中編
少し頼りなさそうな笑みを浮かべたエイトは、きっとキングの中に渦巻く下心には気づいていまい。そしてこれからやろうとしていることが、どれだけ卑猥なことかわかっていないだろう。
しかしその半面で、これはエイト本人のためでもあるのだ。十四歳にもなれば自慰行為など当たり前のようにやる。キングだってそうだったし、周りの男子たちもきっと同じようなものだろう。そんな中で彼だけ自慰行為をしたことがないどころか、それ自体がどういうものなのかわからないというのは、あまりにも不憫である。
――そう自分に言い聞かせて、キングはエイトの身体に覆い被さった布団をベッドの脇に追いやった。
「とりあえず、ズボンとパンツを脱げ」
「え……なぜ?」
「なぜって……脱がないとちゃんと教えられない」
嫌そうな顔をするのもわからなくない。思春期を迎えた少年の性器にはあらゆる変化が表れる。たとえば陰毛が生えてきたり、サイズが大きくなってきたり、人それぞれに違いはあれど、必ず表れるものだ。それを恥ずかしいと捉える者もいれば、キングのように堂々としている者もいる。エイトの場合はおそらく前者なのだろう。
「それともまた下着を汚すのか?」
だが、そんな気持ちを知りながらもキングはエイトを追い詰める。
「それは……嫌だな」
「だろう? それにそこを見たって誰かに言ったりしない」
「本当に?」
不安そうな面持ちで見上げてきたエイトに、キングは頷いてみせた。
「本当だ。俺がお前に嘘をついたことなんかないだろう?」
「ない……と思う。でも一応指切りしておきたい」
そう言って先程キングの手を自らの中心部まで導いたエイトの手が、小指を突き出してくる。キングはそれに自分の小指を絡ませ、指切った、と短く告げた。
「じゃあ、脱ぐ」
「上も脱ぐんだぞ。汚れるといけないから」
「上もなのか!? それはさすがに恥ずかしいぞ……」
「じゃあオナニー教えてやらない」
ちょっとした意地悪を口にしてみれば、エイトはムッとしたように下を向いて、
「わかった。脱げばいいんだろう」
そう言い放った。
まずは上に着ているTシャツを脱ぐ。露わになった上半身はキングが想像していたよりもずっと華奢で、本当に同じ男かと疑いたくなった。
下を脱ぐときはさすがに恥ずかしいのか壁のほうを向いたエイトが、キングの視線に気づいて怪訝そうに顔をしかめた。
「そんなに見るなよ」
「すまん。だが、どのみち見せてくれないと教えようがない」
「だからってそんなにじっと見てなくてもいいだろう……」
ハーフパンツと下着、一緒に脱げばいいものをエイトはわざわざ一枚ずつ足を抜いていく。地味な柄のトランクスに手をかけたときはまたこちらの視線を気にし、しかしキングのそれが微動だにしないとわかると、諦めて最後の一枚を脱ぎ捨てる。
壁際を向いているから最初に形のいい尻が目に入った。産毛さえない綺麗な尻は撫で心地がよさそうだ。危うく手を伸ばしかけたのをなんとか堪え、それを誤魔化すように咳払いする。
「なあエイト、ケツじゃなくて前を見せてくれないと先に進めない」
「わかってる……」
そう言いながらもなかなかこちらに身体を向けてくれない彼に、イラつくようなことはない。むしろ意地らしくて可愛いな、と思いながら素直になってくれるのを待つことにした。
「なあ、キングも脱げよ。それならオレもそっち向くから」
「なんでオレが脱がなければならん」
「だってずるいだろ? オレだけ裸でキングは余裕でそれを眺めてるって」
どこまで意地らしいんだ。まあ、自分が脱ぐことでエイトが裸を見せやすくなるのならそれでいい。
「わかった。俺も脱ぐ」
エイトと違って、キングは人前で裸になることに特に恥じらいなど感じない。もちろん公衆の面前や女性の目のあるところでは御免だが、幼い頃から親しくしてきた同性の前となると何一つ恥じる要素などないだろう。
まずはマントをするりと抜き取ると、ぱぱっと上に着ているものを脱いでいく。元々制服はきっちり着ているほうではないので、脱ぐのに時間はかからない。エイトがその気配に気づいてこちらを向いたときには、すでにズボンのベルトに手をかけているところだった。
炎の色をした瞳が、食い入るようにこちらを見ている。それを感じて少しばかり興奮している自分は変態だな、などと思いながら、いよいよ最後の一枚である下着を脱ぎ捨てた。
「ほら、脱いだぞ」
生まれたままの自分の姿を、どこも隠すことなく曝け出す。エイトはしばらくの間それを呆然と眺めていたが、何か覚悟を決めたように息を吐いて、身体をこちらに向けてきた。
下腹部には彼の髪の毛と同じ色の茂みが薄っすらと生え、その更に下にはまだ皮を被った男性器がふてぶてしくぶら下がっている。どうやら本人と一緒でまだまだ成長途中らしい。
「なんか、オレのと違うな……」
「皮のことか? それもあとから教える。とりあえずオナニーからだ。仰向けになってみろ」
「うん」
再びベッドに横たわったエイトのそばにキングは膝をつく。そしておもむろに、大胆に、無遠慮に、彼の性器を握ってみた。
「なっ!? なんで、触るんだ!?」
「触らないとオナニーにならないからな。嫌かもしれないが、少し我慢しろ」
驚きはしたようだが、抵抗するつもりはないらしい。
「こうやって、手で扱くんだ。そしたら段々と気持ちよくなってくるはずだ」
自分の言葉のとおりにエイトの性器を上下に扱いて、まだふにゃりと柔らかいそれが元気になるのを待つ。勃起したら一体どれくらいの大きさになるのだろう? 皮は被ったままなのだろうか? そんなことを考えていると彼のモノより先に自分のモノのほうが元気になってしまいそうで、必死に別のことを考えようとする。だが、手の中で徐々に硬さを増すエイト自身の熱を感じていると、どうしようもなく興奮するのを抑えられなかった。
「キングの、なんででかくなってるんだ?」
「いやらしいことを考えたりすると勃つってカズサ先生に習っただろう? つまりはそういうことさ。それにお前のだってこんなに硬くなってる」
勃起してみれば、小ぶりだと思っていたそれは思っていたよりも太かった。握った手の感覚でも、キングのより太さがあるように感じられる。
吐かれる息が徐々に荒くなってきた。あどけなさの残る顔立ちは切なげに眉をひそめ、感じているのだと教えてくれる。
「どうだ? 気持ちよくなってきただろう?」
「ああ……なんか、変な感じだ」
上擦った声が可愛い。吐息に混じってときどき漏れる小さな喘ぎ声も可愛い。上下に揺れる、薄っすら割れた腹筋さえなんだか愛おしく感じてしまう。
そんな彼に――いや、誰にも抱いたことのない感情が、このたった数分のうちに沸き起こって、溢れ出す。自分でもそれがなぜなのかわからないが、そんなことはどうでもよかった。
とにかく彼をイかせてあげたい。最高に気持ちいい思いをしてほしい。
「ひぁっ!」
いままでずっと皮に包まれていたせいか、エイトの亀頭は直の刺激に弱いらしく、指の腹で擦ると細い身体が跳ね上がった。
「キングっ……それ、やめろよ! 腰抜けるっ」
溢れ出した先走りの蜜のおかげで滑りがよくなる。それがどうしようもなく気持ちいいとキングは知っているから、そこを弄る手を休めたりしない。
気づけば自分の性器からも透明な液体が滴り落ちている。触ってもいないのにそんな状態になっているなんて、たいがい変態だなと心の中で自嘲した。
(だが、こんな顔見せられたらこうなってしまうだろう……)
最初に感じていた恥じらいも、もう忘れてしまっているだろう。いまは自分の分身に与えられる快感に意識が飲まれてしまっているはずだ。
何かに耐えるように細められた瞳。つるりと滑らかな頬。幼いはずの顔立ちがいまは妙に色っぽくて、普段とのギャップにますます興奮した。
「ぁっ……なんか出そうっ」
「そのまま出してみろ。最高に気持ちいいから」
透明だった先走りの蜜に少しだけ白い液が混ざり始めていた。台詞のとおり、絶頂が近いのだろう。だからキングは性器を扱く手を速めた。
「あっ、キング――ああっ!」
そして一際大きな声を上げた瞬間、エイトのそこから白い液体が飛び散った。キングが予想していたよりも量が多く、白濁は彼の胸や腹、肩までもべっとり濡らした。
「……これが射精だ。こんな感じでオナニーを定期的にしていれば、下着を濡らしてしまうこともなくなる」
そんな冷静な台詞を口にしつつも、本当はエイトの身体に飛びつきたくて堪らなかった。だがそればかりは彼との間にある大切な繋がりを失ってしまいそうで、グッと心の奥に押し込んでおいた。
気が変わってしまわないうちに、膨らみきった自分のそれを下着に押し込み、脱ぎ捨てた衣類を急いで身に着ける。
「それから皮は常に剥いておくんだぞ。風呂に入るときはそこをよく洗うんだ。――それじゃ、俺は授業に戻る」
「キング!」
何か言いかけたエイトの声も無視して、キングは逃げるように彼の部屋を飛び出した。
続く……
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