鳥のさえずりがこだまする朝、けたたましい目覚まし時計の音で少女――ユウナは目を覚ました。だるい身体を
ゆっくりと起こし、そばにある時計のスイッチを押す。ついで時刻を確認するが、その瞬間にユウナは目を見開くことになった。

「八時五十分!?」

 ユウナの通う高校は九時までに登校しなければならない。遅刻はもちろんマイナス点で、多ければ成績や進路に大きな悪影響を及ぼす。
 過去に幾度となく遅刻を重ねたユウナにこれ以上のそれは許されない。
 即刻即行俊足で身支度を済ませ、部屋を出てすぐの階段を駆け下りた。

「――あら。今起こしに行こうと思ってたのに」

 一階の床に着地したと同時にすぐそばから母の暢気のんきな声がかかった。

「遅いよ」
「ごめんね〜。私もうっかりしてて」

 そのうっかりしたところをユウナが引き継いでしまったのは、こうして目覚ましのセットを間違えて遅刻のピンチに陥っている事実がはっきりと証明している。

「そういえば、今日は文化祭じゃなかったっけ?」
「そうだよ」
「ユウナ、歌うんだよね?」

 うん、と頷いたときにはすでに玄関で靴を履き終えている。

「母さん見に行くから、頑張ってね」

 母の笑顔に見送られてユウナは家を後にした。














ユウナ日記最終部


















ひまわりの記憶






















 季節は紅葉がちらほらと目にかかる頃、少し冷たい風が吹く今日は晴天の秋空が広がっている。だが、そんな秋の景色を眺めている暇などユウナにはない。

 ――八時五十五分

 携帯で時刻を気にしながらとにかく走る。
 学校までの距離は一.五キロほど。その距離を五分で完走するのは体力には自信のあるユウナでもキツ
い。

「――あら、ユウナさんまた遅刻?」

 このくそ忙しいときに大よそそぐわぬ暢気な声がしたのは、ユウナが線路沿いの細い道に入ったときだった。

「トゥリープ先生」

 振り返った先、金髪の美女――どこかで見た尼僧によく似た女性がユウナと同じように走っている。


「先生も遅刻ですか〜?」

 そうよ、と金髪の美女――ユウナのクラスの担任であるキスティス・トゥリープは頷いた。

「昨日バーで飲みすぎちゃって……見事に二日酔いよ」

「また男の人探してたんですか? でも、また声をかけられなかったとか……」
「あら、失礼しちゃう。昨日若い子に声かけられたのよ。それで、付き合いましょってことになったの」

 それは珍しいことではあるが、決しておかしなことではない。キスティスは折り紙つきの美人だし、性格も落ち着いた感じで男なら誰もがかれそうだ。生徒の中にも彼女にぞっこんな男子がいるくらいなのだから。

「ところでユウナさん、このままじゃ遅刻決定なんだけど……。やっぱりあの方法・・・・しかないのかしら?」
「そう、ですね」

 ユウナは苦笑する。――低い汽笛の音がしたのはそのときだった。
 ユウナの左手、線路の上を貨物列車が汽笛を鳴らしながら通り過ぎようとしている。先頭車両が通り過ぎたと同時に、ユウナとキスティスは線路内に侵入。後ろに連なる数々の貨物車の中から一つを選び、脇についた小さな梯子はしごを掴んで一気に登り上がった。

「ふう……」
「はあ……」

 二者二様に溜息をつき、空きスペースにそろって座る。
 アンダスティル総合高校まで、もうすぐだ。


 +++


 ――観客はみんなかぼちゃだ……いや、ミートボールだ。

 謎の呪文を心中で唱えながらユウナは再度深呼吸する。
 目前に迫る自分の出番に緊張は高ぶるばかりだった。鼓動は不安定なリズムを刻み、手足がわずかに震えているのが分かる。
 ステージの袖から見える観客席は空きもなく人で埋め尽くされていた。文化祭のメインイベントとも言える午後のフリータイムには何かしら売店を開いていた生徒たちも一旦手を止め、同じ生徒のバンドや芸を見に来るのである。あがり性が取り付くユウナにとっては過酷なものであった。

『続いては、三年G組のユウナさんです!』

 司会の生徒に呼ばれて一瞬ビクッとなる。湧き上がった拍手がユウナの緊張を更に高めた。

「――ユウナさん」

 唐突にかけられたその声は、救いの天使のものにさえ思えた。振り返ると、眼鏡をかけた男子生徒――ユウナの想い人である者が穏和な微笑を浮かべて立っている。

「大丈夫。僕も一緒ですから」

 彼にはピアノを弾いてもらうことになっていた。独学で得た腕らしいが初めて演奏を聴いたときはあまりの上手さに驚いたものである。
 今回のバック演奏もすぐに覚えてくれ、不安材料は何もない。あとは自分――
 ユウナは、一歩足を踏み出した。
 ステージの袖からは観客一人一人の顔がよく見えたものだが、ステージ中央からだとあちらは真っ暗でよく見えない。それがユウナの緊張を和らげた。

「――今年の夏はちょっと変わった夏でした」

 ユウナがマイク向かって声を出すと、鳴り響いていた拍手がいっせいに止み、静かな空気が舞い降りた。

「誰も信じてくれないかもしれないけど、ここではないどこかに行って、いろんな人と出会いました。その人たちはみんな、私に大切なことを教えてくれました。誰かのために頑張ること、失った悲しみをいつまでも引きずらないこと、そして、大切な人を守り抜くこと。――あなたの大切な人を守ってあげてください。そして、いつまでもそばにいてください。それが一番幸せなことで、生きる強さになるから。でも守らなきゃいけないのはその人だけじゃない。世界のすべてを守ってください。――この世界に大切じゃないものなんかないから」


 ――そうだよね、お父さん?









 あなたはそこで囁く
 ひまわりに囲まれた記憶の場所で
 私に微笑みかけながら

 だけどその言葉は
 旋風に吹き飛ばされて
 暗黒の海の底へ沈んでいった

 もしもあのとき あなたの言葉を聞けたなら
 私はあなたを止めることができた?

 一人で立ち去るあなたに
 行かないでと言えた?


 銀翼を羽ばたかせて見下ろす世界
 星のように輝いて見えるのはそれがすべて大切だから
 あなたにそれを伝えてあげられたなら
 二人は幸せになれたかもしれない


 あなたはそこで微笑む
 青空が広がる記憶の場所で
 私をじっと見つめたまま

 だけどその微笑みは
 どことなく悲しそうで
 私はとても不安になった

 もしもあのとき あなたに理由を訊ねていたなら
 私はあなたに微笑み返すことができた?

 今にも涙を流しそうなあなたに
 大丈夫だよと言えた?


 一陣の風に乗って見下ろす世界
 隙間もなく輝いて見えるのはすべて大切だから
 あなたもきっとあのどこかに
 大切なものの中にいる

 あなたが世界を滅ぼすというのなら
 私は銀翼を羽ばたかせてあなたの元に行く
 そしてあのとき聞けなかった言葉を
 訊ねるだろう


 今度こそあなたに微笑み返して
 二人は幸せに向かって歩き出す
 
 繋がれた手は温もりを生み
 愛を現実にしてくれる











★Thank you for how you liked it★


セルク

???

iris

焔色の髪の男

???? / 黄昏



スリラン

ベールゼブブ

蛍光

エイブスエース

color / 葵

水無瀬

マー坊

FF-3367 / 一治苦 駿

西野るみか

蛇鴫☆麟

フィーネ / 信天翁

ヤマト

白銀 / 白騎士

ask

将来画家になる私。/ 龍希

Tuboku

ガーダ

フードの…

トンベリ / 風陣

ロータス

露草 双樹

りあ

ガフガリ君

草木風花

執事


(敬称略)







★First reader★


セルク



(敬称略)








★Guest character★


テュール / K.Y

クルド / K.M

リュード / K.D

フィディス / 信天翁

デリア / 信天翁

クレルム / セルク



(敬称略)










★The song★


【ひまわりの記憶】

作詞 魔術師
作曲 Y










感想を下さった方々、そしてひっそり読んでくださっていた方々、本当にありがとうございました。
皆様のおかげあってこの物語を書ききることができたのです。


By. 魔術師






――THE END――





inserted by FC2 system