14. 深まる愛と意識
レックスが軽く触れていた硬く太いものの先端を指先で擦ると、切ない喘ぎがラスラの口から漏れた。にわかに赤らんだ頬をもう片方の手で優しく撫で、しかしもう片方の手はピアニストめいた繊細な指捌きでラスラを快感の渦へと巻き込んでいく。
「うっ……くわっ……ぁぁ」
ヒクヒクと動くラスラの肉棒を今度は上下に扱きつつ、視線はしっかりと気持ちよさそうに喘ぐ彼の顔を捉えていた。
細やかな刺激に顔を歪ませる様子すら美しく見えてしまうのは、おそらくこの世の中で彼くらいのものだろう。そんな人間を自分の恋人にできた己がどれだけ幸福か、今更のように実感した。
ねっとりとしたものが手に触れた。見ると、ラスラ自身の先端からわずかに溢れた先走りの蜜が、上下に扱いていたレックスの手を濡らしている。
そしてレックスは、蜜に濡れつつあるそれを口に含んだ。
「っ!」
瞬間、細められていたラスラの目がめいいっぱいに見開かれ、白くて大きな手がレックスの顔を肉棒から引き剥がそうとする。
「レックスっ! そんなところ舐めては駄目だ」
「どうして?」
そう訊ねられる自分が少し不思議で、しかしきっとそれが好きな人のものだから平気で口に含めるのだと納得した。
「大丈夫、だから」
「――ぁはっ……」
これ以上反論させまえと、舌先を先端の窪みに押し付け、そして細かく動かすとラスラの頭は枕に戻る。
「ふっ……いやぁっ……うんっ……」
溢れていた蜜の味は、雨のそれに少し似ている気がした。
剥けた部分を綺麗に舐め上げ、全体を口に含んで上下に動くと、ラスラの喘ぎはいっそう激しくなる。
「レックスっ……もっ、いいから……これ以上っ、したら……ぁっ!」
じゅる、とわざといやらしい音を立てて吸い付くと、悲鳴めいた声が上がった。ちゃんと聞き取れたはずの懇願も聞こえぬふりをして、ただひたすらにラスラの性器を口で攻め、そろそろ彼も限界かと感じた頃にようやく解放する。
正直なところ、自分も限界が近かった。すべてを吐き出したい、という欲望を抑えていた理性の限界が――。
「レックス……」
弱った声を漏らしたラスラの口に自分の唇を重ね、頬を伝う涙を拭ってやった。
「今度こそ終わり?」
「まだ、だよ。最後の仕上げ」
不安そうにこちらを見上げた彼の頭を撫でて、額に口付ける。
密かに重ね合わせた自分の欲望と、ラスラの肉棒。まるで今の自分たちのようで少し恥ずかしい気もしたが、それも今更だ。
ゆっくりと擦り合わせると、それだけでラスラの身体がぴくりと跳ね上がる。そのまま何度かぐりぐりと動かすと、ラスラの目が切なげに細められて、安定しつつあった呼吸が再び乱れ始めた。
「……はっ、あんっ……」
切らした息の合間から快感に満ちた声が漏れて、それがレックスに堪らない欲望を呼び覚まさせる。
局部に腰を叩きつけ、二人の肉棒が激しく接触し合う。もちろん一撃では物足りなくて、卑猥なその動きを何度も繰り返した。
「ぁんっ……ぁぁっ……いっ」
ラスラの甘い喘ぎ声が頂点へ達したい衝動を破壊的なまでに高める。繰り返されるピストンもそれに比例して速まって、頂点への道のりを徐々に縮めていった。
治まっていた涙が再びラスラの瞳から零れ出すと少し罪悪感が圧し掛かってきて、それでも彼が嫌がった様子を見せないからやめられない。――いや、喩えやめてほしいと懇願されても、ここまで来たらもうやめられなかったろう。愛する者と身体を重ね、官能の世界へ誘い込んで、中途半端にやめてしまえば二人の関係自体がぐらついてしまう気さえした。
何より、行為を最後まですることによってラスラとの愛がよりいっそう深まるのではないか、という勝手だがレックスにとっては重要な思いがすべてを動かしているのだった。
「もっ、だめぇ……っ、ぁ」
ラスラの声と、ぱんぱん、という肌がぶつかり合う音がホテルの一室に響き渡る。一刻も早く楽になりたいのか、ラスラはレックスが腰を打ちつけるのに合わせて自らも腰を上下に動かし始めた。
乱れた姿すら美しく見えてしまうラスラが羨ましくて、しかしそれ以上に愛おしいと感じてしまうのは決しておかしなことではない。それが、彼に対する愛情の大きさだから。
「レックスぅ……ぁんっ……早くっ」
「すぐ楽にしてあげるからっ、待って」
解放してほしい、とねだるラスラに、宥めるように口付けて律動をいっそう速めると、強くなった刺激にぐっと頂点が近くなる。
自慰では味わうことのできない、快感の共有。自分だけでなく、誰かとともに絶頂へと歩んでいるのかと思うと、満足感さえも覚えてしまう。だがそれだけでは満足できないのが、人間の性欲というものだ。最後にそこへ達しなければ意味がない。
「うはぁ……でっ、るっ……ぁんっ!」
白く生温かい液体が、ラスラのモノから射出された。勢いよく飛び出たそれは彼の胸まで飛び散って、あとは先端から緩やかに流れ出る。
「はっ……くっ!」
そしてすぐにレックスも快感の頂点へ達して、欲望のすべてをラスラの腹の上に吐き出した。
ヌルヌルと滑った先端を彼の先端に押し付け、二人の愛が深く繋がったことを示すようにそれを擦り合わせる。
「レックス……キス」
力のない声で願いを告げたラスラは、目が合うとにこりと微笑んで、キスを待つように目を閉じた。
そして要望どおりにそれを交わす。甘くて、濃厚な恋人同士のキスを――。
彼と初めて出逢ってから約一週間、あまりにも早すぎる経験は二人の間に存在する愛を加熱させた気がした。射精の快感と同時に、心を満たしたものこそが二人にとってとても大事なものであり、そしてこれからも大事にして生きていかなければならない。
レックスは抱きつくようにラスラの胸へ倒れこんで、荒くなった息を落ち着かせようとする。
初めてのセックスは想像以上に体力を消耗した。そのせいか、心地よい倦怠感が全身にまとわりついて、睡魔が眠りの世界へ誘い込もうとしている。
「ねぇ、ラスラ……俺のこと、本当に好き?」
答えは分かっているのに、朦朧としてきた意識の中で彼にそう訊ねてしまう。だが反面、もしかしたら予想とは違う答えが返ってくるかもしれない、と疑っている自分がいることをレックスは知っていた。
「好きに決まっているじゃないか」
「……よかった」
もう限界だ。意識が睡魔に侵され、全身へ送られる信号が消えようとしている。
「次にするときは、覚悟しておいてくれ」
最後にラスラの強気な声を聞いて、レックスは重い瞼を閉ざした。