中学二年の頃の話だ。

 あの頃の小堀はまだいまほど身長が高くなくて、確か百八十センチもないくらいだったと思う。まあ、それでも同年代の男の中では高いほうだったが、顔立ちはその身長に似つかわしくない、あどけない感じだった。
 性格はいまとほとんど変わらない。優しくて、頼りがいがあって、どこか天然なところのある憎めないやつ。

 俺――笠松幸男はそんな小堀が好きだった。ただの友達としてってだけじゃなくて、恋愛的な意味も含めてだ。

 中学二年といえばエロいことに強い関心を抱く時期だろう。俺もそうは見られないらしいが、年相応にそういったものへの興味はあった。それで本やネットでこそっと調べては、男同士でのセックスについて知識を身に付けていたわけである。そして知識を身に付けながら、小堀とこんなことをしてみたいと毎日思うようになっていた。
 もちろん、それが実現できる可能性は限りなくゼロに近いだろう。それは頭の中でちゃんとわかっていたのだが、そのときの俺は溜まりに溜まった性欲のせいで正常な判断ができなくなっていた。そしてある日、大胆な行動に出たのである。


 小堀が可愛すぎて生きるのが辛い


「いらっしゃい」

 玄関のドアが内側から開かれると、優しげな笑みを浮かべた小堀が俺を出迎えてくれた。やっぱりいつ見てもこいつの笑顔は可愛い。

「暑かっただろう? すぐに飲み物持って行くから、二階に上がってて。部屋クーラー効いてて涼しいよ」
「サンキュー」

 そんなに近いわけでもないんだが、お互いの家にはこうしてよく遊びに行ったりしている。
 小堀の部屋はいつも綺麗だ。フローリングの上にも埃一つなく――とまではいかないが、隅々まできちんと掃除がされている。面倒臭がってなかなか掃除をしない俺の部屋とは大違いだな。
 小堀の部屋に上がって俺がまずするのは、ベッドに寝転ぶことだ。ひんやりとしたシーツの感触が心地いい。枕に顔を押しつけると少しだけ小堀の匂いがして、まるで本人に抱きついているかのような錯覚に陥りそうだ。

「あー、また人のベッドに上がってる」

 ジュースの入ったグラスを持ってきた小堀が、俺を見て苦笑する。

「寝汗とか掻いてるから、あんまり綺麗じゃないと思うぞ」
「そんなの別に気にしねえって。臭くもねえし」
「もうっ。ジュースここに置いとくな」
「おう。サンキューな。ところでさ、お前ってDVDプレイヤーって持ってたっけ?」
「プレイヤーはないけど、プレステ4ならDVDも再生できるよ。なんか観たいのか?」
「ああ。いいもん持ってきたんだ」

 俺はおもむろに鞄から件のDVDを取り出した。本来のパッケージではなく、別売りのプラスチックケースに入れている上、ディスクには文字しか書いてないから、小堀には中身がなんなのかわからないだろう。案の定、小堀はディスクを見ながら首を傾げていた。

「何それ? なんの映画?」
「エロビデオ」
「エ、エロ……ええ!?」

 素っ頓狂な声を上げると同時に、小堀の顔は一瞬にして真っ赤になった。知ってたけど、やっぱこういうのには耐性ないんだな。まあ、普段からそういう話はしたことなかったし、こいつの性格上、きっとこういうリアクションをするだろうとは思ってたけど。

「そ、そういうのは十八歳になってからじゃないと、観ちゃいけないんだぞ!?」
「何古くせえこと言ってんだよ? 俺らの歳くらいなら観たことあるのが当たり前だぜ?」
「う、嘘だ……」
「嘘じゃねえよ。お前がそういう話を周りのやつらとしねえから、知らねえだけだ」
「か、笠松だってしてこないじゃないかっ」
「お前とはしなかっただけで、他のやつとはそれなりにしてたぞ。お前見るからにそういう話は苦手そうだしな」

 俺も別に得意ってわけじゃねえけどな。むしろ他のやつらに振られてしどろもどろになっていたのは、ここでは秘密だ。

「AVの一つも観たことないなんて知られたら、お前馬鹿にされんぞ? だからこの機会に観とけ」
「で、でも……」
「俺はお前が他のやつらに馬鹿にされてんのなんか見てらんねえよ。だから、俺のためでもあると思って、一緒に観ようぜ」

 別にAVを観たことないくらいで馬鹿にされるような風潮なんてねえけどな。むしろ同学年の中じゃ観たことねえやつのほうがまだ多いんじゃないかと思う。でも、たぶん小堀はここまで言わないと首を縦には振らないだろう。
 なんでそこまで小堀にAVを観てほしいかって? そりゃ、純粋無垢なこいつがどんな反応をするのか知りたいからだ。それとひょっとしたら美味しい思いができるかもしれないなんて、かなりいやらしいことを考えている。
 ひどいやつだって思うかもしれねえ。でも少しでも小堀と友達以上のことができる可能性があるなら、俺はそれに賭けてみたかった。

「わ、わかったよ。笠松がそこまで言うなら、観てみる。というか、正直に言うとどんなものか観てみたい」
「よし、決まりだな。じゃあさっそくプレステ4を出してくれよ」
「わかった」

 心の中でひっそりとガッツポーズを決め、俺は今後の展開にドキドキしながら、小堀が準備してくれるのを待つ。もちろん、思いどおりに事が運ぶとは限らねえけどな。
 配線を接続し終え、小堀が俺のDVDをゲーム機の本体に入れる。二人だけのAV鑑賞会がいよいよ始まりだ。
 ベッドの俺の隣に座った小堀は、どこか緊張しているような顔をしていた。枕を抱きしめている理由は不明だが、可愛いからまあいい。その枕のように俺が小堀を後ろから抱きしめたら、いったいこいつはどんな反応をするんだろうか? いまはまだやらねえけどな。
 映像が流れ始めて数分、AVを観たことない小堀でも、どこかおかしいことに気づいたらしい。不思議そうな顔で俺を見て、訊ねてくる。

「これって、女の人出ないのか?」

 画面の中では若い男が全裸にされ、ゴーグルマンに身体を触られているところだった。そのうち男同士でキスをし始め、ゴーグルマンの手が若い男の股間に伸びる。

「ええ!? お、男同士でそんな……ねえ、笠松?」

 俺はあえて小堀を無視した。すると小堀の視線はまたテレビのほうに戻っていって、画面の中で展開される男同士のエロスを食い入るように見始めた。

「あ、あんなとこ舐めて大丈夫なのか……?」

 ゴーグルマンが若い男のあそこをフェラし始めると、小堀は軽い悲鳴のような声を上げたが、目は画面から外さない。
 挿入シーンになってもその様子は変わらず、その顔には嫌悪感も浮かんでいないようだった。普通の男ならもうこの辺で見てられなくなるはずなんだけどな。これはひょっとするとそっちの素質があるのかもしれねえ。

「この人すごく気持ちよさそう……入れられるのって、そんなにいいのかな?」
「さあ……やってみればわかるんじゃねえか?」

 さて、そろそろ実行するか。俺がずっと前から考えていた、最低最悪の計画を。これを実行すればもしかしたら小堀に嫌われるかもしれないが、どうせ報われない恋なら、せめて美味しい思いをして散りたい。だから最低だとしても、俺にとってはやる価値が大いにあるってもんだ。

「やってみればって……あ、ちょっと、笠松!?」

 俺は小堀が抱いていた枕を剥ぎ取ると、明後日のほうに投げ捨てた。そしておもむろに小堀の股間に手を伸ばし、そこの状態を確かめる。

「なんだお前、勃ってんじゃねえかよ」

 ハーフパンツの中心部には、硬くて生温かい感触がある。小堀が画面を見ながら興奮していた証だ。それを指摘すると小堀の顔はリンゴのように赤くなって、俺の手を必死に引き剥がそうとする。けど、残念ながら力は俺のほうが上だ。その抵抗は何の意味もなさなかった。

「男同士のセックス見て勃起するなんて変態だな」
「か、笠松だって勃ってるじゃないか」

 確かに俺のあそこはデカくなって、下着とハーフパンツを押し上げている。けれどそれはビデオに興奮したんじゃなくて、それを観ながら初々しい反応をする小堀の姿に興奮していたんだ。

「ああ。だって俺、ビデオでやってんのと同じことをお前としたくて興奮してっから」
「えっ!? お、俺と!?」
「そうだよ。お前とエロいことしたくて堪んねえんだ。お前が可愛くて仕方ねえから」
「か、可愛くなんか……」
「可愛いんだよ、お前は。こんなふうに思ったの、お前が初めてだ」
「それって……」

 小堀は困っているような、恥ずかしそうな、いろんな感情の混ざったような表情をする。でも嫌そうな顔はしないから、俺の勢いは増していくばかりだ。
 俺よりもデカいが、細くて弱いその身体をベッドに押し倒し、軽く体重をかけて動けないようにする。服越しに感じる小堀の体温に、俺の鼓動は脈打つ速さを増した。

「小堀……」
「笠松……んっ」

 キスと呼ぶにはあんまりに拙い、唇を押しつけるような口づけだった。そこからAVで得た知識を引き出して、角度を変えてみたり、唇を軽く吸ってみたりする。
 小堀の唇はしっとりとしていて、すげえ柔らかかった。その唇の隙間から舌を入れると、小堀はびくっと身体を震わせる。
 どうすれば上手くできるのかなんかわかんねえ。キスすんのなんて初めてだし、もう興奮しすぎてちょっと訳がわからなくなっている。小堀の舌に自分の舌を絡ませたいのに、歯と歯がぶつかってなかなか上手くいかなかった。

「小堀、ちょっと口開けよ」

 小堀は苦しそうに息をしながら、言われたとおりに口を開いた。すると今度は上手いこと口の中に侵入することができて、舌を絡ませることに成功する。
 上手いのか下手なのかどうかなんて、経験のない俺にはわかんねえし、たぶん小堀も同じような感じだろう。だけどすげえ気持ちよかった。だから何分も小堀の口の中を犯すような勢いでディープなキスを貪って、気づけば互いに息が上がっている状態だった。

「笠松……やっぱり駄目だよ、男同士でこんな……」
「ああ? 俺にキスされても勃起してるやつが何言ってんだよ?」

 俺の太ももの辺りに当たってる小堀のあそこは、まったく萎えてなかった。ってことは俺とキスするのが嫌じゃねえってことだよな?

「なあ、小堀。お前ってオナニーすんのか?」
「そ、そんなこと訊くなっ……」
「ああ、そういう答え方するってことは、してんだな。まあ俺らの歳ならそれが普通だよ。俺だって毎日してるしな。お前とこうやってエロいことすんの想像しながら」

 俺は言いながら小堀のチンコをハーフパンツ越しに扱いてやる。

「お前のオカズはなんなんだよ? 女? 男? エロ本とか持ってんのか?」
「笠松っ、もうやめて……こんなの、好きなもの同士がするもんだろっ」
「んなこと言ってたら、俺一生お前とできねえじゃねえかっ。大丈夫だって。ちゃんとお前のこと気持ちよくしてやるから」

 小堀の尻を軽く浮かせ、ハーフパンツと下着を一気にずり下げると、勃起したチンコが勢いよく飛び出した。
 サイズは俺よりデカいみたいだが、亀頭の半分くらいは皮に包まれていて、まだ完全には大人になっていない。毛もどっちかっつーと薄いほうで、体格とはギャップがあるものの、まだ幼さの抜けきらない顔からするとそんなもんだろうって感じだ。

「見るなっ」

 小堀は慌てて股間を手で隠そうとするが、俺はそれを払いのけ、今度は直に触る。カチカチで、温かい。先っぽのほうは我慢汁らしきもので濡れていて、想像以上のいやらしさに俺は思わず息を飲んだ。

「すげえベトベトじゃねえか。エロいな」
「い、言うなよっ」

 俺は人差し指で我慢汁を押し広げるように亀頭を擦っていく。すると小堀は「あっ」と小さく喘ぎ声を漏らして、細い腰をくねらせた。

「お前の喘ぎ声可愛いな。もっと聞かせろよ」
「嫌だ、恥ずかしい……」

 まあ、小堀が嫌でも出させる方法はいろいろあるけどな。たとえば亀頭を舐めたりしたら――

「うあっ!」

 ほら。驚いたような、それでいて甘さを孕んだ声が小堀の口から零れた。

「笠松っ……駄目だって。あっ……んんっ」

 小堀は俺の頭を股間から引き剥がそうとするが、あんまり力が入ってなくて意味がなかった。
 我慢汁の味はしょっぱかったが、思っていたほど不味いもんでもない。サオの付け根から先っぽまで丁寧に舐めていき、そのままぱくっと口の中に含んだ。

「あっ!」

 口で扱くのもAVの見様見真似なんだが、小堀の様子から察するに、どうやら俺のフェラは気持ちいいらしい。時々吸い付くようにすれば、そのたびに小堀の腰が跳ね上がって、可愛い声で鳴いた。

「あっ……駄目っ、やめて笠松、出ちゃうから……」

 切羽詰まった声で制止を求める小堀。よし、ならそのままイかせてやるよ。
 俺は小堀のあそこを根元まで飲み込み、さっきより少し強めに唇を締めて顔を前後に動かす。すると小堀はシーツを強く掴み、軽く腰を揺らした。チンコが喉まで届いて咽そうになるのをなんとか堪えながら、小堀をイかせるべく激しく吸いついた。

「駄目っ……駄目っ……出るっ――あっ!」

 泣きそうな声と顔でそう言った瞬間、口の中のモノがひときわ膨張し、そして喉奥に精液が放たれた。最初は叩きつけるような勢いで、それが徐々に衰えていったが、かなり長い間俺の口の中に放出されたと思う。味は結構きつかったが、小堀のものだと思うと飲み込むのも苦じゃなかった。

「はあ……はあ……」

 イったばかりで息の乱れた小堀の顔は、ただ可愛いだけじゃなくて妙な色気が出ているような気がした。ああ、どうせなら口の外でイかせればよかったな。自分の腹や胸を精液で汚す小堀も見てみたかった。きっとすげえエロいんだろうな。
 さて、小堀はとりあえず一発出したからいいが、俺の下半身はさっきから痛いくらいに勃起したまま放置されているわけである。もちろん自分でヌくという手もないことはないのだが、ここまで来たなら――やっぱり小堀のケツに突っ込みたい。となるとまずはそこを解さなければならないだろう。痛い思いはさせたくねえし。
 そんなわけで、俺はこの日のために用意していたローションをベッドの下から取り出した。小堀はそれを何に使うかすぐに気づいたらしい。そりゃそうだよな。さっきAVの中でまったく同じものが使われてたんだから。疲弊していた表情に不安そうな色を浮かべ、俺を見上げてくる。

「そ、そこまでやるのか?」
「さっきAVの入れるシーンのとき、興味津々な顔で見入ってたじゃねえか」
「違っ……頼むからやめてくれよ、笠松」

 泣きそうな声に少しだけ心が痛んだが、もうここまで来て引き返そうとは思わない。小堀の足を軽く持ち上げると、露わになったケツの谷間にローションを垂らしていく。
 口ではやめてくれと言った小堀だが、力による抵抗はもうしてこなかった。どうやら覚悟を決めた――つーか、諦めたらしい。
きっといまこいつは最悪な気分なんだろう。友達だと思ってた男にイかされたあげく、これから犯されるんだからな。だが、もう気遣ってやる余裕なんて俺にはない。とにかくこれを小堀の中にぶちこんで、溜まったもののすべてをこいつの中に出してやりたかった。

「ごめん、小堀」

 謝って済むようなことじゃねえけど、小堀の泣きそうな顔を見るとそう言わずにはいられなかった。けどやっぱり自分の溢れ出した欲望を止めることはできず、俺は指で小堀のそこをこじ開けていく。

「うあっ……」

 指に吸い付くような、強い締めつけ具合。これで本当にチンコが入るようになるのかかなり疑問だが、やっておくに越したことはないだろう。
 あんまり激しく抜き差しすると小堀が痛がったので、ゆっくりとした動きで中を撹拌する。すると徐々に狭かった穴が広がってくるのがわかった。少しローションを足して二本目の指を差し込み、同じようにまたほぐしていく。

「痛くねえか?」
「うん……大丈夫」
「そっか。ならもう、入れるぞ」

 小堀のケツをほぐす間もまったく萎えることのなかったそれを入り口に宛がい、ゆっくりと腰を押し進める。だが、するすると表面を滑るだけでなかなか上手く入れることができず、短気な俺は段々と苛ついてきた。

「くっそ……」

 入りそうで入らない、もどかしい思いに駆られながら、俺はそれを何度も入り口に押しつける。そうしているうちに思わぬところで一気に中へと滑り込んでしまい、小堀の身体が硬く強張った。

「痛っ……!」
「わ、わりぃ……」

 中ほどまで入ってしまったそれを、俺は一旦ゆっくりと引き抜いた。慣らしたとはいえ、二本分の指とそれとじゃ太さが違う。一気に入れば当然痛いだろう。
 少しだけ待って、もう一度挿入を試みる。今度は温めたバターを指で押すような柔らかさで、ゆっくりと確実に小堀の中に入ることができた。

「ここ、痛いか?」

 小堀が首を横に振ったのを確認して、俺は更に奥へと進んでいく。中のほうは結構締めつけがきつくて、気を抜くと怪我をさせてしまいそうだ。だから少しずつ前進しながら、俺の形に広がるのを待たなければならないだろう。
 今度は全部入りきるまで小堀は痛いとは言わなかった。ただ表情は苦しそうだったから、すぐに腰を動かすような真似はしなかった。
 ふと、潤んだ瞳と目が合う。俺にこんなことをされて嫌なはずなのに、その瞬間に小堀は弱々しく微笑んだ。それを見た瞬間、胸の奥から愛おしさと罪悪感の両方が一気に込み上げてきて、俺は思わず小堀の身体を抱きしめた。

「ごめんな、小堀。こんなひでえことして」

 好きな相手を傷つけるなんて最低だ。小堀を傷つけるくらいなら、いっそ想いを打ち明けて自分が傷ついていればよかったのに。今更そんなことに気づかされたが、もう何もかもが手遅れだ。

「いつもお前のことばっか考えてた。お前と話すたびに嬉しくなった。お前が他のやつらと話してると……すげえ嫉妬しちまった。――好きなんだ、お前のことが」
「そうだったのか!?」
「ああ、そうだよ。気持ち悪いこと言ってごめんな。こんなことまでして……」

 もう友達として笑い合うことはできないだろう。それどころか、会話をすることも、目を合わすことすらできないのかもしれない。そう後悔したところで後戻りなんてできないけどな。

「……順番が違うだろ」

 俺が黙っていると、小堀の口から予想外の台詞が飛び出した。

「なんでそれを先に言ってくれないんだよ! それを先に言ってくれてれば、俺だってもっと素直に……。」
「……?」
「最初は恐かったし、いきなりだったから訳わからなかったけど、それでも本気で嫌だったわけじゃない。それは相手が笠松だからだ」
「それって……」
「俺も、笠松のことが好きなんだ」

 え? 小堀が俺のことを好き? 意味がわけんねえ。だってこれは俺の片想いで、ずっと叶うことのない恋で、今日だって無理やり……。
 いきなりのことに頭が追いつかず、自分が小堀のケツに挿入したままでいるのも忘れて俺はただ呆然とした。

「笠松」

 そんな俺を、小堀の声が現実に引き戻す。

「ずっと好きだったよ。だから、笠松ももう一度俺のことどう想ってるか言ってくれ」

 これは嘘じゃねえんだよな? 都合のいい妄想とか、夢を見てるってわけじゃねえんだよな?
 小堀の頬にそっと触れると、そこから心地いい体温が伝わってくる。ああ、これは現実なんだ。だからいま耳にした台詞を信じてもいいんだ。俺はようやくそう確信することができた。

「好きだ、小堀」
「うん、ありがとう。俺も大好きだよ」

 小堀が俺の背中に腕を回してきて、肌と肌が重なり合う。安心するような温かさは、まるでこいつの優しさそのもののようだ。それを直に感じながら嬉しさが胸いっぱいに広がってきて、思わず泣きそうになっちまった。

「なんでもっと早く言ってくんねえんだよ」
「笠松だって今頃になって言ったじゃないか」
「だってお前が俺のこと好きだなんて、普通思わねえだろ」
「それは俺だって一緒だよ。笠松が俺のこと好きだなんて、そんなの都合のいい妄想だと思ってた。だからこうして本当に両想いだってわかって、死ぬほど嬉しいよ」
「……俺もだ」

 死ぬほど嬉しい。いまのこの気持ちを表すのに、それほどぴったりな言葉はないだろう。順番は間違ってるし、アプローチの仕方も滅茶苦茶だったが、それでも俺のしたこととこの想いは決して無駄じゃなかったんだ。

「じゃあ、続きすっか?」
「うん」

 入れたまま放置していたおかげで、小堀のケツはずいぶんとほぐれているようだった。これならもう動いても大丈夫だろう。
 ゆっくりと腰を引き、またゆっくりと押し入れる。吸いつかれるような締めつけに、気持ちよくて思わず変な声が出そうだった。

「小堀の中、すげえ温かくて気持ちいいぞ」
「そうなのか?」
「ああ。お前はどんな感じ?」
「なんか、奥のほうが気持ちいいかも。もっと激しくしても大丈夫だよ」
「じゃあ、激しくすんぞ」

 俺は腰を動かしやすいように小堀の足を持ち上げる。結合部が露わになって、本当に小堀と繋がっているだと実感した。そこを見ながら先端まで一旦引き抜くと、根元まで一気に差し込み、その動きを段々と速めていく。

「奥って、この辺か?」
「もっと上のほう、かな……?」

 俺だけが気持ちよくなっても意味ないし、小堀にとってどこが気持ちいいのかもよくわかんねえから、ちょっと情けないけどこういう確認はどうしても必要になる。でもまあ、初めてのセックスなんてみんなそんなもんなのかもしれねえけどな。
 腰の位置を調整し、小堀が感じるらしい奥の上のほうに当たるように突き入れてみる。すると中がギュッと締まって、小堀の口から「あっ」と掠れた声が零れた。

「そこ、気持ちいい……」
「わかった。ここを犯せばいいんだな」

 ベッドが揺れるほどに腰を激しく動かすと、グチュグチュといやらしい音が部屋の中に響き渡った。それに小堀の喘ぎ声が混じって、俺のボルテージを少しずつ上げていく。

「あんっ、ああっ、あっ……んっ」

 俺の下で乱れる小堀は、想像していたよりもずっとエロくて、このまま一生犯してやりたいと本気で思う。さっきまで萎んでいた小堀のあそこはいつの間にか硬さを取り戻していて、先っぽからはいやらしい汁が溢れていた。

「笠松っ……気持ちいいよぉ」
「俺もだ、小堀」

 少しあどけなくて、いつも優しげな微笑みを浮かべる小堀の顔は、いまは後ろの穴を犯される快感で淫らに歪んでいる。喘ぎながら時々俺の名前を呼んでるのが愛おしくて、堪らずキスをすると小堀も積極的に舌を絡めてきてくれた。
 中を抉るように出し入れすると、小堀は俺の背中を強く掴んだ。腰を引くたびまるで俺のあそこを逃がさまいとするかのようにケツが窄まり、俺は確実に絶頂へと近づいていく。
 ビンビンになった小堀のあそこを触ると、身体がびくっと震える。そのまま溢れた我慢汁を利用して竿を扱けば、小堀はひときわ高い声を漏らした。

「触っちゃ、駄目っ……すぐ出そうだからっ」
「いいぜ、出せよ。俺もすぐイきそうだから」

 俺は小堀の身体に覆い被さり、叩きつけるような勢いで腰を振った。それはもう滅茶苦茶な動きだったが、小堀のケツはそれをしっかりと銜え込んで離さない。

「小堀っ、小堀っ」
「あっ! 笠松っ、出る! 出ちゃうよっ! ああんっ」
「俺も……イクっ――あっ!」

 身体の中で何かがはじけるような感覚がした。そのすぐ後に、痺れるような凄まじい快感が全身を駆け巡り、俺は脱力して小堀の上に倒れ込んだ。
 ドクドクと、溜まっていた精液が小堀の身体の中に注ぎ込まれていくのが自分でもわかる。小堀のあそこを握っていた手は熱い液体に塗れていて、こいつもちゃんとイけたんだとわかって安心した。
 お互いしばらく黙ったまま、快感の余韻をじっくりと味わう。セックスってのは思っていたよりもかなり体力を使うようで、息も荒いし身体もなんだか重くなっていた。

「笠松」

 小堀が耳元で俺の名前を呼んだ。

「俺の中、気持ちよかったか?」
「ああ。死ぬほど気持ちよかった。お前はどうたった?」
「俺もすごく気持ちよかったぞ。頭おかしくなりそうだった」
「ならよかった。――あ、わりぃ。そのまま全部中に出しちまった」
「いいよ。笠松のだったらいくらでも受け止めるから」

 小堀が息をするたびに、俺のを飲み込んだままのそこがぎゅうぎゅうと締まる。それが気持ちよくて、イったばかりのそこが早くも硬さを取り戻しつつあった。

「なあ、もう一回しようぜ?」
「もう? 笠松は元気だな〜」


 結局それから二回もして、抱えていた欲のすべてを小堀の中にぶちまけてしまった。だけどお互い心も身体も満たされて、すげえ幸せな気分だったといまでもはっきり覚えている。


 あれから三年の月日が流れて、小堀はかなりの男前に変貌を遂げていた。いや、元々整った顔立ちではあったんだが、あの頃のあどけなさが完全になくなって、ずいぶんと男らしくなっている。身長も更に伸びていまや百九十二センチまでに成長。それでも持っている雰囲気はあの頃の可愛さをなくしてはいなかった。

「浩志」

 部活が終わり、一緒に帰る道の途中で、いつの日からか呼ぶようになった小堀の下の名前を口にした。

「ん?」
「す、好きだぜ」
「……急にどうしたんだよ? っていうか、照れながら言わなよ。こっちまで照れるじゃないか」
「うっせえな! で、お前はどうなんだよ? 俺のことどう思ってるんだ?」
「……そりゃ、俺も好きだよ、幸男」

 少し照れたようにそう言ってくれた小堀が、やっぱり可愛くて愛おしい。
 あの日から恋人になって、いつの間にやら三年。時々喧嘩をすることもあったが、幸せに感じる瞬間のほうが圧倒的に多かった。これからもそんな日々が続いていけばいいと心の底から願っている。

 そして今日も、小堀が可愛すぎて生きるのが辛い。




■おしまい■





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