終.  俺が言ったことのある愛の言葉の中でも一番感情がこもっていた


 触れるだけの軽いキスから始まった。どうしていいのかわからないのだろう、ひたすらに唇を押しつけてくるキョンの口内に舌を忍び込ませると、細い身体がビクついた。

「キス、初めてか?」
「はい……」

 この分だとセックスも未経験だろうな。こんなにセックスに不慣れな相手はいったいいつ以来だろうか? 思い出せない辺り、結構前のことだろうし、たいして思い入れのない相手だったに違いない。
 でも今回の相手は一生忘れないぜ。細められた瞳を見つめながらそんなことを思った。
 何度も繰り返されるディープキスにキョンもいい加減慣れてきたのか、自分から舌を絡めてくるようになる。俺はそれを時々甘噛みしたり、吸いついたりしながら、キョンとのキスを堪能した。
 そしてそのまま本番へ――といきたいところだが、辰雄に犯された身体でキョンを抱くのは気が引けたので、いったんシャワーを浴びることにした。その間、このあと行われる行為を想像して勃起しっぱなしだったことは当然だろう。
 ベッドに戻ると座っていたキョンをすぐに押し倒し、再びキスから始める。続いて耳、首筋と、上から順に舌を這わせていった。

「あっ……」

 キョンはどこもかしこも感じるらしく、舐める度に甘い喘ぎを漏らした。

「あっ! ダメっ!」

 そしてその声は、舌先が乳首を捉えるといっそう大きなものになった。
 まずは尖らせた舌先で突き、押し込むように舐め回す。その間、俺のいきり立ったチンコは同じような状態のキョンのそれに押しつけ、いやらしく腰を動かした。

「どうだ?」
「気持ちい……あっ!」

 すっかり俺の唾液で濡れてしまった乳首に吸いつくと、キョンの身体が跳ねる。その刺激から逃れようと身体を捩るも、俺の力には到底敵わない。肩を押さえつけて、まるで赤ん坊が母親の母乳を飲むがごとくしつこく吸った。

「先生、しつこすぎっ……おかしくなる」

 掠れた声がそう咎めるが、いまの俺には煽っているようにしか思えない。おかしくなるならなっちまえ。

「キョンのチンコ、ビンビンだな」

 手に握ったキョンのシンボルはずいぶんと硬くなっている。ピンク色の亀頭を濡らす透明の蜜は、俺とキョン果たしてどちらのものだろうか? 人差し指でそれを掬い取り、鈴口をぐりぐりと弄るとチンコがぴくんと反応した。
 まずは裏筋をなぞるように舌を這わす。亀頭と包皮の境目は特にしつこく攻め、そのまま表と中心の窪みを舐め上げる。しょっぱいのはきっと絶え間なく溢れ出る先走りのせいだろう。
 そして唾液でぐっしょりになったら、何の戸惑いもなくそれを口に含んだ。

「あっ……あっぁ……」

 バキューム強めのフェラはさそがし気持ちいいことだろう。快感に歪むキョンの顔を上目に確認しながら、口を上下に動かす。

「あんまりやったら、イっちゃいますって」

 余裕がないことくらい、この我慢汁の量を見てればわかるさ。天を向いたチンコは早く解放してくれと、俺の口の中でヒクヒクしている。だから焦らしたりはせず、扱くスピードを上げてやった。

「あっ! イク!」

 キョンが声を上げると同時に、俺の口の中に白濁が放たれる。ねっとりと濃厚なそれは苦かったが、迷いなく飲み込んだ。最後の一滴も逃さないよう馬鹿丁寧に舐め取って、最後に感嘆の息をついた。

「キョンのチンコすげぇ美味かったぜ」
「そんなこと、言わないでください……」

 恥ずかしそうに顔を背けたキョンはイったばかりでまだ荒い呼吸を繰り返している。それが落ち着くまで待ってやろうかと思ったが、ぐっしょりと濡れたチンコの下にある窄まりが、呼吸とともにひくひくとしているのを見ていると、俺の身体はあっという間に冷静さを失ってしまった。
 枕元の小箱から取り出したのはローションだ。いやらしい印象しか持てないその透明な液体を中指にちょんと載せ、未開の入り口へとあてがう。

「いまからここに指突っ込むから、痛かったらすぐ言えよ?」

 こくこくと頷く顔は相変わらず紅いが、そこを使うことを拒みはしない。どうやら俺のを受け入れる覚悟はできているようだ。しかし、時に身体は自分の気持ちについてきてくれないこともある。キョンのそこは未開発なのと身体が細身であるのも相まって、ずいぶんときつかった。

「痛くないか?」
「まだ大丈夫……」

 少し動かすのですら躊躇うほどの締めつけだ。これは一筋縄ではいかないだろう。
 指一本分穴が広がるまでしばらくそのままで待つことにする。その間、暇になったもう片方の手は、さっき散々虐めてやった胸の突起を再び弄ぶことにした。

「やっ……あっ……」

 落ち着きを取り戻していたそこも、すぐに硬くなってくる。正直な反応に少し嬉しくなりながら、キョンの体内に侵入した指を少しずつ動かしていく。異物を排除しようとする力が働いているようだが、それに構わず周辺を探っていると、妙に柔らかい部分に指先が到達した。それをぐっと押すとキョンの身体が急に強張る。

「ここ、気持ちいいだろう?」

 その問いかけに、答えは返ってこない。キョンは何かを堪えるように歯を食いしばっている。だがそれは、決して痛みを堪えているわけではない。なぜなら、さっきイったばかりで萎れていたはずのチンコが、一瞬にして硬さを取り戻したからだ。

「気持ちいいなら、我慢なんてしなくていいんだよ。どうせ俺にしか聞こえねえんだから」
「あっ!」

 先端を掌で擦ると、淫らな声が迸る。きつきつだった後ろの穴も徐々にほぐれてきたから、指を二本、三本と増やしてやった。

「やらしい顔してんな〜」

 赤らんだ頬と、物欲しそうに俺を見上げる瞳。余裕も冷静さもなくし、快感に溺れかけた表情はどこまでも淫靡で、興奮する。

「もう入れていいか? いい加減、爆発しそうだ」
「待って。俺も先生の、フェラしたい」

 俺のでよければ好きなだけしゃぶらせてやるさ。フェラしやすいように腰を突き出すと、キョンはまず手で触れてくる。まるで愛しいものを撫でるように指を滑らせ、ぱくりと口に含んだ。
 ぎこちないフェラチオだ。歯が当たったり、吸引が弱かったりと、正直なところそんなに気持ちいいものではない。それでもキョンがやってくれているのだと思うと、天にも昇る気持ちだ。
 だがやっぱり、もどかしい気持ちを抑えられなかった。頑張って咥えてくれているところ悪いが、股間に埋めた頭を優しく押さえると、自ら腰を動かした。

「ん――――――っ!?」

 苦しそうにしながらも、キョンは俺のチンコを吐き出そうとはしなかった。だから更に深く激しく腰を振って、ついには喉奥に欲望の塊を放ってしまう。

「キョン、わりぃ。そのままイっちまった……」

 口の中に精液を受け入れたキョンは、いきなりのことでむせ返っている。俺は慌てて枕元のティッシュをとり、それに精液を吐き出させた。初めてじゃそうなるもの無理ないな。すっかり涙目になっている。

「飲み込めなくてすいません……」
「無理するこたーないさ。俺のほうこそ口に出して悪かった」

 そう言って軽くキスをした。
 次はいよいよ挿入だな……といきたいところだが、いくら精力絶倫な俺でも少しのインターバルは必要だ。硬さを失ってしまったそこが復活するまで、キスやハグをしながら時間が過ぎるのを待つ。

「――キョン、入れるぞ」

 そうして三十分くらい経った頃だろうか? 自分の下腹部に熱が集まってきたのを感じ、今度こそ本番を迎える。
俺の声にキョンは無言で頷いた。その顔には、初めての体験に少し不安を抱いているような、それでいて物欲しそうな色が浮かんでいた。
 ローションでぐっしょり濡れた穴に、いまにも暴れ出しそうな俺のチンコをあてがう。指で十分に慣らしたおかげか、他人のより少し大きめの俺のチンコでも、するっと吸い込まれてしまうくらいに柔らかくなっていた。だが半分ほど入ったところで、それ以上の侵入を拒むかのように硬く狭い壁が待ち構えていた。

「力抜け」

 キョンが息を吐くと、狭まった進路が少しだけ広くなる。その隙にゆっくりと肉棒を押し入れ、やがて最奥へと到達した。

「すげぇ気持ちいい」

 妄想の中でいったい何回キョンを犯しただろうか? その妄想がいま現実となり、快感と一緒に大きな喜びが胸の中に満ちる。

「俺も、先生の熱いのがすごく気持ちいい」

 キョンのその台詞はあながち嘘ではないらしい。やつのチンコは自分の腹にぴったりくっつくくらいに勃起している。

「痛くねえなら動かすぞ?」
「はい」

 いま一度キスをして、ゆっくりと腰を動かす。

「あっ……」

 絡みつくような内襞に、あっという間にイってしまいそうだった。それを懸命に堪えながら、キョンの身体が反応するところを重点的に突き上げる。
 内側を抉る音と、腰がぶつかり合う音、そして俺たちの荒い呼吸が行為のいやらしさを表すように響き渡った。それに混じって聞こえるキョンの喘ぎ声が、表情の艶かしさと合わさって興奮を掻き立てる。

「あっあっ……先生っ」

 涙の滲んだ瞳でキョンは俺を呼んだ。布団を掴んでいた手を優しく握り、細っこい身体に覆い被さる。そして耳を少し舐めたあと、ディープキスを何度も交わした。

「お前はどうしてこんなに可愛いんだ」

 触れた頬はすべすべだった。若いっていいなあ、なんて思いながら、抓ったり撫でたり、突いたりと、無意味にそこを弄る。

「可愛くなんて、ないです……」
「いや、お前は可愛い。その顔も髪も、耳の形も身体も、中身も全部……」
「あっ!」

 俺はいままでそれなりに男と遊んできた。三十代も後半に突入したおっさんから、童顔の年下までいろいろだ。しかし、こいつほど可愛いと思い、アホみたいに惚れ込んだ男なんて誰一人としていなかったと思う。

「キョン、好きだ」

 だからいま口にした言葉は、俺が言ったことのある愛の言葉の中でも一番感情がこもっていた。

「俺も好きです、先生。大好き……」

 身体を揺さぶられている中、懸命に言葉を紡いで、キョンはそう返してくれた。好きだという気持ちが最大級なら、同じ言葉を返されたときの嬉しさも最大級だな。
 そこからはもう何も言わず、ひたすらに腰を振った。先走りが出始めたのだろう、滑りも滑らかになってきて、いよいよラストスパートを駆ける。

「先生っ……やばい……もうイク!」

 先に絶頂を迎えたのはキョンのほうだった。握った手の力とケツの締めつけがいっそう強くなると同時に、ピンと跳ねたチンコから白濁がドクドクと溢れていた。
 そしてその何秒かあと、俺も限界を迎えてキョンの中に欲望と愛情の入り混じった塊を吐き出した。

 後悔? そんなものするくらいなら、絶対に手なんて出さなかったさ。男同士で、しかも未成年で、更に自分の生徒という壁があっても、キョンが自分と同じ気持ちを抱いているとわかっていながら、それをふいにするなんて考えられない。
 もちろん俺たちが世間で赦されない関係だということはわかっている。だがそれは他人がどうこう言うことじゃない……ってのはわがままか。なんにせよ、俺はいま幸せで、おそらくキョンも幸せだと思う。互いが幸せで、誰にも迷惑をかけてないのならそれでいいだろ?
 腕の中で眠るキョンを見つめながら、俺はそんなことを考えていた。


 ◆◆◆


 夏も終わりが近づいてきたにもかかわらず、暑さが和らぐ気配は一向にない。しかし、この職員室はエアコンのおかげで別世界のような快適な温度が保たれている。
 俺――岡部浩二は、来たる二学期に向けての準備を終え、甘めに仕立てたコーヒーを飲みながらのんびりと時間を潰していた。

「岡部先生」

 声をかけてきたのは、珍しいことに校長だった。禿げ散らかした頭には極力目を向けないようにしながら、「はい?」と自然な疑問符を上げる。

「二学期から先生のクラスに入る男子生徒ですが、今日挨拶に来てるんですよ。お会いになりますか?」

 校長の言ったとおり、俺の受け持つクラスには転校生が入ってくることになっている。いったいどんなやつだろうか? カッコイイのか? それとも可愛いのか? いずれにしてもキョンよりいい男なんていないけどな。

「会います」

 少しの間を置いて返事をすると、校長について職員室を出る。まだ顔も知らぬ転校生との対面に少しワクワクしながら、挨拶の台詞を頭の中で考えていた。
 しかし、浮かれていられたのもそこまでで、校長室に入った途端に俺は毒を飲まされたような顔をせざるを得なかった。
 そいつの髪は、高校生にあるまじき派手な金色をしていた。顔はそれこそ雑誌のモデルでもやってそうなほど整っていて、肌は健康的な小麦色に焼けている。それだけならイケメンゲットだぜ、くらいにしか思わなかったのだが、その髪にも顔にも、そして肌の色にも見覚えがあったのだ。しかもあまりいい思い出ではない。

「磯崎辰雄です。よろしくお願いします、岡部先生☆」

 ……ああ、俺の教師人生、前途多難すぎて憂鬱になりそうだ。




おしまい




inserted by FC2 system