「合わせてるよ。ほら、ちょっと長いだろ?」
「で、でも太さは俺のほうがある」
「僅差だけどな」
「長さも僅差だろっ。つーか大きさ比べとかすんなよ。雰囲気違うだろ」
「ごめん、ごめん。じゃあいまから俺がこれまとめて扱くよ。イきそうになったら言って。俺もイくから」
「俺結構すぐイっちゃいそうな感じなんだけど……」
「俺も長持ちしそうにないから早いほうが助かるかも……」

 誠治が両手で二人分のそれを握り、ゆっくりと上下に扱き始める。どちらも先走りで濡れていたおかげで滑りがよくて、それがすごい快感を生み出していた。更にお互いのモノが直に擦れ合うのが興奮を掻き立て、気持ちよさを三割くらい増強しているような気がした。

「やばっ……マジで気持ちいいな、これ」

 気を抜くとすぐにイってしまいそうだ。さすがに早すぎると誠治が物足りないだろうと思って我慢してみるけど、それに追い打ちをかけるように誠治は手の動きを速める。

「誠治っ……もっと裏擦って」
「この辺?」
「うん……あっ、やばっ……」
「俺もやばいよっ……マジですぐイっちゃいそう」
「俺もすぐイけそうだから、誠治も我慢すんなよっ」
「わかった……」

 湿った音が響き渡る。手だけじゃなくて、腰も動かし始めた誠治のいやらしさに俺はくらくらなりながら、迫り上げて来る快感に大人しく身体を明け渡した。絶頂がもうそこまで来ている。ピンポイントで気持ちいいところを強く擦られて、俺はあっという間に陥落した。

「イクっ……あっ!」
「俺もっ……」

 頭が痺れるような快感に襲われると同時に、温かいものが俺の胸に辺りに飛び散ってくる。誠治も同時にイけたらしく、二人分の精液が俺の身体を汚していた。
 誠治が肩で息をしながら、枕元のティッシュを何枚か掴み取って汚れたところに被せてくれる。

「やばかったな……」
「ああ……でも大地のイき顔はしっかり見れた」
「マジか。俺はイク瞬間意識飛びかけたから、見逃しちゃったな」

 まあ、これからたくさん見られる機会あるだろうからいいけどな。

「にしても誠治エロすぎ! エロいことなんか何も知りませんって顔してるくせに、結構積極的だったな」
「俺も男だって最初に言ったじゃないか。こういうことしたいって、ずっと思ってたんだぞ。って言うか大地だってギャップありすぎだろ。普段は真面目そうなのに、人の乳首腫れるまで吸うし」
「誠治だって吸ったじゃないか」
「やられっ放しはなんか悔しかったからな」

 飛び散った精液を一通り拭き終わると、誠治は俺の隣に横たわる。

「シャワー浴びないか? 拭いたけどなんかパリパリしてるとこある」
「うん。でもちょっと休憩させて。なんかいろいろ疲れた」

 確かにすごく疲れたな。人に扱かれるのなんて初めての経験だったし、いろいろ緊張してたからな。

「これから少しずつでいいから、もっと先に進みたい」

 俺がそう言うと、誠治はそうだな、と頷いてくれた。

「身体だけじゃなくてさ、他にも誠治といろんなことしたいよ。海に行ったり、山に行ったり」
「いっそ夏休みは旅行でも行くか?」
「それいいな。誠治はどこに行きたい?」
「デズニーランド」
「デズニーか。俺も行ったことないから、行きたいな」
「あとUSJも行きたい」
「じゃあ頑張って金貯めて、両方行くか」
「ついでに京都も回る」
「長い旅になりそうだな〜」

 俺はきっと、誠治と一緒ならどこに行ったって楽しいんだろう。たとえそれが地球の裏側でも、宇宙の果てでも、二人なら笑っていられる気がする。
 俺はほんの少し前まで、人を好きになるという気持ちがわからなかった。失恋して辛い思いをするくらいなら、誰も好きにならないほうがいいとさえ思っていた。だけどそれは間違っていると、いまは思う。だって好きな人のそばにいると、こんなにも幸せを感じられる。一緒にいるととても楽しくなる。その感覚は、誰かを好きにならなければ味わえない特別なものだ。
 誠治を好きになってよかった。あのとき橋の下で泣いていたこいつに声をかけてよかった。でなければ俺は、この肌の温もりを知らないままだったから。
 俺は誠治の笑った顔が好きだ。優しい笑顔にいつも癒されるし、元気をもらえる。だからこれからも誠治が笑っていられるように、俺が支えていきたい。歳を重ねてお互いおじいさんになっても、すぐそばで笑い合う未来があってほしいと、俺は心の中でこっそりと願った。




おしまい





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