十一章  ブリッツ開幕


『――さぁ、やってきました! 第二十二回、ブリッツボールネクト地区大会! 毎年ネクト地区の強豪チームが集い、壮絶なる闘いが繰り広げられる熱い、もうそりゃ熱い大会だ〜! しかし残念なことに、今年はグラード、ロークス、マシナ、レイザン、スローク、オクトールの六チームが欠場してしまいました。選手たちの間で謎の病気が流行ってしまったようです。よって、今年の参加チームは最強のブリッツチーム“ダイナブ”と、最弱チーム“ミステイク”だけになってしまったー!』

 リンドブルムはネクト地区、ネイブンという小さな町。普段は静けさに包まれた穏便な町なのだが、この日だけは大いに盛り上がっていた。
 港にはたくさんの船。最寄りの空港にはたくさんの飛空艇。駐車場はすでに満車。そして街にはたくさんの人。


 ――年に一度の祭典、ブリッツボールネクト地区大会。


 地区大会にも関わらず人の数は凄い。これはリンドブルムの国体とほぼ同じ賑わいである。というのも、ネクト地区にはダイナブを中心とした強豪チームがそろっており、毎年大接戦を見せてくれるからだ。



 海岸に隣接されたブリッツスタジアムにもぞろぞろと人々が押し寄せていた。
 最大収容人数三万人。しかしスタジアムにはそれを上回る数の人間が集結し、通路にも人が溢れている。

「――すっごいねぇ」

 ミステイクの選手控え室で、ユウナは観客席が映し出されたモニターをじっと見つめていた。
 観客は多いぞ、とは聞いていたもののここまで多いとはさすがに思っていなかった。人…人…人…。人以外に何も見えない状態の観客席を見ていると、緊張感が高まってしまう。

「そう硬くならないで」

 フードを被ったラスティルが肩に手を載せてきた。

「いつもどおりでいいんだよ」

 フードのせいでよく見えないが、彼は微笑んでいるようだった。

「そろそろ開会式だから、皆さん移動しましょう。二チームだけですが、例年通りスフィアプールを行進一周、その後主催者や来賓の方々の挨拶がって、フリータイムだそうです」

 その流れは体育祭と似ているな、とユウナは心中で呟いた。



 スタジアムのフロア入り口。諸事情により参加チームが二チームとなったようだが、それはそれでミステイクにとってはよいと言える。というか、一回戦にして決勝という事態が素晴らしくて堪らなかった。負けても無条件で二位の称号と賞金等がもらえるというのも、素晴らしすぎて笑いが止まらなかった……というのは嘘で、今回負ければ参加賞と大きな悔いのみお持ち帰りとなってしまうらしい。
 ドーン、と盛大に花火が打ち上げられ、ブリッツ開幕のファンファーレが楽団によって演奏された。そして入り口のシャッターがゆっくりと開く。

『選手の入場です! 皆さん、盛大な拍手で迎えてあげましょう!』

 男気の入ったアナウンサーの声に、会場がざわめきと拍手で応えた。
 気後れしそうなほどの熱気と完成が四方八方から降りかかってくる。同じほうの手と足が一緒に動きそうで怖い。
 ダイナブが先に入場し、その数メートル後ろをミステイクが行進する。

『最初に入場してきたのはブリッツ界では最強と呼ばれているチーム、ダイナブだ! 昨年の地区大会では優勝。そしてリンドブルム国体でも優勝。まさに神! ――続いて入場してきたのは、ウルトラ弱小チーム、ミステイク! チーム名からしてもう駄目駄目。成績ももちろん駄目駄目。ダイナブに敵うわけもなく無残に散ってしまうことでしょう』


 +++


「――ねぇ、ティーダ」

 ユウナの声には何処か棘のようなものが含まれていた。

「あのアナウンサー殴ってきてもいいかな?」
「いや、駄目だと思う」


 +++


『欠場が多く、しかも力に圧倒的な差があるこの二チームがが残ってしまったことで、いい勝負は期待できませんが、応援を頑張ろう!』
『イェーイ!!』

 考えるまでもなく、ダイナブを応援するものが多いだろう。果たしてこんなにボロクソ言われた我らはミステイクを応援する慈悲の念が強いものなどいるだろうか……。次回へ続く!……というのはまったくの嘘だが。
 よくよく見回してみると“Mistake fight”と書かれたフラッグを持っている人だっているし、ミステイクの選手の名を呼ぶ者だっていた。

『ユウナちゃ〜ん!!』

 と聞こえたのはユウナの妄想の世界の話だが。
 スフィアプールを一周した後、主催者や来賓の人間の長々しい挨拶があった。もうどうでもいいじゃないか、ということばかり話している主催者を尻目に、ユウナは隣に並ぶダイナブの、メンバーを見ていた。
 全員男性。しかも大柄でいかにも力強そうだ。泳ぎだって速いに違いない。
フリータイムは十分間。終われば即試合らしい。休む暇も、また相手を観照する暇もない。作戦は……立てても意味がない、という結論に至った。

『ダイナブのエース、ライディーン選手のウルトラミラクスシュートは飛び出すのでしょうか? 乞うご期待!』

 フリータイムの間も、アナウンサーの呟きは流れ続けていた。それがすべてダイナブへの期待だということが誠に腹立たしい。ミステイクはボロクソ言われてばかりである。

『対して最弱チーム、ミステイクはどう応戦するのでしょうか? やはりレベルの差を見せつけられるのか、それとも納豆のように粘って粘って粘るのか!?』

 ダイナブが強いというのは嫌というほど聞かされていたが、ユウナは負けるとは思っていない。ミステイクだってそれなりの実力者がいるのだし、頼れるエースだっている。それにユウナ自身もそれ相当の実力者だ。

 ――頑張れば、きっと……。

 何事も努力次第だ、と担任のフレイアはよく言っていたものだ。その言葉を信じよう。



『さぁ! ついに始まります! ブリッツボール地区大会、ダイナブとミステイクの一騎打ち! 最強チームと最弱チームの対戦だからヒートは期待できませんが、ミステイクが何処まで食いつくかが見所です!』

 ユウナの緊張感はいつの間にか薄れていた。大勢の観衆に囲まれているという感覚もない。今はやるべきことはやればいいのだ。
 プールに入り、相手の選手と握手を交わして各ポジションにつく。

 青く澄んだ大空に、けたたましく花火が打ち上げられた。


――Blitz off


ダイナブからのボールスタートだ。
MF(センター)がボールをキャッチし、即座にLF(前列左)にパス。マークについている者も追いつけない速さだった。
ボールは瞬く間に敵のLF、RF(前列右)、MF、と回されて、最後にボールが回ったLFはシュートの構えを取っていた。

『高速パス回しに手も足も出ないミステイク! このままシュートを打たれてしまうのでしょうか〜?』

 敵のLFとゴールとの距離は僅か三メートル。しかしその前には三人のブロッカー。
 ――と、LFがボールを真上へ投げた。刹那、付近に待機していたMFが糸が切れたように猛スピードでボールを追って、キャッチに成功した刹那にシュートを放った。

『ゴール!! 開始三十秒にしてダイナブのエルリー選手が速攻を決めた!』

 パス、一つ一つの行動、そしてシュート。三つとも隙のないスピードで、かつ正確だった。


 0対1  残り時間 四分三十秒


 次はミステイクからのボールスタートだ。
 ティーダがボールを持って泳ぐ。敵のMFマークはついて来られていない。昨年緒ネクト地区大会では最速水泳賞に選ばれたくらいだから、当然といえば当然のことなのだが。そうでなければ……いや、これはティーダのために言わないでおこう。
 ティーダはあっという間にゴールまでの距離を詰めて、

『ここでミステイクのエース、ティーダ選手がスフィアシュート!! しかーし、キーパーに難なくカットされ、ボール維持権はダイナブに移ったぞ』

 そしてまった、ダイナブ得意の高速パスマワシが始まってしまった。そうなればミステイクに打つ手はない。どんなに素早く反応しても、相手はこちらの行動を完全に読んでいるから……。
 ボールはプールの上部に飛んでいき、待ち構えていたMFにシュートを打たれてしまった。遠距離からのシュートだというのにボールの速度は衰えることなく、キッパが塞いでいるゴールへと一直線だ。キッパはあまりの速さに追いつけず、ボールをスルーしてしまった。


 0vs2  残り時間 二分二十三秒


あちらにボールが回れば確実に点を奪われてしまう。だからミステイクには隙のない早くて正確なパス回しが要される。そして、カットされないくらいの強いシュート。
 相手にボールが回ってしまった場合の対抗策も要される。何処に投げるのか読めない行動、誰にも取らせない剛球パス。気づかれないよう、さり気なくマークに周り、その者にボールが来たときを狙うのはどうだろう?

 ボールスタート。
 ユウナは自分の正面にいる敵方のRFの増したに停滞することにした。
 ティーダが先ほどと同じようにゴールへ向かって泳ぐ。前方にはガード三人。突破するのは難しい。シュートを打っても取られてしまうだろう。
RFのラスティルにパス。右斜め一直線上に障害物は一切ないため、ボールは無事にラスティルの元へと渡った。――刹那、横方からの激しいタックルを受けてしまい、ボールを手放してしまった。こぼれ球を敵が拾う。そしてレーザービーム的な剛球パスが、RFに向かって放たれた。

――キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

ユウナがマークしていたポジションにパスがキタ……じゃない、来た。
ボールを奪ってやろうと、ユウナはすぐに上昇した。







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