04.愛してる


 目覚めると、昨日の朝と同じで蜻蛉とんぼは仕事に行ってしまっていた。早起きしたつもりだったのにな……。
 そして昨日と同じように、ダイニングのデスクに置いてある朝飯を食べ、あとは適当にくつろいだ。
 それにしても部活に出ないっていうのは楽だな〜。冬休み中は朝から午後までやるんだけど、その練習がキツいのなんの。それに先輩たちがいるから気を配らなきゃならないし……。こうして部活に出ないだけでもずいぶんと違う。
 部活は絶対にやめるつもりでいる。そして文芸部に入部するんだ。分からず屋の親も何とか説得してみせる。
 さて、問題はおれの恋だな。告白しようと決めたはいいけど、言うタイミングが分からない。台詞は考えなくてもいいと思った。蜻蛉の言ったとおりに、自分の気持ちを素直に相手に伝えるだけでいいかなって。でも告白しようとしている相手に告白のアドバイスもらうって絶対おかしいよなぁ……。
 う〜ん……やっぱり寝るときが一番いいかな。雰囲気もなんかいいし。うん、早くも決定。ということで今夜結構だ! でもいざ言おうってときになると言えそうになかったり……。頑張れ、おれ。



 夜――今日も木村さんが来て、適当に話したり、ゲームしたりして三人で遅くまで楽しんだ。いつもは早く寝ちゃう蜻蛉だけど、明日は仕事が休みだから今日は遅くまで起きてるんだ。
 そして十二時を過ぎて木村さんが帰り、おれたちは寝ることにした。いよいよって感じだな。おれの人生の中で最も大きなイベントかもしれない。

「あ、あのさ……」
「ん?」

 言うんだ、おれ! と思ってもやはりなかなか言えなくて、言葉に詰まってしまう。

「良ちゃん?」

 言いかけたことを最後まで言わなかったことを不審に思ったのか、蜻蛉が呼びかけてくる。これはもう、言うしかない!

「おれ、蜻蛉のこと……好き、なんだ」

 ついに言っちゃった! おれの素直な気持ちを、大好きな蜻蛉に言っちゃったよ! おれは言えたことの達成感で頭がいっぱいになった。

「僕は……僕も良ちゃんのこと、好きだよ」
「え?」
「僕も、誰にも負けないくらい良ちゃんが好き」
「ほ、本当に!?」
「うん。大好き」

 この恋は実ることがないものと思っていたけど、蜻蛉もおれのこと好きってことは、実ったってことだよな? 夢なんかじゃなくてさ?
 嬉しくて嬉しくて、なぜか涙が出てきた。

「良ちゃんは優しいし、かっこいいし、ちょっと子どもっぽいところも可愛くて好き。――一学期の半ばくらいから、ずっと好きだった」

 蜻蛉はおれが蜻蛉を好きになるより前から、おれのことを見ていてくれたんだ。

「でも、やっぱり言えなくてさ。男同士だから駄目かな、って。だから良ちゃんが好きって言ってくれて嬉しかった」
「蜻蛉……」

 おれは蜻蛉の細い身体をそっと抱きしめた。丸い背中は優しさと暖かさを帯びている。それは蜻蛉の人間性を表しているんだと思う。

「良ちゃん……」

 すると蜻蛉が身を翻して、おれの背中に腕を回してくる。布団を被っていても寒いはずなのに、お互いの熱でとても暖かく感じられた。
 蜻蛉はおれのことを好きになったことで、ずっと悩んでいたんだと思う。おれも蜻蛉を好きになったときに、性別のことでとても悩んだ。その期間が長かった分、蜻蛉はとても辛い思いをしていたと思う。
 だけどおれと同じように、たった今恋が叶ったのだから、きっとおれ以上に嬉しいに違いない。

「大好きだ」

 蜻蛉の唇が、おれの唇と重なった。
 最初は触れるだけの軽いキスだったけど、それが触れるだけじゃなくて段々と吸い付いてくるようになる。
 おれもされてるだけじゃ我慢できなくて、自分から舌を入れてみる。すると蜻蛉もそれに絡めてきて……。
 これがおれにとっての初キスだった。初めてからこんな激しいなんて、ちょっと恥ずかしいな。でも相手が大好きな人だから、嬉しさのほうが大きい。
 
「良ちゃん?」
「ん?」
「その……いいの?」
「うん。おれ、蜻蛉にされたいよ?」

 好きな人にされたいって思うのは当然だと思う。もちろん、こんなことするのだけが愛情表現ってわけじゃないけど、お互いの気持ちを深めるのはやっぱり……。
 蜻蛉の手がおれのズボンの中に入ってくる。パンツの上から、半勃ちになったおれを揉みだした。

「……っ……」

 剥けている先っぽのほういじられて、変な声が出そうになる。

「声、我慢しなくていいよ。二人しかいないんだから」
「うん」

 すると今度はパンツの隙間から手が侵入してきて、蜻蛉の冷たい指が先っぽに触れた。そしてぐりぐりと弄られる。

「……ぁっ……」

 今度は我慢できなくて、あまり人に聞かれたくない声が漏れてしまった。

「良ちゃんの声、可愛いね。もっと聞かせて」
「……ぁっ……だめっ」

 先走りの蜜が溢れているのが自分でも分かった。だって、すごく気持ちいいんだもん。
 もっとしてほしい。そう思っていたら、なぜか蜻蛉は弄るのをやめた。こんなところで終わりってことはないよな……。ちょっと心配になって蜻蛉の頬に触れてみると、蜻蛉はおれの服を脱がしだした。そして自分も服を脱ぐと、唇を重ねてくる。ちゃっかり指でおれの乳首を弄くりながら。

「触る前からここ尖ってたけど、僕に弄ってほしかったのかな?」
「違っ……やぁ……」

 指の腹で撫でられると、おれは堪らず身体をよじる。

「ぁ……やだっ……やめて……」
「やめてほしい?」

 悪戯っぽく訊き返されて、おれは慌てて首を横に振る。もっと弄くってほしいもん……なんて恥ずかしくて言えないけどさ。
 ちゅる、といういやらしい音を立てて、蜻蛉はおれの乳首に吸い付いてくる。

「……ぁん……」

 舌で舐められたり、時々歯を立てられたりすると、とても気持ちよくて意識を失いそうだった。
 それもつかの間のこと。蜻蛉は乳首を弄るのをやめて、おれのズボンを脱がし始めた。

「……恥ずかしいよぉ」

 相手が好きな人でもそうでなくても、やっぱり自分のを見られるのは恥ずかしい。慌てて手で覆うと、蜻蛉がクスリと笑った。

「笑うなぁ」
「ごめん。でも、良ちゃんが可愛くて」

 蜻蛉はおれの手を除けて、開いた脚の間に顔を埋める。そして新たな快感がおれを襲った。

「んぁっ……やっ……あぁ……」

 冷たい舌の感触が気持ちいい。軽く舐められただけで変な声が出てしまう。

「もっと激しく……して……」

 もう自分が何を言っているのか分からなかった。快感だけが理性も思考も覆いつくして、訳が分からない。
 蜻蛉はおれのをくわえたり、舐めたり、いろんなパターンで刺激してくる。だがやがて、一つのパターンに絞って、ある一箇所を集中的に舐めてきた。

「そこは……だめぇ……」

 先端の丸く窪んでいるところ――そこが一番感じるところだった。蜻蛉にもそれが分かったのか、そこばかりを、舌を起用に使って舐めてくる。

「そんなとこ舐めたら……イっちゃうよ……ぁん……」

おれは無意識のうちに自分の腰を動かしていた。

「……あぁ……んっ……ぁ」

 やっば。もうイっちゃう……。

「ぁ……」

 そしてついにおれは弾けた。
 脚と腰の力が抜けて、おれ自身がひくひくと震えている。その度に白濁が溢れ出すのがよく分かった。だけど蜻蛉はそれをいとも簡単に飲み込んでしまった。

「なんか変な味がした」

 蜻蛉は口を拭ってちょっとだけ微笑んだ。

「――良ちゃん……挿入いれるよ?」
「うん。蜻蛉がほしい」

 ついにこのときが来た、って感じだった。えっちの醍醐味っていえばさ、やっぱりこういうことだし……。
 でも少し不安でもある。痛くないのかな、とか……もういいや。相手は蜻蛉だもん。きっと気持ちよくしてくれると思う。
 入り口に押し付けられ、ゆっくりと侵入してきた。痛みはまったくない。むしろ快感がせり上げているみたいだった。

「大丈夫?」
「うん。蜻蛉がいるのが分かる……」

 完全に挿入ると、蜻蛉はおれに覆いかぶさって口付けてきた。

「ぁ……っ」

 蜻蛉が律動を開始した。
 突かれる度に快感がせり上げてきて、リズムよく声が出てしまう。

「ぁ……ぁんっ……ぁぁ……」
「……っ……」

 蜻蛉もおれに締め付けられているが気持ちいいのか、とろけそうな顔して時々息を詰まらせる。

「良ちゃんっ……良ちゃんのまた……勃ってるよ……」
「ぇ……」

 さっき果てたばかりなのに、おれはまた元気に育っていた。おれはそれをしごき始める。

「ぁ……ぃぃ……もっとして……」

 無意識のうちに動き出していたおれは泣きそうな声を上げる。そして大胆にも蜻蛉を押し倒すと、自ら激しく上下する。

「そんなに動いたらイっちゃうよっ」

 蜻蛉も苦しそうな――それでいてどこか気持ちよさそうな声を上げた。

「いいよ……出して……蜻蛉でいっぱいにして……あんっ」

 蜻蛉は身体を起こして、おれを抱き込む。おれが腰を動かすのに合わせて、蜻蛉も腰を上下した。
 痛みなんかちっともなかった。あるのは膨大な嬉しさと快感。そしておれと蜻蛉のお互いを想う気持ちだけだ。愛する人とえっちするのが、こんなに幸せなことだなんて知らなかったな。

「良ちゃん……愛してるよ」
「おれも、愛してる。蜻蛉とずっと一緒にいたい」

 最奥を突かれた刹那、おれは二度目の射精をした。
 そして蜻蛉もおれの中で果てた。
 ひくひくと蜻蛉が震えている感触と、白濁が注ぎ込まれているのが分かる。

 ――おれの心身は、幸せでいっぱいだった。








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