V. 京谷の身体をベッドに押し倒し、無防備になった唇に自分の唇を押しつける。キスは意外なほど最初から上手く噛み合った。それなりに経験があるという言葉が嘘でないことを示すように、口内に侵入させた岩泉の舌に、京谷は上手く自分のそれを絡ませてくる。 「んっ……」 岩泉の背中を必死に掴む京谷の腕。案外素直なやつだなと思いながら、そんな京谷に歯止めが効かなくなっていく。 着ているものを剥ぎ取り、裸にひん剥くと昨日少しだけ目で楽しんだ彼の裸体が露わになる。しなやかさも備えた引き締まった身体は、モロに腰に来るものがあった。昨日触れたばかりだけれど、あのときはただ本当に触るというだけで終わった。でも今日は違う。この身体を岩泉の好きなように弄び、責めることができるのだ。 「岩泉さんも脱いでくださいよ。オレ岩泉さんの身体見たいっす」 言いながら京谷が服の上から岩泉の胸板に触れてくる。 「そんなに見てえなら、お前が脱がせろよ」 挑発するようにニヤリと笑ってみせると、無骨な手が岩泉の服の裾を掴んだ。興奮したような手つきで引っ張られ、あっという間に岩泉の素肌が少しひんやりとした部屋の空気に晒される。 「岩泉さんっ……」 そう呼んだ声は、堪らないと言いたげに余裕がなかった。ギュッと縋るように抱きしめられ、岩泉もまた抱きしめ返し、京谷の体温を直に感じながら首筋に舌を這わせる。 ぴくんと反応する身体。上擦った声が耳元で聞こえて、言いようのない興奮に襲われた。肩口に軽く噛み付き、そして鎖骨の辺りをきつく吸って、自分が責めた証を彼の身体に刻んでいく。 胸板は決して厚くはないが、そこにもちゃんと筋肉がついているのが触れた感触でわかった。胸の突起は浅黒く、指で擦るとあっという間に硬くなった。 「乳首感じるんだな。タチやってても責められたことあったのか?」 「人にそこ責められたことはあんまないっすよ。オナるときに自分でやってたら感じるようになったんす」 「自分で開発したのかよ!?」 「ち、乳首が感じる男は嫌っすか?」 心配そうな目が岩泉を見上げた。 「別に嫌じゃねえよ。むしろ大歓迎だよ。じゃあ今日はいっぱい責めてやっから、大人しく感じてろ」 舌先で尖った先端にそっと触れる。それを待ちわびていたように細い身体は震え、京谷は掠れた声を零した。 「あぁっ……」 自分の声に恥じらいを感じたのか、京谷は両手で自分の口を押さえた。その手を岩泉はそっと引き剥がし、動かせないように握り締める。 「あっ、嫌だっ……声がっ」 「遠慮せずに聞かせろよ。お前の感じてる声、すげえ可愛いぜ」 低くて男らしい声が、甘さを孕んで岩泉の鼓膜を刺激する。まるで媚薬だ。聞いているだけでどんどんエロい気持ちにさせられて、乱暴にしたくなるような衝動に駆られる。それをなんとか自分の中に抑え込みながら、岩泉はそのいやらしい突起を散々に虐めた。 「い、岩泉さんっ……いつまで、そこ」 「ここ、好きなんだろ? もっと責めてほしいんじゃねえのかよ?」 「あんまされるとおかしくなりそうっす……」 「それでいいんだよ。もっとおかしくなるようなこと、今からするんだからな」 ちゅっと音を立てて吸うと、京谷は身体を捩って身悶えた。岩泉の唾液でぐっしょり濡れたそこは赤く充血しており、よりいっそういやらしくなっていた。 スエットの中では、岩泉のモノがはち切れんばかりに勃起している。そしてそれを押しつけた京谷のそこもまた、硬くそそり勃っているのが布越しでもわかった。ジーンズの上から形を確かめるように撫でたあと、ベルトに手をかける。 鮮やかな緑色のボクサーパンツに、勃起した性器の形がくっきりと浮かび上がっている。その先端部分には小さな染みができていた。 「もう我慢汁垂らしてんのかよ。エロすぎだろ」 「岩泉さんが乳首しつこく責めるからっすよっ」 「お前の身体がいやらしいんだよ」 そして最後の砦であるボクサーパンツを脱がし、自分の下肢の衣類もすべて脱ぎ捨てて、再び身体を重ね合わせる。互いの性器が触れ合い、更なる刺激を求めるように腰が揺れた。 「京谷……」 名前を呼んで、それに答えようとして開きかけた唇にキスをする。濃厚に舌を絡め合いながら、互いに下肢を押しつけ合った。 「岩泉さんの、しゃぶらせてください」 京谷の手が岩泉の屹立を握る。 「これ、しゃぶらせてください。つってもあんま上手くないかもしれねえけど。あんましたことないんで」 「別に無理しなくていいぜ?」 「無理じゃないっすよ。岩泉さんのだったら問題ないっす」 自分だけ特別と言われるのは、悪い気がしない。彼が、フェイクが使えるほど器用な人間だとは思えないし、きっとそれも本心なのだろうと信じている。 「そっか。じゃあ遠慮なく口に突っ込ませてもらうわ」 岩泉は京谷の身体を跨ぐような形で膝立ちになり、そそり勃った自分のそれを彼の顔の前に突き出した。無骨な手がもう一度握ってくる。遠慮がちに舌先が亀頭に触れ、ちろちろと舐め始めた。 さっき本人が言ったとおり、京谷はフェラチオするのには慣れていないようで、技巧はそれほどでもなかった。けれど懸命に尽くすようにする様は妙にそそられるものがあり、無意識のうちに腰を揺らしてしまう。 「あぁ……」 頭を掴み、優しく前後に動かすと京谷は素直に従った。岩泉の反応を見てコツを掴んだのか、吸い付く力加減や舌使いがなかなかいい感じになってくる。下半身に軽く痺れるような感覚が現れたところで、岩泉は自身を京谷の口から引き抜いた。 「あんま気持ちよくなかったっすか?」 「いや、普通に気持ちよかったぞ。お前の咥えたくなっただけだ」 「フェラ、してくれるんすか?」 「俺がしてやらねえとでも思ったのか?」 「ちょっとだけ……」 「俺はそこまで薄情じゃねえし、しゃぶるのだって嫌いじゃねえよ」 むしろ京谷のような好みの男には、積極的にしてやりたいくらいだ。 「すげえな。俺の舐めてる間もカチカチだったのか」 サイズでは岩泉にも引けを取らないそれを、優しく握り締める。顔を近づけると、青臭いような匂いが生々しく鼻先を過ぎた。ピンと張った裏筋に舌を這わせたあとに、先端を口の中に飲み込む。 「うっ……」 京谷が息を飲む気配がした。わざと唾液の音を立てて愛撫してやると、掴んだ太股が震えた。無意識にやっているのか、彼の両手が岩泉の頭を包み込むように触れてくる。 「ああっ……あっ…っ」 乳首以上に敏感なそこを口の中で弄びながら、岩泉は京谷の太股を押し上げて、露わになった双丘を揉みしだいた。どちらかというと小ぶりで毛もなくツルツルとしている。岩泉の好みの尻だった。それを両側に押し広げ、奥に隠れた蕾を探り当てる。 入り口に指を押し当てると、途端に京谷の身体が強張った。ここを使ったことはないと言っていたから、きっと不安なのだろう。 「指、入れてもいいか?」 京谷は一つ頷いた。 「じっくり慣らして痛くねえようにするから、安心して俺に任せろ」 もう一度頷いたのを確認して、岩泉はベッドの下の引出しからローションを取り出した。それを京谷の尻の谷間にたっぷりと注ぎ、自分の中指で掬うようにしてから蕾に少しずつ埋めていった。 「……っ」 「力入れんな。ちゃんと息して、身体楽にしろよ。じゃねえといてえばっかだぞ」 言われたとおりに呼吸をし出して、きついそこに少しだけ余裕が生まれた。焦らずゆっくりと奥に進んでいき、指の根元まで埋め込むことに成功する。 「いてえか?」 「痛くはねえけど、なんか変な感じっすね……。これホントに気持ちよくなるもんなんっすか?」 「さあ、どうだろうな。向き、不向きがあるみてえだから、やってみねえとわかんねえよ」 中はまだまだ締まっている。それを慎重に解しながら、指の腹で京谷が感じる場所を探した。 「っ!?」 そして奥まった場所に指が擦れたとき、彼の細い身体が跳ねる。 「ここがいいのか?」 京谷は何も言わなかった。たださっきの自分の反応を恥じるように、腕で顔を隠した。 「おい、隠すなよ。顔見せろ」 京谷の腕には力が入っていたが、岩泉の力の前では無力も同然だった。いとも簡単に引き剥がすことができ、晒された顔を無遠慮に覗き込む。 京谷は恨みがましげに岩泉を睨んだが、瞳を潤ませていてはただ悪戯に興奮を煽るだけだった。こめかみに優しくキスをして、京谷が反応を示した場所をグリグリと刺激する。 「うっ……くっ、ぁ……」 指を出し入れするたび、そこがキュウっと締まるのがわかる。固く閉じていたのがいい感じに解れてきて、すかさず二本目を挿入した。目の前の獲物を食い散らかしたい衝動が今にも理性の壁を打ち破りそうだったが、それをなんとか押し留めながら、京谷が痛みを感じなくて済むように念入りに準備をした。 「おっし……そろそろいっか」 最終的に三本の指で中を掻き回し、十分に拡がったのを確認してから、岩泉は自分の性器を割れ目にあてがった。 「痛かったらちゃんと言えよ。俺は別にSじゃねえから、お前が痛がっても喜ばねえぞ」 頷いた京谷は、どこか不安そうな顔をしていた。初めてそこに人の性器を受け入れるのだ。そんな顔をするのも無理はない。大丈夫だと言い聞かせるように額にキスを落とし、頭を撫でてやってから、腰を押し進める。 「あっ……」 早く突っ込んでしまいたい衝動を堪えて解したおかげで、抵抗は少なかった。亀頭が完全に埋まっても京谷は痛いとも言わず、またそんな顔もしない。けれど慎重になることは忘れずゆっくりと京谷の中に入り込んでいく。 「おし、全部入った」 言った途端に、京谷の顔がぼっと赤くなる。 「おい、今更何赤くなってんだよ。ここまでも散々いやらしいことしただろうが」 「だ、だって岩泉さんのがオレの中に……入れるのと違って、なんかすげえ恥ずいんすけどっ」 初心な反応も可愛いなと思いながら、岩泉は京谷の唇にキスをした。 「本当に俺に処女を捧げてよかったのかよ? 突っ込んだあとに訊くのもあれだけど」 「オレは……もしそこを赦せる相手がいるとしたら、今は岩泉さんだけっすよ。岩泉さん以外には絶対入れさせねえ。岩泉さんだけがオレの特別っす」 「はは、それじゃまるで告白だな」 「す、すいません……」 「別に謝ることねえよ。そういうふうに言われて喜ばねえタチなんかいねえだろ」 実際岩泉は嬉しかったし、だからこそ京谷に優しくしてやろうと思えた。 「そろそろ動くぞ」 はい、とか細くなった声が返事をする。 ゆっくりと引くと、京谷の蕾がギュッと締まった。まるで喰いついて離さないようだ。内襞が絡みついてくる感触を味わいながら、再び根元まで収める。それを何度か繰り返して、そこが岩泉の性器の大きさに馴染むのを待ってから、少しずつ動きを速めていった。 「あっ!」 さっき指で弄り回した場所を突き上げると、京谷の喉の奥から掠れた声が漏れた。腰を動かしながら、京谷の中に飲み込まれ、そして吐き出される自分の性器を岩泉は凝視した。こんな小さな尻が自分を咥え込んでいるのを不思議に感じると同時に、未開だったそこを自分が一番に征服したのかと思うと堪らなく興奮した。 「ああっ、あっ……んあぁ」 受け入れる側の経験のない京谷が、果たして気持ちよくなってくれるのかどうか初めは心配だった。けれど始まってみればこれだ。京谷は岩泉を咥え込み、そして気持ちよさそうに声を上げている。 「どうだよ、入れられてみた感想は」 「い、岩泉さんの、硬くてっ……奥すげえ気持ちいいっす」 「ホントに初めてなのか? 嘘ついてんじゃねえだろうな?」 「嘘なんか、ついてないっすよ……っ、岩泉さん以外には絶対入れさせねえって、さっき言ったでしょ。あっ!」 奥を突き上げ、腰を回し、思うがままに京谷の身体を蹂躙する。繋がった場所が熱い。その熱に溶かされるのではないかという錯覚に陥りながら、もっと気持ちよくしてやろうと蜜を垂らした彼の性器を扱く。 「あんっ……駄目、岩泉さんっ、それ駄目っすよ」 「何が駄目なんだよ? 気持ちいいんじゃねえのかよ?」 「気持ちいい、けど……それされると頭真っ白になって、すげえやばいっす」 言いながら京谷は岩泉の頭をかき抱き、唇を寄せてくる。柄の悪い見た目に反して可愛いことをするものだと愛おしくなりながら、焦らすこともせずそのキスに答えてやった。 こんなに興奮するセックスは久しぶりかもしれない。京谷には岩泉をひどく欲情させる何かがある。もちろん顔や身体が好みのタイプに合致しているのも理由の一つなのだろうが、ふとした瞬間の仕草や反応にひどく煽られた。 舌を絡める大人のキスで互いの焼けるような欲望を確かめ合い、力強く突き上げて高みを目指す。 「あ、んっ、あぁ……あっ」 激しい動きに京谷は嬌声を上げ続けた。岩泉のリズミカルな動きに合わせて、中もギュ、ギュと呼吸をするように締めつけてくる。その感触は岩泉を着実に限界へ追い詰めてくる。 「京谷っ……イけそうか?」 「オレもうっ、すぐイっちまいそうっす」 「俺もイっちまいそうだ。だから一緒にイこうぜ」 奥深く貫き、激しく突き上げ、我を失いつつある京谷を抱きしめながらいやらしく腰を使った。もう我慢はできない。痺れるような快感は、もうすぐそこまで押し寄せていた。 「京谷っ、中に出すぞ」 「いいっすよ、岩泉さんっ……全部、オレん中、出してくださいっ」 「くそっ……イくっ」 「オレもイく、あっ、あんっ、ああっ!」 達したのはほぼ同時だった。京谷が身体を小さく痙攣させながら白濁を放つと岩泉も限界を迎え、たっぷりと奥を濡らしてやった。 「京谷、大丈夫だったか?」 肩で息をしながら、岩泉は京谷の顔を窺った。 「大丈夫っす……。気持ちよすぎて一瞬意識飛びました」 「俺もだ……。お前ん中すげえ気持ちよかったぞ」 短い髪を梳くように撫でてやり、額に柔らかく口づける。 「身体拭いたら風呂行くか」 「うっす。でもちょっとだけ休憩させてください」 岩泉は京谷の身体から自身をゆっくりと引き抜き、隣に寝転がる。そのまま散々弄んだ身体を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。 |