悪戯な君に
思春期というものを堺に、男には性欲という欲求が芽生えるものだ。 逃れられない身体の成長とともに、それはどんどんはっきりとしたものになっていって、人によっては精神の大半を支配されてしまうこともある。やがて減衰していくその日まで、定期的に放出しなければ身体の中に積もりに積もって、暴発してしまうことさえあった。 それはコンとて例外ではない。虚退治に赴いた一護の身体を預かったコンは、着ていた衣類をすべて脱ぎ捨て、久しぶりに得た肉体を少しの間検分する。
「おお、すげぇ……」
初めて一護の身体に入ったときは、どちらかというと華奢で脆そうな印象を受けたのが、いつの間にか筋肉質でがっちりとしたものへと変貌していた。腹筋はきっちり六等分、何を持ち上げるのにも苦労しそうにない太い腕と頑丈そうな胸板は、男なら誰もが憧れる身体である。 しかし――とコンは下腹部に目を落とす。身体は逞しくなっても、そこはそれについてくるわけではないらしい。薄いが綺麗に生えそろったオレンジの毛の下には、決して大きくもなく、また小さくもないそれがぶら下がっていた。
「……って、こんなものを眺めてる場合じゃねーよ」
この身体に留まっていられる時間は限られているのだ。一護が帰ってくる前に、溜まった性欲の処理をしておかなければならない。 ベッドの下に手を伸ばすと、雑誌らしきものの感触が指先に触れる。引っ張り出してみると、淫靡な表紙に“団地妻 昼下がりの秘密”などと記された、わかりやすくいうところのエロ本だった。
「ああ、そういえば一護こういうの好きだっけか」
普段あんなに落ち着き払っているのに、陰ではこんなマニアックでいやらしい本を読んでいるなど、人は見た目ではわからないものだ。などと心中で呟きながら、ベッドに上がってさっそくページを捲ってみる。
「うお、特盛!」
表紙以上に淫靡で、尚且つ過激な中身だった。男女の生々しい性行為までしっかりと載せられたページを食い入るように見ていると、さっきまで項垂れていたコンの――本来は一護のものだが――あそこは、見る見るうちに容積を増していく。 じん、と熱くなったそこを握り、上下に擦ると仄かな快感が、電流が流れるようにして全身に伝わった。やばい、やばいと思いながらも手を離すことはできない。むしろ身体の奥底に溜まってふつふつと煮えたぎっている欲望を、早く吐き出してしまいたいというように、擦る手が速くなる。
「ぁっ……気持ち、いい……」
やがて先っぽから出てきたいやらしい汁は、円滑剤の代わりに手の動きをスムーズにして、早くもコンを絶頂に辿り着かせようとしていた。
「――よう」
邪悪な声が鼓膜を刺激したのは、コンがいましも果てようかとしていたときだった。 枕元を見ると、意外なほど近くに“彼”の顔があって、心臓が飛び出してしまいそうなほど驚いてしまう。すると、“彼”は声に見合った邪悪な微笑みを浮かべた。
「シロ……」
髪の毛から爪先まで白一色に染まった彼の姿は、その色以外一護と酷似していた。だが、一護と違って精神は暗黒に包まれていることを、コンはよく知っている。この場面では一番会いたくなかった相手かもしれない。
「何してんだ?」 「何って、見てわかるだろ。出て行けよ」
シロはさもおもしろいものを見つけたようににやりと笑って、その視線をコンの下腹部へ流してくる。
「わかんねーなぁ。素っ裸でいったい何してたんだ〜?」 「嘘つくなよ。わかってるくせに。さっさと出て行け」
突き放すように言ってみても、シロは部屋から出て行こうとはしない。それどころかコンの横たわるベッドに上ってきて、覆い被さるように四肢をついた。
「わかってるさ。だから、オレが手伝ってやるよ」 「ひあっ!?」
いらない、と拒否の声を上げようとしたけれど、耳たぶを甘く噛まれた感触にそれは叶わなかった。代わりに情けない声が漏れ、シロを喜ばせてしまう。
「耳、いいのか?」 「よ、よくねーよ……あっ!」
冷たい舌が、耳たぶを舐め取るように攻めてきて、今度は入り口周辺を執拗に舐める。
「嘘つくなよ」
と、今度はコンが咎められた。
「ビンビンにしてんじゃねーか。素直になれよ」 「それは違うんだって! やめろ、変態!」
押しのけようとするも、コンの身体に密着したシロはびくともしない。 チュパ、チュパ、と耳元で繰り返し上がる音に、ぞくりと鳥肌が立つのを感じた。顔を背けようとしてもシロの手がそれをさせてくれなくて、唯一自由の利く足をじたばたさせた。
「暴れるなよ。大人しくしてたら、すげぇ気持ちよくなるから」
囁かれた言葉は、耳から入って心の奥底まで届いてくる。 耳を攻めていた冷たい感触は首筋へと降りてきて、今度はそちらを執拗に舐め回した。
「ぁっ……くすぐったい……」
時々甘く噛みつくのさえ快感に繋がって、コンは堪らずシロにしがみつく。
「そんなにオレがいいのかよ」 「ちげーよ! お前があんまり、舐めるから」 「ふ〜ん。まあ、なんでもいいけどな」
痕が残るくらいに吸いついた唇は、更に下へと下りてくる。そして今度は綺麗な桃色をした胸の突起を、シロの舌先が突いてきた。
「あんっ……」 「へえ、ここも感じるんだな〜。敏感なやつ」
ククク、とわずかに失笑すると、再び舌先をそこにあてがう。絵を描くように周りを舐めてから、尖った先端を押しつぶすようしてくる。
「あぁ……んぁっ……」
どうやらシロは勘がいいらしく、どこをどう攻めたら気持ちいいか、コンの反応を確かめながら的確に突いていきた。優しく噛んでいるかと思えば強烈に吸い付いてきて、少し痛みを感じるものの、それすらコンには気持ちよかった。
「も、駄目って」
何かが身体の奥底から駆け上がってくるのを感じた。すでに先走りの蜜でぐっしょり濡れていたそこは、はち切れそうなくらいに硬くなって、いましも溜まった欲望を吐き出そうとしている。
「あっ! も、イっちゃうっ!」
そして――乳首への刺激だけでコンは絶頂を迎えた。 腹の上に飛び散った生温かい感触は、腹筋の溝を伝うように流れていく。
「やらしい身体」
快感の余韻に呆然と浸っていると、シロの嘲笑を含んだ声が降りかかってくる。
「乳首だけでイっちまうなんてよ。いったい誰に教え込まれたんだか」
そんなの知らねーよ、という言葉は、すっかり上がってしまった息に阻まれて口にすることができなかった。 とりあえず枕元にあったティッシュで白濁を拭き取り、まだぼうっとする頭を休めようと目を閉じる。 乳首を舐められただけで――しかもシロを相手に果ててしまうなんて、これほど屈辱的なことはない。これで終わるのはなんだかとても悔しくて、せめてもの抵抗としてシロの顔を睨みつけた。
「終わったんだから、早くそこどけよ」 「ああ? 終わりだ? 何言ってんだお前は?」
押しのけようと伸ばした手を、シロに痛いほど固く握られて、コンは小さく呻いた。
「本番はここからだろ?」
冷たい感触が、コンの口内に侵入してくる。――シロの舌だ。遠慮などという言葉をまったく知らないかのように無茶苦茶に絡んでくるそれが、コンの下半身を再びじんと熱くさせた。 答えるように自分の舌を差し出すと、シロはその先端を小刻みに噛んでくる。
「んっ……」
もうどうにでもしてくれ、とコンは心の中で呟いた。シロと触れ合うところはどこもただただ気持ちよくて、身体が本能的にもっと、もっとと求めてしまう。先ほどまで感じていたはずの悔しさはいつの間にか霧散していて、いまはただ彼の激しい口付けに夢中になる。
「とりあえず、お前のが復活するまでこっちを弄る」
ひんやりと気持ちいい彼の指が、コンの尻の谷間をすっと撫でた。やがてある一点を見つけ出したそれは、ほんのわずかに先端を忍ばせる。
「汚ねーって!」
そう注意するのにシロはまったく気にしたふうもなく、宛がっていた中指を一度自分の口に突っ込んだ。舌で丁寧に舐めている光景は、なんだかすごくいやらしい気がしてうっとりと見つめてしまう。 それも束の間のこと、その指はまたコンの同じ部分に当てられ、今度は先端だけでなく結構な深さまで入ってきた。
「あっ!」
本来出すためだけに使われるそこは、侵入してきた異物に拒否反応を示す。しかし指の腹が何かを確かめるように動き出すと、たちまち快感へと変貌してコンの身体を支配した。
「気持ちいいだろ?」
股が自然に開いて、指をもっと奥へと受け入れようとしている。その様子にシロは満足したように笑って、指をもう一本増やした。すっかり濡れてしまったそこはいとも簡単に新たな指を受け入れる。 ついさっき絶頂を迎えたはずのあそこは、後ろの刺激に答えるように再び硬度を増していた。現金なやつだ、と自分で思いながら、気持ちいいのだから仕方がないだろう、と割り切る。
「なあコン、これをそこに入れたらどうなると思う?」
そう言ってシロが袴を捲って覗かせたのは、硬く張り詰めた彼の男根。自分の狭いそこに果たして入るのだろうかと息を呑むも、その半面でこれが入るととてつもない快感が得られると、本能が訴えてくる。
「欲しい……」
思わず口を突いて出た言葉に、コンは自分ではっとなる。理性が利かない。自分の手では決して得ることのできない極上の快感を知ってしまったコンの身体は、制御不能になるほど侵食されていた。
「欲しいじゃなくて、ください、だろ?」
悪魔の囁きは、甘い口付けを伴ってコンを煽る。
「ください……」
だくだくと従ってしまう自分に恥じらいを感じはするが、そんなことよりもいまは目の前にあるシロのそれが欲しくて堪らない。
「早く、入れて」 「そう焦んなって。ゆっくりやらねーと、痛いだけだぜ」
熱い感触が、コンのそこに宛がわれる。指でわずかに広げられたものの、まだまだ狭い穴を抉じ開けるように押し進んでくる肉棒は、時折止まってはコンの様子を窺ってきた。 重い。決して痛みは感じないけれど、肉襞をいっぱいいっぱいに広げられる感触は、細い指が入ってくるのとはわけが違う。
「ぁっ……」
だが、それもある程度の深さになると、やはり快感に転じてコンの意識を掌握しようとする。
「全部入ったぞ」
珍しく切羽詰ったような声で告げたシロは、切なげに眉を寄せた。
「シロ、気持ちいいのか?」 「うっせー。お前は大人しく感じてりゃ、いいんだよっ」
いつもの嘲笑が消え失せている辺り、どうやら彼は感じてくれているらしい。それが妙に嬉しくて思わず笑みを零すと、シロは睨むような目をする。 最初はゆっくりとした律動。生々しいその音と、中を掻き乱す質量に堪らず自ら腰を揺らしたくなるが、先に限界が来たのはシロのほうだった。
「お前ん中、気持ちよすぎだろ」
呻るように言ったあと、後ろを圧迫していたそれが動きを速めた。
「あっ! だめっ、おかしくなる、から……っ」
突き上げられ、揺さぶられ、容赦のない動きに悲鳴めいた声が出てしまう。臓物を引っ張り出すような感覚も、そして余裕のない顔で自分を犯すシロの顔も、何もかもが堪らなく気持ちいい。
「シロ……シロぉ……やばいって」
少しずつ彼に身体を蝕まれていくような快感。意識が飛びそうなほどのそれに思わずシロの背中を掴むと、冷たい手がコンの頬に触れた。
「他の奴にここ使わせんじゃねーぞ」 「使わせないから……だから、もっとして」
そう言った瞬間、コンの中を犯しているそれが硬さを増した気がした。どうやら彼の中の何かを刺激してしまったらしく、出し入れする速さが更に上がる。
「あんっ……あぁっ」
野生的なセックスだな。腰を少し持ち上げて、叩きつけるように突いてくる彼を見ながら、意識の端でそんなことを思った、そして、そんな彼に犯され、心も身体も奪われそうな自分がいることに気がついてしまう。 それが一過性の感情だとしても、いまだけは彼にも同じ気持ちを向けてほしいと思うのは欲張りだろうか? こんなにも快感を恵んでくれる彼に、それ以上のものをくれというのはおかしいことだろうか?
「シロ……シロ……」
甘い吐息の中で何度も名前を呼びながら、細められた目に訴える。
「もう、イっちまいそうだ……」
だが、やはり彼は決して同じものを返してくれなかった。本能に染まった瞳でコンを見下ろし、絶頂が近いことを告げる。
「いいよ……中に出して」
散々に後ろから刺激されたコンも、もう限界が近かった。一度果てたはずのそこからは蜜が止め処なく溢れ出し、自分の腹をいやらしく濡らしている。
「ぁんっ……あぁん……あっあっ」
シロの腰が、最果てに向けて更にピストンを速めた。 暴力的で本能的だが、自分の顔からはずれることのない視線だけはどこか甘さを孕んでいるようで、とてつもなく興奮した。 シロがそこを突き上げるたびに湧き上がってくる、絶頂の兆し。もっと、もっとと自ら腰を振っても、シロはもう嘲笑ったりしない。代わりに太ももを掴んだ腕の力を強くして、眉間の皺を深くした。
「もう、出すぞ」
その言葉を最後に、そこから先は声も出さずにお互いの身体をぶつけ合い、もうすぐ目の前に迫った到達点へと確実に近づいていく。彼の吐息が吹きかかるくらいに顔を起こしてみると、予想外にも柔らかいキスが迎えてくれた。
「シロ……イっちゃうよ」 「オレもだ」 「シロ……シロ……ああんっ!」
叫んだ瞬間、脳まで痺れが走った。意識が奪われそうなほどの快感と同時に、コンの張り詰めていたモノが欲望を吐き出す。 ついで体内に何か注ぎ込まれるような感覚がして、それがシロの白濁だと理解するのに少し時間がかかった。
「シロ……」
荒い息の中で彼の名を呼ぶと、再びとろけるような口づけが降りかかる。彼の性格とは裏腹にどこまでも甘く優しいそれをしばらく堪能すると、シロの気配はゆっくりと薄れていった。
「――なあ、コン」
魂魄から本来の身体に戻った一護が、神妙な顔をしてぬいぐるみのコンを振り返った。
「お前、俺の身体に入ってる間何かしたか? なんかケツがいてーんだけど」
ああ、そういえばその身体はあなた様のものでしたね、などと思いながら、どう言い訳しようかと思考を巡らせるコンだった。
終わり
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