終. 受け入れる側はあまり経験がなく、得意ではないことを正直に打ち明けると、清はそこをかなり念入りに解してくれた。柔らかくなると痛みはまったくなくなり、逆に気持ちよさを感じるようになる。恥ずかしいような甘ったるい声を思わず零していると、清に何度も「可愛い」と言われた。 「そろそろいいか?」 訊きながら、清は硬くそそり勃ったものを京谷の入り口に押しつけてくる。解れているとわかっていても最初は緊張して、身体を強張らせていると彼は大丈夫と言い聞かせるように優しく笑った。 「駄目なら駄目って言えよ。一回入れたら絶対やめらんねえから」 「駄目じゃねえよ。オレ、ずっと清さんとこういうことしたかったんだぞ」 「そりゃあ、待たせて悪かったな。ゆっくり入れてくから、痛かったらちゃんと言うんだぞ」 あてがわれた熱いものが、京谷の襞をこじ開けて中に入ってくる。けれど想像していたような痛みに襲われることはなく、指と同じように受け入れることができた。 「全部入った……」 完全に繋がったのかと思うと、嬉しいような恥ずかしいような気持ちが込み上げてくる。 「賢の中、まだちょっときついな。もうちょい拡がるの待つか」 「別にもう動いてもいい。全然痛くねえから」 「駄目だ。傷でも入ったら大変だろ? しばらく使ってなかったんなら、慎重にならねえと。にしても悔しいな。お前の処女を他の男に取られたなんて」 「……おっさんがオレを振るからだろ」 「それを言われると弱いな〜。今頃になってあのときのことすげえ後悔してるよ。お前を選んでたほうが絶対に幸せになれたのにな」 「先のことがどうなるかなんて誰にもわかんねえよ。それにあんときはまだ、おっさんにはそういう気持ちなかっただろ? だから仕方なかったんだよ」 自分の選択が正しかったかどうかなんて、あとになってみないとわからない。だからあのとき自分を選ばなかった清を責める権利なんて誰にもないし、もちろん清自身にも責任はない。最終的にこうして自分を選んでくれた。京谷にはそれがすべてだった。 見つめ合って、どちらともなく唇を寄せ合う。貪るような乱暴なキスじゃなくて、宥めるような優しいキスだ。それが物足りなくて絡んだ舌に吸いつけば、負けじと清も吸いついてくる。 「もう大丈夫だから……」 繋がった部分は十分に解れている。いつまでも様子を見そうな清にそう言って、先を促した。 「わかった。じゃあ動かすぞ」 清の腰がじりじりと引かれるのがわかった。抜ける一歩手前までいったあと、ゆっくりと京谷の中に戻ってくる。それを何度か繰り返され、緩慢だった動きが徐々に速くなっていく。ズンと突き上げられた瞬間に、さっき指で擦られて気持ちよかった場所に当たって京谷は「あんっ」と声を上げた。 「ここがいいのか? 今すげえ可愛い声出たぞ」 「うるせえよっ。いいから黙って腰振ってろ」 「強がるなよ。いい声出してくれたほうが俺は嬉しいぞ」 「あっ!」 また同じところを突かれる。それが執拗に、激しくなり、京谷の中をぐちゃぐちゃに掻き回した。 「ああっ、あっ、あっ」 こんなに甘ったるい声を出して、なんてはしたないんだろう。そう思って口をムッと閉じてみても、突かれるたびに嬌声が零れた。けれどそれも頭がおかしくなるような快感にどうでもよくなってきて、ただ漏れにさせながら清の背中を抱き寄せた。 「気持ちいいか? 気持ちいいよな? そんだけ喘いでんだから」 荒い息遣いが耳元で聞こえる。優しい清の本能的な一面を見せられて、どうしようもなく興奮した。 男らしい顔が自分を見下ろす。大人の男の色香を漂わせたその顔にゾクリと来るものがあった。優しい笑顔も好きだけど、この顔も死ぬほど好きだ。全部余すところなく好きなんだと目線で訴えると、その気持ちを察したかのように優しいキスが降ってくる。 何度か態勢を変え、何度も突き上げられた。その間に京谷は後ろの刺激だけで一度達し、それでも責め続けられるとすぐにまた勃起した。 顔が見たいからと、また元の正常位にさせられる。目が合うと清は優しく笑った。 「今すげえ幸せだよ。セックスしててこんな幸せな気持ちになるの、初めてかもしんねえ。賢はどう?」 言葉にするのが恥ずかしくて、「俺も」と答える声が愛想のないものになる。けれど清は気分を害したふうもなく、ただ苦笑して京谷の頭を撫でた。 「ホント可愛いな、お前は。口にしなくても、身体が俺のことすげえ好きって言ってる。あ、それとも誰にでもそうなのか?」 「ちげえよ! こんなの清さんにだけだ!」 意地悪そうに笑う顔を睨めば、清は「ごめん」と謝った。 「お前の気持ち、ちゃんとわかってるよ。俺だって今はお前だけが好きだ。こんなに好きになったやつ、他にいねえよ」 「……ホントか?」 「ああ」 「初めに結婚した相手よりも、こないだ離婚した女よりも、オレのほうがいい?」 「そうだよ。賢が一番好き。それは嘘じゃねえよ」 清は嘘をつかない。それはよく知っているし、たとえ嘘だとしても、彼の口からその言葉を聞けたことが京谷は死ぬほど嬉しかった。 「はあ、そろそろイっちまいそうだ。賢はもう一回イけるか?」 「激しくしたらたぶんイけると思う」 「そっか。にしても、男ってケツでイけるんだな。それともお前が特別いやらしいのか?」 「うるせえよっ。とっとと腰動かせよエロオヤジ」 「オヤジって言うなよ。事実なだけに傷つくだろうが」 こんなアホらしいやりとりでさえも、今の京谷にとっては幸せに一部だった。だって清の一番はこの自分だ。優しくて大好きなこの男を、今は自分が独占しているのだ。 再開の合図のように清はキスをしたあと、再び腰を動かし始めた。そこに最初のような慎重さはない。ただただ京谷の身体を欲する剥き出しの本能と、包み込むような温かい愛情を溢れさせながら、柔らかくなった中を責め立てる。 「あっ、ああんっ……あっ、あんっ……」 腰を持ち上げられ、叩きつけるように腰を振る。突き上げられるたびに絶頂の兆しが湧き上がってくる。はしたないとわかっていながらも、もっと、もっとと自らも腰を振って清を感じた。 「やべえっ……マジでイきそう……中に出していいのか?」 「いい、から、イって……オレもイくから……あっ!」 律動が更に激しくなる。清の汗が胸に滴り落ちてきて、その瞬間に京谷は限界を迎えた。二発目とあって射精に勢いはなかったが、頭が真っ白になるような快感は一発目以上のものだった。 そして清もすぐに果てたようだった。律動が止むと、京谷の中に挿し込まれた清自身がドクドクと脈打っているのが伝わってくる。自分の中に全部出してくれたことが無性に嬉しかった。 「賢」 名前を呼ばれて顔を上げると、啄むようにキスをされた。 「愛してる」 高校生の自分がもらえなかった言葉が、約二年半越しに降ってくる。それは京谷の胸にじんわりと沁み込み、泣きたくなるような切ない気持ちにさせられた。 「オレも愛してる」 身体を洗って再びベッドに入ると、先に入っていた清に手を握られた。大きくて無骨で、男らしい手をしているけれど、優しくて温かいことはもう十分すぎるほど知っている。 「死ぬときはこうやって手握って、お前に看取られながら死にたいよ」 ぽつんと呟く。 「……付き合い始めた日に死ぬときの話なんかすんなよ」 「悪い。でもマジでそうであってほしいって思ってるよ。そのときまでお前がそばにいてくれたらの話だけどな」 「オレはおっさんのそばを離れるつもりなんかねえよ。爺になって呆けたとしても、ずっとそばにいる」 「その言葉、信じてるからな。ずっと気持ちは変わらねえって信じてる」 京谷にとってあのときの失恋が辛かったように、きっと清にとっても二度の離婚は辛いものだったのだろう。もしかしたら京谷のように、一人でこっそり泣いたりしたのかもしれない。 自分ならこの人を絶対に泣かせたりしない。寂しがり屋のこの人を一人にはしない。何も持っていない弱い自分でも、それだけは自信を持って言える。 京谷は繋がれた手を解き、清の形のいい頭を腕の中に抱きしめた。短い髪を梳くように撫で、額に優しく口づける。 「普通逆だろ」 「別にどっちでもいいだろ。たまにはこうやって甘えろよ。おっさん、あんま強くねえんだから」 「うるせえ」 鼻を摘ままれ、仕返しに頬を抓ると清は痛いと言いながらも笑っていた。 何物にも替えがたい幸せが、ここにはある。清を好きになって辛い思いをしたこともあったけれど、それはこの幸せに辿り着くための試練だったんだと今は思える。おっさんだし、バツ二だし、誰もが認めるような男前ではないけれど、それでもこの人以上に大事に想える相手はいないのだと、清を抱きしめながら京谷はそう確信した。 河原で泣いている高校生の自分がふと目の前に現れる。京谷はそんな過去の自分のそばに歩み寄ると、丸くなった背中を優しく擦った。そして、お前はいつか幸せになれるから、あの人の一番になれるから、もう泣かなくていいんだと言ってやる。だけどそう言った自分も泣いていた。高校生の頃の自分に負けないくらい泣いていた。嬉しさと幸せに満ち溢れた温かい涙が、雨粒のようにぽたり、ぽたりと流れ落ち、しばらくそれは止まなかった。 |