04. 熱くて甘い 澤村の部屋は照島の予想していたとおり、きちんと掃除がなされていて綺麗だった。物一つ落ちていないというわけではないが、自分の部屋がなかなか散らかっているだけに、それと比べるとクリーンルームのように思えてしまう。というか、比べるのも失礼なレベルだ。 「シャワー借りてもいい?」 こんな部屋にいると、なんだか己の穢れがどんどん浮き彫りになるような気がする。それにいまから澤村と肌と肌を重ね合うわけだし、身体は綺麗にしておきたかった。 「ああ、どうぞ。そっちのドア開けたところだから。タオルは棚に置いてあるの自由に使って」 「サンキュー」 澤村は、いまから初めて男を抱くというのに至極落ち着いているように見えた。むしろ照島のほうが緊張しているかもしれない。数多くの男と寝た照島も、ノンケを相手にするのは初めてだ。それに澤村ほど自分の好みに当てはまる男はいなかった。初体験のときでさえこんなに緊張した覚えはない。 洗面室で服を脱ぎながら、照島はその段階になって初めて自分が七日も風呂に入っていないことを思い出した。こんな汚い身体で抱きついたりして、澤村に臭いと思われなかっただろうか。いっそ臭いと指摘されたほうが気が楽だったが、あの男は優しいからそういうことは絶対言わない気がする。 髪の毛の先から足の爪先、隅々まで念入りに洗った。ついでにリンスを拝借し、これから使うであろう後ろのそこを指で慣らしておく。男初体験の相手にそこを解させるのはなんとなく躊躇われた。 一週間も着古した服をもう一度身に着けるのは嫌だったから、バスタオルを腰に巻いただけの無防備な状態で洗面室を後にする。澤村にはあまり驚かれなかったが、綺麗な筋肉の付き方をしていると褒められた。 「俺もシャワー浴びてくるよ」 「え〜、オレ別に気にしないよ?」 「いや、さすがに汚いと思うぞ。お茶淹れたから、ゆっくりしててくれ」 「あ、上がるときにリンス持ってきて」 「リンス? なんで?」 「なんでも。お茶いただきまーす」 首を傾げながら洗面室に入っていく澤村を見送って、照島はテーブルに置かれた茶を口にした。なんの変哲もないただの麦茶のはずなのに、澤村が淹れてくれたのかと思うとなんだかすごく美味しいように感じられた。 そういえばこの部屋にはベッドがない。床に布団を敷いて寝ているのだろうか? なら澤村が上がるまでにそれを出して準備を整えておこう。そう思って奥の引違ドアを開けると、そこは押し入れではなく寝室だった。ワンルームだと勝手に思い込んでいたが、どうやらそうではなかったらしい。 ベッドは部屋の隅にあり、照島は勝手に悪いと思いながらそこに寝そべる。枕に顔を押し当てると、澤村の匂いがした。 「待たせて悪い」 澤村は十分もしないうちにシャワーを浴び終えて出てきた。 「あ、勝手に入ってごめんね……って、うわっ!?」 何気なしに入り口のほうを振り返って、照島は思わず驚いてしまう。なぜなら澤村が裸にタオル一枚を巻いただけの、無防備極まりない姿でいたからだ。自分も同じ格好をしているし、いまからすることを考えるとその状態で何の問題もないのだが、心の準備ができていなかった。 「うわってなんだよ。なんか変か?」 「いや、どこも変じゃないよ。あんまりに美味しそうな身体だったから、つい」 「美味しそうって……」 さっき彼に抱きついたときに、服の上からでも厚みのある身体だなと思った。そして隠すものがなくなったいま、その鍛えられた身体の全貌が照島の目の前に露わになった。 強靭、という表現がこれほどぴったりと当てはまる身体はそうそうお目にかかれるものではない。無駄な贅肉は一切なく、どこもかしこも筋肉の層が積み上がったような逞しい身体だった。けれど決して付きすぎず、どこかの美術館に展示された彫刻のような美しさも兼ね備えていた。 さっき美味しそうだと言ったのは、本当に素直な感想だった。ここまで完璧で、照島の情欲を煽るような身体は見たことがない。ただ目にしただけで、下半身がどうしようもなく熱くなる。 「照島だって鍛えてるだろ? 結構筋肉ついてるじゃん」 「でも澤村さんに比べたらしょぼいと思うよ。なんか自信なくすわ」 「まあ、俺は仕事する上である程度必要だったからな」 維持するのも大変だぞ、と笑いながら澤村は照島の隣に腰かけた。スプリングが沈む。肌が触れ合いそうなほど近くに彼の存在を感じて、照島は緊張と興奮でクラクラしてしまいそうだった。 「照島の目にどういう風に映ってるかは知らないけど」 どんなふうに始めようかと考えていると、澤村が静かに言葉を紡ぐ。 「俺いまかなり緊張してんだぞ。こういうことってしたことないから」 「まあ、普通ノンケは男となんかしないだろうね」 「そうじゃなくて、その、あれなんだ……」 ごもごもと、澤村にしては珍しく言いにくそうに口ごもっていた。いったい何を言いたいのだろうかと首を傾げると、彼は手を自らの額に押し当てる。 「正直に言うけど、俺は女ともそういうことをしたことがない」 「えっ」 「だから上手くできるか自信なくて、いまかなり緊張してる」 告げられた言葉に、照島は喉がつっかえて声が出なくなるほど驚いた。澤村は照島の一つ上の二十四歳。遊びに遊んで経験も豊富な照島と比べるのは失礼だが、それくらいの歳ならいくら真面目な人間と言えど、二、三人くらいは経験があるものだと思っていた。 「う、嘘だー」 信じられずに思わずそう呟くと、澤村は少し怒ったような顔をした。 「嘘じゃない。ここで見栄を張ったって、たぶんやってるうちに照島はわかっちゃうんだろ?」 「まあ、そうかもしれないけど……。でも、そんなにカッコいいのに経験ないっておかしくない? 女とやりたいって思わないの?」 「付き合ったことは、二人だけある。でもそんなに長く続かなかった」 「じゃあ風俗は?」 「警察官が風俗に行くのは、ちょっと駄目だろ。それにあんまり行きたいとも思わない」 そうこうしているうちに未経験のまま、いまに至るという。そんな人種がいることに驚きつつ、世間にはまだ自分の知らないことがあるのだなと、少しずれたことを頭の中で呟いた。 「て、天然記念物だ……」 「おい、それ絶対馬鹿にしてるだろ」 「してないよ。むしろ称えてるつもりなんだけど」 初めての相手が男で、しかも自分なんかでいいのだろうか? そう心配になったけれど、言葉にはしなかった。反面でこの男の童貞を自分がいただけることに、優越感にも似た気持ちを抱いていたからだ。 「今日は、オレがいっぱい気持ちよくしてあげるからね」 澤村が自分とやってよかったと心から思えるくらいの快感を教えてあげよう。ひっそりとそう決意して、照島は彼の肩に触れた。生温かい体温に一瞬ドキリとなりながら、筋肉猛々しいその身体をゆっくりと押し倒す。 童貞を相手にするのは、初体験のとき以来だ。あのときは照島も初めてだったから、いろいろと苦労したし、痛い思いもした。そんな懐かしい記憶を一瞬だけ思い出したあと、澤村の薄い唇に軽くキスをする。 「キス、平気? 気持ち悪くない?」 「うん、大丈夫。全然嫌じゃない」 澤村は照島の頭を撫でてくる。 「言っただろ。照島は男前だから、案外悪い気はしないのかもしれないって。本当に、嫌悪感とかそういうのはないみたいなんだ」 「キスなんてまだ序の口だよ? これからもっとすごいことするんだよ?」 「まあ、それはなんとなくわかるよ。でもお前相手ならたぶん大丈夫」 言葉ではそう言ってくれるけれど、澤村が本当に自分相手に勃起してくれるのかはまだ心配だ。ちなみに照島のほうは、澤村の裸を見た瞬間から勃ちっぱなしだったりする。 もう一度唇を重ね、何度か啄むような軽いキスをしたあと、舌で澤村の歯茎をこじ開けた。無防備な熱い粘膜を絡め取り、自分からしておきながらその感触に全身が総毛立った。 「ん、ん……っ」 澤村が小さく声を漏らす。投げ出された彼の左手を右手で握って、もう片方の手でタオルの上から彼のそこに触れた。布越しでも、ずっしりと重い感触がする。優しく擦ってやると、意外なほどあっという間に勃起した。そのことに少し安心しながら、腰に巻かれたタオルを剥ぎ取り、露わになったそこを無遠慮に見つめる。 特別大きいということはないが、綺麗な形をした性器だった。身体と同様にこちらも美味しそうだと思った。これでいままで使ったことがないだなんて、宝の持ち腐れもいいところだ。 (ど、童貞のチンポ……) そしてその未使用の宝を、自分が穢す。そのことにどうしようもない興奮と高揚感を覚えてしまう。 「そんなに見るなよ」 照島がそこに見惚れていたことに、澤村が気づいた。照れたように笑った顔が可愛かった。 「だって澤村さんの綺麗なんだもん。すっごく美味しそう」 手に握ってみると、他の部分よりも熱が集中していて、すごく硬い。ぐっと息を詰めた澤村に、大丈夫だと言い聞かせるように先端を優しく撫で、それからそうっと唇と付けた。 「そ、そんなもの舐めて気持ち悪くないのか?」 心配そうに見下ろしてくる目に、照島は笑ってみせた。 「気持ち悪いどころか、なんだかオレまで気持ちよくなっちゃうよ」 そう言って、先端を口に含んだ。あ、と澤村は小さく喘いで、そのあとで声を出した自分に恥じ入ったように口元を押えた。 (澤村さんが感じてる。なんかエロい……) 普段相手にしている男たちは、やり慣れている連中ばかりだったせいか、照島がしゃぶっているときも意外と余裕そうな顔をしていた。それとは対照的に、澤村はいっぱいいっぱいな感じだった。男前な顔は気持ちよさそうに目を眇め、荒い息遣いの中で時折甘さを孕んだ声を漏らす。それを懸命に堪えようとする様子は、なんだか幼気な処女を犯しているようで――あながち間違ってはいないが――ひどく興奮した。 「澤村さん、どう?」 「き、訊くなよ……っ」 どこがどう気持ちいいのか、照島はよく知っている。自分の持つ技術をフルに活用しながら、丁寧にそこを責めた。鈴口から溢れる甘い雫を吸い、根元からゆっくりと舐め上げて再び全体を口に含んでは出し、何度も擦る。 もうずっとこれにしゃぶりついていたい。そう思ったけれど、澤村の手が照島の頬にそっと触れてきて、中断させられた。 「出そうだった……」 「そのまま出しちゃってよかったのに」 「いや、それはなんかちょっと悔しい」 澤村にも男としてそれなりのプライドがあるらしく、けれどそんな一面も照島には魅力的に映るばかりだった。 「俺も照島のしゃぶろうか?」 「それはまたの機会でいいよ。それよりオレ、これが欲しくてもう我慢できそうにない」 さっきからずっと、澤村のを舐めながら腰が疼いていた。これを自分の中に埋め込んでほしくて堪らなかった。照島は澤村が持ってきてくれたリンスのボトルを掴み取ると、滑らかな液体を自分の手にたっぷりと乗せ、それを澤村の性器に塗り込んだ。 「次、何をするんだ? 俺はこのままでいいのか?」 「うん、澤村さんはそのままで大丈夫だよ。これからオレが澤村さんのこれを食べちゃうだけだから」 そう言って照島は澤村の腰に跨る。そして自分の尻に澤村の硬いそれをあてがい、ゆっくりと腰を下ろしていく。 「て、照島!?」 男同士のセックスでそこを使うことを知らなかったのか、澤村は素っ頓狂な声を上げた。それを黙殺し、まだ少しきついなと思いながらも、徐々に澤村を飲み込んでいく。 「くっ……あっ……くぅ……っ」 「照島っ、待て……待てって」 「あっ、ああっ!」 身体を震わせながら、照島はついに澤村を根元まで飲み込んだ。そこを使うのは久々だからと、念入りに解した甲斐もあって痛みはまったくない。むしろまだ受け入れただけだというのに、言葉にならないほどの快感に包まれた。 「全部入っちゃった……」 「痛くないのか?」 「うん。風呂場でしっかり慣らしてきたから大丈夫。澤村さんは平気?」 「なんかこれはちょっとやばいかもしれない」 「やばい?」 「お前の中、熱くてトロトロしてて、やばいくらい気持ちいい」 「よかった。でも、これだけじゃないからな」 後ろに受け入れるとき、いつもは相手にコンドームを付けさせる。フラフラと遊びまくる照島も、病気だけは恐かったからだ。だから定期的に検査にも行っている。 けれど澤村のそれは、何もつけずにそのまま受け入れた。まだ穢れていない綺麗なそれの感触を、生で味わってみたくて我慢できなかった。ゆっくりと腰を動かしてみると、コンドームを付けているときの摩擦感がなく、むしろ自分の身体にぴったり馴染んで、いままでにないくらいに気持ちよかった。 「ああっ……っ……はぁ……ぁっ」 照島は我を忘れ、腰を前後に揺らして澤村を味わった。一番感じるところに先端が当たる。最初からこんなに上手く噛み合うセックスは初めてかもしれない。身体の相性がいいというのはこういうことなのかと改めて思い知らされながら、貪るように後ろでそこを擦り上げた。 「んぁっ! あっ、あっ、あっ」 「照島っ……そんなに動かしたらやばいっ」 腰に手を添えられ、照島は少し驚いた。男の身体に触ったりなんかして、萎えてしまわないのだろうかと心配になる。けれどこちらを見上げる澤村の目にははっきりと欲情の証が浮かんでいた。自分の身体で感じてくれているのが嬉しくなり、グチュグチュと湿ったいやらしい音を響かせながら、自分と澤村の両方を快感の頂点へと導く。 「照島、俺っ……もう駄目だっ……あっ!」 澤村の腰がガクガクと震えた。同時に体内に何か注ぎ込まれる感覚がして、彼が達したことを悟った。 「ごめん、いくらなんでも早すぎるよな……」 「別にいいよ。むしろオレで感じてくれて嬉しいな」 身体はまだ不満を残しているが、不思議と心は満たされていた。少しだけ硬度の落ちたそれを後ろに受け入れたまま、照島は澤村の上に折り重なる。 「オレの中、どうだった?」 「すごく気持ちよかった。そのまま中に出しちゃってごめんな」 「澤村さんならいいよ。ちょっと休憩したらもう一回できそう?」 「うん。でも、照島は大丈夫なのか? あんまりやると痛くなるんじゃないのか?」 「全然平気。何回でもやりたいくらい」 不意打ちのように澤村の唇にキスをして、舌を口内に忍び込ませる。最初はどうすればいいのかわからないようだった澤村も、段々とコツを掴んできたようで、照島と同じ動きで舌を絡めてくる。 「んっ……」 どんどん深く噛み合っていくキスに、照島は気持ちよくてどうにかなってしまいそうだった。もっとキスの上手い男はいたはずなのに、いままでしたどんなキスよりも照島の快感が最大限に引き出された。まるで舌全体が性感帯になったような錯覚に陥りながら、無我夢中でそれを絡め合う。 時間の感覚さえおかしくなりそうなほどキスに没頭していると、照島の体内に入れたままにしたそれが容積を増す感覚がした。 「復活したね」 「おかげさまで」 目が合うと、澤村は照れたようにはにかんだ。 「今度は俺が上になってもいいか?」 「うん」 後ろを満たしていたものをゆっくりと引き抜き、今度は照島が仰向けになる。はしたなく開いた脚の間に澤村が身体を割り込ませてきた。無骨な手で太ももを押し上げられ、あてがわれた熱い感触に思わず喉を鳴らした。じん、と身体のどこかが疼いて、彼の先端を食むように粘膜が蠢く。 そして――ぬるまったバターに指を押しつけるような抵抗感で、ずぶずぶとそれが体内に押し入ってきた。 「あっ、うあっ……ああんっ」 「痛かったか?」 「違うっ、澤村さんのが気持ちよくて……あっ!」 根元までしっかりと入ったのを感じて、照島は歓喜に打ち震える。しかしそれも束の間のこと、澤村の腰がゆっくりと動き出して、照島の感じる部分を的確に掠り始めた。 「あっ、ああっ、あ、あ…あんっ」 セックスのとき、フェイクで大袈裟に声を出したりすることがあるけれど、いまは耐え切れずにすべて零れてしまう。身体がどうしようもないくらいに感じてしまって、けれどそんな中で澤村がまだ自分の身体を気遣っているのがわかった。 「澤村さんっ……もっと、もっとして。オレの中ぐちゃぐちゃに掻き回してよっ」 「でも、そんなことしたらお前の身体が……」 「オレは大丈夫、だからっ。これ、すげえ気持ちいいのっ。入れてると、オレ、駄目っ……あんっ」 すすり泣くような照島の声に、ごくりと澤村が息を呑む音が耳元で聞こえた。 「本当に、いいのか? あんまりすると、俺も歯止めが効かなくなりそうだ」 「そんなのいいよ。オレの身体は大丈夫だから、澤村さんの好きなように動いて」 「わかった……」 唸るように告げたあと、みっしりと含んだそれが、出し入れする動きの速さを増してくる。していいと言ったように突き上げられ、揺さぶられ、照島は自分を押しつぶしそうな身体に縋った。 「あんっ……すごっ、澤村さんっ……あっ、あっ」 「照島っ……頭がおかしくなりそうだ」 ふと目が合った彼の瞳は、普段の優しさが嘘のように攻撃性に溢れ、いまからどう獲物を狩ろうかと考えている獣のような鋭さを灯していた。 想像もしていなかった、強い欲情を匂わせる澤村の姿に背中がぞくぞくして、あそこもぞくぞくして、もう何も考えられなくなってしまう。 「さ、澤村さん、本当に童貞? なんでこんなに上手いの……?」 「俺って上手いのか? ただ気持ちよくて、無我夢中になってるだけなんだけど」 童貞だと聞いて、セックス自体はあまり楽しめないのではないかと不安だった。けれど実際は違った。澤村は本能的に照島の気持ちいいところを突いてくる。めちゃくちゃな腰の動きなのに、頭が沸騰しそうになるくらい照島を気持ちよくしてくれる。 「あんっ、あっ、あっ、ああっ、あっ!」 身も世もなく悶えながら照島は喘ぐ。食い破るみたいに突き進んでくるそれが照島に与えるのは、脳まで痺れるくらいの快感だけだ。 そしてそれは、唐突に訪れた。 「あっ、澤村さんっ、オレ…駄目っ。イっちゃう」 性器には一切触れていないのに、射精しそうな感覚に襲われる。まだ早いと思って我慢を試みるが、澤村の容赦ないピストンに、照島はあえなく陥落してしまう。 「イク、イク、あんっ、あっ、あっ……イっちゃうっ、あっ!」 ひときわ奥深くを貫かれた瞬間、何かが弾けるような感覚がした。視線を下腹部にやると、硬くそそり立った自分の性器から、ドロドロと白濁が溢れ出している。激しかった律動もいつの間にか止んでいて、澤村は腰を震わせていた。どうやら同時に達することができたらしい。 「すまん、照島。なんか歯止め効かなくて、めちゃくちゃにしてしまった」 「いいよ、オレすげえ気持ちよかったもん。頭真っ白になった」 「俺もだ」 力の抜けた澤村の身体が、照島の横にストンと倒れてくる。互いに息も絶え絶えになっていた。自分の鼓動と荒い息、そして耳鳴りがするほどの興奮が少し遠のいてきた頃に、澤村が頭を撫でてきた。 「もう、寂しくないか?」 「……うん。澤村さんがそばにいてくれたら、寂しくないよ」 「そっか」 そのままギュッと抱きしめられ、浸み込んでくる優しさに照島はなぜだか泣きたくなった。そんなふうに優しさを肌で感じるような事後は、いったいいつ以来だろうかと思う。結局思い出せずに諦めて、その疑問を溜息で過去へと吹き飛ばした。 「今日、ここで一緒に寝てもいい?」 「ああ、いいぞ。俺は朝から仕事で早く起きるけど、お前はゆっくりしてていいからな」 「うん……ありがとう」 脅してセックスを強要してきた相手に、どうして彼はそこまで優しくできるのだろうか。まるで聖人君子だ。そんな人を脅したことに罪悪感を抱かないわけではなかったが、いまはそれ以上に、その優しさに触れられてよかったと思う。 そしてその優しさを知った照島の心は、熱くて甘い、ふわりとした何かに包まれつつあった。 |