どっちが可愛い?


 せみの鳴き声が聞こえ始めるこの時期、クーラーも必要になるほど暑くなってきたが、点けっぱなしで寝るのは避けている。にも拘らず、部屋ん中は妙に涼しかった。いや、むしろ寒いとさえ感じる。
 その寒さに耐え切れなくなって、俺――黒崎一心は身体を起こした。
 布団を取ってみると、夏らしい熱のこもった空気が肌に触れる。だが布団に被ったままの下半身はさっきの寒さを今も感じていて、そこに原因があるのかと布団をめくってみる。

 そこに、そいつはいた。

 真っ白な髪に真っ白な肌、一護の顔をしたそいつは気持ちよさそうに俺の隣で丸くなっていた。

「シロ……」

 最近すっかり家族の一員みたいになっちまった白い一護とは、結構仲良くやっている。最初の頃は少し棘のある態度が目立っていたが、誰のおかげかいつの間にやら一護よりも角の丸いやつになっていた。
 しかしこんな肌の触れ合うスキンシップは初めてで、俺は少し動揺している。それになんで俺のベッドに入ってきているのか……。まさかあれか? 俺の魅力にすっかり惚れ込んじまったとか。

「おいシロ、起きろ」
「う〜ん……もうちょっと」

 シロは身じろぎだけして、起きる気配をまったく見せない。
 これは一発お仕置きしてやるべきだな、と俺はシロの冷たい身体を組み敷いた。そして布団の中に隠れた下肢にそっと手を伸ばし、朝勃ちしたそれに触れる。
 腕も顔も冷たいのに、なぜかそこだけは熱が集中していて面白い。

「あ……」

 少しだけ摩擦すると、シロは目をぱっちりと開いた。

「よう、起きたか」
「何してんだよ変態」
「人のベッドに潜り込んでおいてその言い方はねえだろうが」

 そう言いながら指先ではかまの上から亀頭を刺激した。

「ちょっ……やめっ」

 怯えたように細められた瞳が俺の性欲を掻き立てる。やめろと何度も言う口を口で塞いで、凍るような冷たい舌に俺の舌を絡ませた。

「んっ……んんっ……」

 貪るようなキツい口づけ。逃げようとする舌を吸い取り、舐め上げ、思うがままに喰い尽した。
 自分からやり出しておいて、ここまで強引になるとやめどころが分からなくなる。だから互いの何もかもが分かってしまうんじゃないかってくらい絡み合って、結局そのまま数分を過ごしてしまう。
 どちらともなく引き合うと、シロの金色の目と目が合った。

「親父……」

 その呼び方をされるのは初めてで、少しだけ面映さ感じて苦笑する。

「可愛い」

 白い髪を梳くように撫でると、シロは柔らかい笑みを浮かべた。

「一護とどっちが可愛い?」
「意地悪な質問だな」

 一護とシロ――そっくりなようで実はあまり似ていない。シロは一護に比べると睫毛まつげが長くて、一つ一つの表情が柔らかい。その辺からすればシロのほうが可愛いのかもしれないが、一護のツンデレ具合も堪らなかったりする。

「どっちも可愛い」

 結局、そう返すしかなかった。

「いつかぜってえオレのほうが可愛いって言わせてやるよ」
「なんの決意だ、そりゃ」

 キスした最初は怯えてたくせに、終わった途端にこの嬉しそうな顔。俺は余計にシロが分からなくなった。

「また来ていいか? もっと親父に触れられてえ」

 一護じゃぜってえ口にしないことを、上目遣いでお願いされては拒否のしようがない。

「ああ。いつでも来い」

 やった、と最後にガキっぽい笑みを浮かべて、シロは俺の部屋から出て行った。
 結局、あいつがなんで俺のベッドで寝てたのかは分かんねえ。冗談で俺の魅力に惚れ込んじまったとか思ってたけど、案外本当だったりしてな。それは嬉しいことなのか、そうでないのか、はっきりしないまま俺はベッドを降りた。


終わり



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