03. 近親相姦
週に一、二回ほど司は仁志と身体を重ねるけれど、暗い部屋では彼の身体がどんなものかよく分からなくて、ずっと細いばかりのものだと思い込んでいた。だが、実際に今背中から洗ってやってるそれは、想像していたのと少し違う。
細いことには細い。しかし痩せこけているわけではなく、腕には程よく筋肉がついていて、腹筋も割れ目がはっきり見て取れるほど鍛えられていた。筋肉の塊ともいえる司には及ばずとも、彼の普段のひ弱そうなところからすると、目に余るものがある。
弟の身体の成長ぶりに感心していたのも最初のうち。彼の中心部に目がいくと、司の手は無意識のうちに胸を揉んでしまう。
「ちょっ……!」
完全に油断していたらしい仁志は身体をビクつかせた。
「揉んだだけで感じるとは、大したもんだな」
揶揄するような言葉を耳に吹きかけて、人差し指で乳首をぐりぐりと弄ってやると、途端に息が荒くなる。
「兄ちゃ……んっ!」
振り向いたところに不意打ちのキス。最初は啄ばむように、徐々に貪るような濃厚なものに変わって、最後にわずかに開いた隙間から舌を侵入させた。
キスなんてセックスよりも交わす回数が多いはずなのに、なぜか今日のそれは快感に満ちていて、司のモノは鎌首をもたげつつあった。少し硬くなったそれを仁志の背中に押し付け、何度か上下すると抱きしめた身体が身震いする。
「なんか、熱いよ、それ」
あっという間に太い肉棒と化した司のモノに、大胆にも仁志は直に触れてきた。何度かそれを上下に扱かれ、ついで司の前に膝をついたかと思うと、そのままぱくりと口に含んでしまう。
「おい、仁志……」
セックスのときはいつも消極的な彼が、ここまで積極的に奉仕してくれるのは珍しい。意外に思ってじっと見下ろしていると、舌先が中心の窪みを刺激して、腰の力が抜けてしまう。
「仁志っ……なんか、今日すげぇぞ」
いつもの、弱々しいが奥底から快感を呼び覚ますようなフェラチオも好きだが、こちらの刺激的なのも悪くない。剥けた部分を舌全体で舐め上げられ、飲み込まれ、そして窪みを舌でなぞられ……司がいつも仁志にしてやるようなフェラを逆にやられてみる気分はなんとも複雑だった。
だがそんな思いよりも、快感がせり上げてくるほうが大きかった。
「うぁっ……」
司の口から変な声が漏れてしまう。その羞恥を覆うように激しいフェラが続けられ、がくがくと太い脚が痙攣した。情けないと思いつつも、仁志の顔を押し戻すことができず、されるがままにじっとしていれば、急に射精感が込み上げてくる。
(やっべ……)
さすがに弟の口内で射精するわけにはいかない。もっとしてほしいという感情を抑え、司のモノにしゃぶりついていた仁志の顔を優しく押し戻すと、荒い息を漏らす口に自分の唇を重ねる。
塩辛い気がした。おそらく司の体液のせいだろう。
「今日はえらく過激じゃねえか」
「だ、だって春樹くんが……」
まさかここで春樹の名前が出るとは思ってもみなかった司は、妙な不安に駆られてしまう。
「お前、春樹になんかされたのか?」
「ううん。違うよ。春樹くんがね……」
言いづらそうに言葉を詰まらせた仁志の頭を軽く撫でてやり、言ってみろ、と優しく声をかければ弱々しい視線がこちらを見上げた。
「春樹くんが、兄ちゃんは激しいのが好きって言ってたから」
「……はあ?」
なんじゃそりゃ、と身に覚えのない台詞に問い返したとき、そういえば今日の昼に春樹が「金城兄弟の味方」などとほざいていたのを思い出す。その「味方」というのが度を行き過ぎて、きっとこういう事態になったのだろう。
(あの野郎……明日会ったらぶん殴ってやる)
明日が土曜日で、春樹とも会うことがないということを失念しているのに気づかず、司はイライラした感情を飲み込む。この場にいない人間にセックスを邪魔されるのは、なんとも不愉快だ。
「んじゃ、お礼にお前を気持ちよくしてやるか……」
そうして司は仁志の腕を浴槽の縁にもたれさせ、四つん這いに酷似した態勢をとらせる。それで仁志は何をされるか分かったらしい。怯えたような視線でこちらを振り返り、何か言いたそうに口を開いたが、結局何も言わぬまま諦めたようにまた元へ戻った。
身体を洗っている途中で行為に及んだため、仁志の身体にはまだ石鹸の泡が付いたままだった。その泡を指ですくい、無防備に突き出された尻に触れる。――正確には、その中心部に。
「やだっ」
「今更何言ってやがる。毎度やってることだろ」
普通ならここで気を遣って優しい言葉をかけてやるべきなのだろうけれど、一度解放してしまったS的な面は、仁志の拒絶を無視して孔を押し開いていく。
「うっ、あっ……」
湯を浴びていたせいか、そこはいつもと違ってすんなりと異物を受け入れた。二本目も押し留まることなく、だが三本目になると、仁志の口から苦悶の声が漏れる。
「ういっ……た」
「痛いか?」
ううん、と弟は首を横に振るが、実際無理しているのが分かる。挿入していた指を一旦引き抜き、泡を足して再び挿入。仁志の体液と泡とが潤滑作用して、しだいに指を動かしやすくなる。
「あんっ……う、あぁっ」
仁志の口から零れる甘い声は、司の中に溜まっていた欲望を掻き立てるばかりで、罪悪感など微塵も覚えさせない。それに後押しされて仁志の中を弄る指もいやらしさを増し、興奮も高まっていく。
「ぁっ、いいっ……ぁんっ! はぁ……」
「お前、すっげぇいい声出すな。思わずこっちを挿入たくなるぜ」
「やっ」
限界まで成長してしまった巨根を尻の割れ目に押し当てると、仁志は驚いたように声を上げた。
「安心しろ。まだ挿入ねぇよ」
ぐっと指で奥を突くと、一瞬だけ仁志は苦悶を浮かべて、しかしすぐに蕩けるような表情を浮かべる。
挿入された経験のない司には、それが本当に気持ちよいものなのか分からないから、仁志の一つ一つの表情で読み取るしかなかった。部屋でやるときより明るい分、細かい表情もよく見て取れる。
「ふぁっ……も、いいからぁ……ぁっあっ」
目に涙が滲んでいるのは、痛みからだろうか、それとも想像以上の快感からだろうか? 太い指で頬を流れる涙を拭ってやり、冷たくなってしまった耳を柔らかく噛む。
「なあ、何がもういいんだ?」
分かっていてあえてそれを訊くのは、仁志の声を聞きたかったからだ。
「指、もういいからっ……」
「指抜いて、それで終わりでいいんだな?」
「違っ」
我ながら弄くるのが好きだな、と思いつつ、その半面でちゃんと弟にお願いされたいという欲望は膨れ上がるばかりだった。
「どうしてほしいんだよ? ちゃんと言えたら、やってやる」
「意地悪っ! 兄ちゃんなんか、嫌いだもん」
「へえ。じゃあ終わりでいいんだな?」
そう訊くと、仁志は焦ったように首を横にブンブンと振る。
「……兄ちゃんの、挿入てよぉ」
ぼそりと告げられた言葉に思わず唇の端が吊り上る。本当はもっと明確に言ってほしかったが、あまり弄くりすぎるのもよくない。
「よ〜し、分かった。ご希望どおり挿入してやるよ」
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