その7


 こういうとき、硬いジーンズに対して柔らかいジャージは下半身の異変を顕著に表してしまう。だから小堀のほうが、股間の膨らみが極端に目立ってしまい、それがひどく恥ずかしくて顔を両手で覆い隠した。

「小堀でも勃つんだな」
「お、男だから当たり前だろ……って、諏佐!?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、諏佐が小堀の膨らみに触れてきたからだ。

「こういうこといまからするって、ちゃんとわかってるか?」
「わ、わかってるよ。でもいきなりそこってどうなんだよ?」
「こんなにデカくしてたら触りたくもなる」

 人差し指がジャージ越しに先端を撫でる。その感触に思わず腰を引くと、諏佐が小さく笑った。

「逃げるなよ。お願いしますっていったのおまえだろ?」
「そうだけど……」
「じゃあ、俺が触るのが駄目なら、俺のを触って」
「ええ!? そっちのほうがハードル高くないか!?」
「じゃあ大人しく触られてろよ」

 背中にドアが当たって、逃げ場をなくした小堀に諏佐は容赦なく手を伸ばしてくる。再び高ぶりに触れられ、優しく愛撫されると足の力が抜けてしまいそうだった。なんとか諏佐の身体にしがみつけば、優しいキスが降ってくる。

「諏佐っ……」

 そのとき偶然手に当たった硬い感触に、小堀はドキリとしてしまう。けれど自分に興奮してくれていることが嬉しくもあって、恐る恐るといった具合にそこに触れてみた。

「なんか、すごく硬くて熱い……」
「当たり前だろ。小堀にこんなふうに触ってんだから」

 耳元で掠れた声がそういい、そのまま耳朶を甘噛みされて力が抜ける。その隙にジャージと下着を少し下ろされて、勃起した小堀の性器が露わになった。

「少し濡れてるな」

 いいながら諏佐は指先で先走りを塗り広げる。小堀は反射的に変な声が出そうになったが、ぎりぎりのところでそれを飲み込んだ。

「諏佐、ここ玄関だぞっ」
「大丈夫。誰にも見えないから」
「そうかもしれないけど……こ、声が外に聞こえるだろ」
「聞かれちゃ拙い声でも出すつもりなのか?」
「ば、馬鹿! 諏佐のスケベ!」

 自分がすごく恥ずかしいことをいったのだと気づかされ、顔が熱くなる。それを諏佐に笑われたのが少し悔しかったが、頭を撫でられ、優しくキスをされたらすぐにどうでもよくなった。

「ベッド行くか?」
「……うん」

 まだ靴も脱いでいないのだと気づき、小堀は苦笑しながら足だけでそれを脱ぐ。すると諏佐の腕が両膝の裏に入ってきて、そのままひょいと抱きかかえられた。

「小堀は軽いな〜」
「諏佐が馬鹿力なだけだろ!」

 確かに小堀は痩せているほうだが、身長は諏佐とそれほど変わらない。そんな男を軽々と抱きかかえられるなんて、いったいどれだけ力持ちなんだと感心してしまう。
 ベッドの前に着くと、小堀の身体はそこに優しく下ろされた。その上から諏佐が覆い被さってきて、小堀が愛してやまない彼の男前な顔が触れ合いそうなほどの距離に迫ってくる。

「好きだ」

 俺もだよ、といいかけたが、それより先に唇を唇で塞がれてしまった。
 キスをしながら服の上から胸の辺りを撫でられ、なんともいえない感覚にもぞもぞとしていると、その手はやがて服の裾から中に入ってくる。

「あっ……」

 指先が乳首に触れた瞬間、小堀が喉から迸らせたのは呻きではなく、自分のものとは思えないような甘い声だった。思わず諏佐の腕を掴めば、男前な顔は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「乳首、気持ちいいのか?」
「ち、違う……」
「違わないだろ? いますげえ声出したじゃん。もっと気持ちよくしてやるから、大人しくしてろよ」

 いいながら諏佐は小堀の服を脱がしにかかる。小堀も特に抵抗はしない。というか、興奮しすぎて裸を見られることに対する恥ずかしさが完全に薄れていた。おまけにズボンまで脱がされたが、もうどうでもよかった。
 諏佐も自分の服とジーパンを脱ぎ、パンツ一枚で再びベッドに上がってくる。ボクサーパンツの前には小堀の股間と同様に異常な盛り上がりができており、小堀はそろそろとその頂点に手を伸ばした。

「さっきハードル高いっていってたじゃん」
「だって、こんなの見せられたら触っちゃうだろ」

 布越しでもわかる、硬くて熱い諏佐の肉棒。自分にちゃんと興奮してくれることに安堵を覚える半面で、これから何をするのか再認識させられて、心も身体もじんと熱くなる。

「もうこれ脱がすぞ」

 止める間もなく下着を脱がされた。諏佐も脱いでと促せば、彼は躊躇いもなく最後の一枚を脱ぎ捨てて、たくましい身体を余すことなく見せつける。
 大きく反り返った諏佐自身を握ると、そこはまるで諏佐の体温のすべてが集中しているかのように熱くなっている。

「すごいな、これ」
「小堀のだって、我慢汁たらたら流して、すごいことになってるぞ」
「いうなよ馬鹿っ」

 諏佐の手が、まるで愛でるような優しい手つきで小堀のそこを撫で始めた。そのせいで先走りが更に溢れ出して、小堀の亀頭と諏佐の手を濡らしていく。ただ触られているだけなのに、自分で触るのとは違った快感に浸っていると――いきなりそこを諏佐に食べられてしまった。

「くぅっ……諏佐ぁ、駄目、汚い」

 小堀の指摘は、完全に黙殺された。
 ヌルッとしたものに包み込まれ、小堀が知らない快感を与えられる。あまりの気持ちよさに思わず逃げそうになるが、諏佐の手が腰をがっちりと掴んで離さない。

「くっ……あっ、うぁ……」

 諏佐が自分のそこをしゃぶってくれている。ただそれだけでどうにかなってしまいそうなのに、諏佐の絶妙なテクニックのせいで気を抜けばすぐに絶頂に達してしまいそうだった。だからシーツを掴んでなんとか耐え凌ごうと頑張ったのだが、心が折れるまでそう時間はかからなかった。

「諏佐っ、イっちゃいそうだからストップ」

 しかし、制止を求めても諏佐はフェラをやめようとしない。このままでは本当にやばいと腰を捩ろうとするが、体重をかけられてびくともしなかった。

「諏佐ぁ……駄目だって、いってんだろっ」

 もう無理だ。諏佐の口の中にいるそこも、頭の奥のほうも痺れてきて、もう止められないのだと小堀は悟る。そして――

「諏佐の馬鹿っ……もう、イクっ――あっ!」

 喉奥まで含まれた瞬間、張り詰めていた小堀の性器はついに弾けた。そのまま諏佐の口の中に白濁を注ぎ込み、荒く息を吐き出す。

「の、飲んじゃったのか?」
「うん。結構濃いな」
「あんな不味いものよく飲めるな……」
「確かに美味しくはないけど……って、あれ? 小堀ってこういうことすんの初めてだろ? なんで精液の味なんか知ってんだよ?」

 しまった、と小堀は思わず口を押えた。けれどもういってしまったものは取り消せない。他人といやらしいことをするのは初めてなのに、どうしてあの味を知っているのか――諏佐もその理由をすぐに察したらしく、悪戯な笑みを浮かべている。

「そっか。自分のを舐めたことあるんだな? 小堀って意外と変態」
「う、うるさい! 男なら誰だってやったことあるだろ!?」
「少なくとも俺はないけど?」
「……もういい。どうせ俺は変態だよ」

 拗ねてみせれば、諏佐は苦笑しながら頭を撫でてくれる。

「小堀ってホント可愛いな」
「どこがだよ」
「全部」

 額に軽くキスをされ、それが目尻、頬、鼻と徐々に下りてきて、最後に唇と重なる。小堀の苦手なあの味が少ししたが、それでもキスはやめられなかった。

「今度は小堀が俺を気持ちよくして」
「うん」

 諏佐は膝をついて、股間を小堀の眼前に突き出す。少し間が空いたにもかかわらず、そこはまったく萎えていない。むしろ早くどうにかしてくれというように、いやらしい蜜を溢れさせている。小堀はそれを一気に口に含んだ。

「うっ……」

 諏佐の口からわずかに苦しげな声が零れる。上目で様子を窺えば、端整な顔立ちは気持ちよさそうに目を細めていた。
 少しだけ酸っぱい味がするのは、先走りのせいだろうか? 美味しくはないけれど、決して不快な味もしない。
 チュパチュパと、顔を動かすたびに湿ったいやらしい音が鳴る。諏佐にたくさん感じてほしくて、まるで懸命に尽くすようにしながら、丁寧に、丁寧に舐めた。
 
「はあ……」

 再会したときからずっと、こうして彼のモノを口でしてやりたかった。舐めたらいったいどんな顔をするのだろうかと、いろいろと想像しながら自慰に没頭してばかりだった。
 それが現実のものとなったいま、嬉しさよりも興奮のほうが身体を蹂躙し、さっき果てたばかりのそこが徐々に元気になっていく。
 感じている顔をもう一度見ようと視線を上げると、偶然にも優しげな垂れ目もこちらを向いて、少し照れたようにはにかんだ。そんな表情すらもいまの小堀には興奮を高める材料となる。

「諏佐、気持ちいいか?」
「ああ……ホントに初めてなのか?」
「うん」

 次第に諏佐の腰がゆっくりと動き始める。最初に感じた酸っぱい味も徐々に濃くなってきて、絶頂が近いのだと小堀は悟った。
 諏佐の両手が小堀の頭を掴み、ピストンが激しくなる。時折喉奥まで入ってきて苦しかったが、それでも小堀は諏佐のモノを離さない。

「くっ……小堀、そろそろ」

 イきそうだ、と掠れた声が、限界が近いことを告げる。そして口の中の肉棒がひときわ大きく膨らみ、いよいよだと小堀も身構えた。
 しかし、いまにも弾けそうだというところでそれは引っこ抜かれ――次の瞬間には小堀の顔に生温かい液体がぶっかけられている。

「……悪い、小堀。顔にかけちゃった」

 鼻孔についた匂いは、男独特のそれだ。諏佐の欲望に塗れた体液を浴びたのだと思うと、嫌な気はしないどころか物凄く興奮した。やはり自分は変態なのかもしれないと、昨日の洗面所でのオナニーのことも思い出しながら、小堀はそんなことを思った。




 気怠い身体を心地よい湯と諏佐の腕が包み込んでいる。
 幸せだと、小堀は漠然とそう思った。好きな人と思いが通じ合う。好きな人と身体を重ね合う。それがこんなにも嬉しくて、心が満たされることだなんて、いままで全然知らなかった。
 恋焦がれることは辛くて苦しいことばかりだと、過去の失恋で思い知らされた小堀にはなんだか不思議な感じがしてならない。けれどそこに戸惑いはなく、初めて知るそれらのすべてを受け入れようと、ポジティブな気持ちが胸の中にある。

「そういえば諏佐って、いままで誰かと付き合ったことあるのか?」
「まあ、一応。高校のとき若――後輩と、ちょっと」

 少しだけ嫉妬心が湧き上るが、もう過去のことだと小堀は自分に言い聞かせた。

「別れたきっかけは?」
「う〜ん……そいつには元々他に好きなやつがいたんだよ。でもどうせ実らない恋だからって、忘れるために俺と付き合い始めたんだ」
「諏佐はそいつのこと好きじゃなかったのか?」
「好きは好きだったよ。でもたぶん、友達と恋人の中間くらいの感情でしかなかったと思う。向こうもたぶん、同じ。結局お互いに都合のいいセフレだったんだよ」
「お、俺もただのセフレ……なのか?」
「馬鹿。ちゃんと好きっていっただろ。小堀は正真正銘の恋人だ」

 一瞬よぎった不安が、諏佐の一言ですぐに打ち消される。嬉しくてついにやけると、気配でわかったのか背後の諏佐に頬を抓られた。

「俺は小堀とだったら、ずっと付き合っていけるって思ってるよ。小堀はどう?」
「これから先どうなるかなんてわからないけど、ずっと一緒にいたいって思うよ」

 小堀は諏佐の手に自分の手を重ねる。
 この手の感触を、この腕の温かさを、これからもずっと感じていたい。もしかしたら喧嘩して互いに口を利かなくなったりすることもあるのかもしれないけど、諏佐とならきっと大丈夫だ。
 どうなるかわからない未来をおぼろげに想像しながら、小堀は諏佐の胸に背を預けた。






■おしまい■





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