うちの親父が変態すぎて生きるのが辛い



 朝起きた瞬間に、俺こと築城ちくしろ大我たいがは異変に気がついた。
 なんか顔がやたらカピカピしている。それはちょうど真冬の風呂上りに、化粧水を塗り忘れて肌を乾燥させちまったときの感触によく似ていた。けど今は真冬じゃないし、風呂上がりでもねえ。じゃあどうして顔がカピカピしているのか――指で頬を擦ると白色をしたカスみたいなのがポロっと取れた。それをなんとはなしに嗅いでみる。
 この臭い――男なら馴染み深く、栗の花のそれとよく似ていると言われている、あれの臭いだ。たぶん俺の部屋のゴミ箱に詰め込まれたティッシュの塊からも同じ匂いがするんだろう。それがどうして俺の顔からするかというと……。
 瞬時に弾き出された答えに俺は全身の血が沸騰するような怒りを覚え、自分がボクサーパンツ一枚なのも忘れて部屋を飛び出した。ドタドタと音が鳴るのも気にせず階段を駆け下り、リビングに続くドアを開け放つ。

「――おはよう、愛しのマイサン? そんなに慌ててどうしたんだい?」

 中にいた野郎は飛び込んで来た俺を見ると、爽やかに笑った。そしてその笑顔を目にした俺は怒りのボルテージが更に上がっていくのを自覚しつつ、味噌汁をダイニングテーブルに置き終わったそいつに容赦なく飛び蹴りをかました。床に倒れたところですかさず逆十字絞に入る。

「てめえは実の息子に何しとんじゃボケーッ! 寝てる隙に顔に汚ねえもんぶっかけてんじゃねえッ!」
「ああんっ! 朝から激しいっ?」
「気色悪い声出してんじゃねえよ! そのまま永眠させたろかオラッ!」

 紹介しよう。今俺が締め上げているこいつは俺の実の父親、築城素久もとひさである。そう、父親なんだよ。父親なんだが……息子である俺に対してねじ曲がった愛情を向けてくる変態でもあった。

「しょうがないだろ! お前の寝顔があんまりにも可愛いもんだから我慢できなかったんだよ! そしたらオナって顔射しちゃうのは父親として当然の行いだろ!?」
「んなわけねえだろ変態! 実の息子の寝顔オカズにコクやつなんぞてめえくらいだよ! マジで死ねやクソ親父!」
「あああんっ! 息子の腕の中で逝っちゃうよおおお!」

 こういうやりとりは何もこれが初めてってわけじゃない。むしろ毎日のように繰り返されてきたことであり、もはや日常と言っても差し支えない出来事である。
 今はこんな感じで変態全開の親父だが、俺が小さい頃はその辺のと変わらない、ごく普通の父親だった。むしろいい父親だったと言ってもいいかもしれない。休みの日は必ず俺と遊んでくれたし、ゴールデンウィークとか年末年始なんかの連休にはいろんなところに連れて行ってくれた。
 母親が病気で死んじまったのが、俺が七歳のときである。それから親父は男手一つで俺を育ててくれた。仕事と家事を両立させるのも大変だったろうに、学校の行事や俺の柔道の試合にも必ず来てくれて、いつも優しい笑顔で俺を見守ってくれていた。俺はそんな親父が大好きだったし、今だって変態的なところを除けば好感度は高いままだ。

 親父が変態的な一面を見せるようになったのは今から二年と少し前――俺が高校に上がって間もない頃のことだった。ある日風呂から上がると、目の前に俺の脱ぎたての下着を顔に押し当て、うっとりとした表情を浮かべた親父がいたのである。何をしているのかと訊ねれば、悪びれたり気まずさを感じたりしているような様子もなく、普通に「お前の股間の匂いをチェックしていた」と言い放ちやがったのである。
 それを皮切りに親父の奇行は始まった。あるときはマッサージだと言って俺の股間を揉みしだいてきたり、またあるときは俺が風呂に入っているところに突撃してきたりと、明らかに親子のスキンシップの範疇を超えているようなアクションを起こすようになっていた。
 行為は更にエスカレートしていき、最近じゃ寝ている俺にてめえのチンポを握らせたり、いきり勃ったそれを頬に擦り付けてきたりとなかなかにやばくなってきている。あげく今日は顔射とか……そんなことされながらも俺が家出しないでいるのは、俺の懐が広いからに他ならねえ。あとまあ、なんだかんだ言って親父のこと家族として大事に思ってるからな。自分が独りぼっちになるのも嫌だけど、親父を独りぼっちにしちまうのはもっと躊躇われた。



 部活が終わって家に帰る頃にはもうすっかり夜の時間帯に差し掛かっている。まあいつものことだから今更なんとも思わねえけど。家に帰ってもすることないし、どうでもいい。

「ただいま」
「お帰り、愛しのマイサン?」

 声をかけるとキッチンで料理をしていた親父は優しげに笑って出迎えてくれる。

「風呂沸いてる?」
「沸いてるぞ。飯まだ時間かかるから入って来なさい」
「おん」

 部屋に荷物を置きに行くのも後にして、俺はとりあえず部活で掻いた汗を流すことにした。親父はまだ入ってないのか、浴槽に張った湯は綺麗だ。親父のあとだと大概チン毛らしきものが浮いてるんだよな。まあ俺が入ったあとも同じような状態なのかもしれねえけど……。
 風呂から上がると親父の手料理は出来上がっていて、テレビを観ながら一緒に食べる。今日のメニューは茄子と豚の味噌炒めにほうれん草のツナ和え、そして鳥のおやきだ。
 母さんが生きてる頃に親父が料理をしている姿なんて見た記憶がない。けれどこの二人での生活が始まった当初から、親父は料理が結構上手かった。ひょっとしたらこっそり料理教室にでも通っていたのかもしれない。
 食い終わって食器を洗っていると、風呂から上がった親父がキッチンに入って来る。風呂上がりに冷たい茶を飲むのが親父のルーティーンだと俺も知っているから、こうしてタイミングが合うときは茶を用意してやっていた。

「お茶ありがとな」
「おう」

 親父はコップ一杯のそれを一気に飲み干した。

「パパ今日はなんだか疲れたからもう寝るよ。大我も明日休みだからって夜更かししちゃ駄目だぞ?」
「休みっつっても部活は普通にあるけどな。おやすみ」
「おやすみ、愛しのマイサン?」

 親父は後ろ手に手を振ってキッチンを出て行った。言葉のとおり確かにちょっと疲れたような顔をしていた気がする。大人もきっといろいろあるんだろうな。
 食器洗いが終わると今度は洗濯物を片付け、しばらくテレビを観ながらスマホを弄る。そうしているうちに眠気を感じ始めたから、歯を磨いて自分の部屋に上がることにした。
 電気に照らされて明るくなった俺の部屋は、お世辞にも綺麗とは言えない状態だ。かと言って汚部屋と呼ばれるほど汚くもないが、それなりに生活感が溢れている。
 さて、寝る前に一発抜いとこうかな。昨日、一昨日は時間に余裕がなくてできなかったし、あんまり抜かないでおくとムラムラして部活に集中できなくなるからな……。前に一週間くらいやらなかったときは、組んだ相手(もちろん男)の胸の谷間にさえ興奮してやばかった。
 そうと決まれば邪魔なものは脱ぎ捨てよう。俺は全裸で抜く派なので、着ているものを下から上まで全部脱ぐ。そしてベッドに上がろうと掛布団を捲ったんだが……捲った瞬間に何かデカい物体が現われて俺は「うわっ」と情けねえ声を上げてしまう。
 そこにいたのは親父だった。パンツ一枚という情けねえ格好で俺の枕を抱き締めている。いや、情けなさでいえば全裸の俺のほうが上か? ……ってそんなことはどうでもいい。

「こら親父! 人のベッドで寝てんじゃねえよ!」

 俺は親父の腕から枕を引っ手繰り、容赦なく顔面に投げつけた。

「いけね、寝る前に大我の匂い嗅いどこうと思ったらそのまま寝ちゃったみたいだ」
「なんで俺の匂い嗅がなきゃいけねえんだよ!?」
「嗅いどかないと眠れないんだよ! お前はパパが不眠症で苦しんでもいいのか?」
「どうでもいいわ! とりあえずそこどけや変態くそ親父!」

「え〜」と文句を垂れながらも、親父はベッドから起き上がる。

「ってあれ? よく見れば大我全裸じゃないか。はっ、もしかしてパパのこと抱いてくれるつもりだったのか!?」
「んなわけねえだろアホ! 一発抜いて寝るつもりだったんだよ!」
「よし、じゃあパパが手伝ってやる。パパのフェラチオ結構評判いいんだぞ?」
「どこの誰から評判いいんだよ! 聞きたくねえわそんな情報!」

 俺はベッドから親父を引っ張り出すと、そのまま部屋の外に押し出してドアを乱暴に閉める。

「もう入って来るなよ! 入って来たらてめえの汚ねえチンポ握りつぶすぞ」
「じゃあ聞き耳立てるのはいいよな?」
「いいわけねえだろ! そんなことしたら親子の縁切るからな!」

 親子の縁を切る、という言葉に親父は弱い。案の定、ドアの向こうから「わかったよ……」という寂し気な声が聞こえ、親父が離れていく気配がした。親父の部屋のドアが開閉する音を確認してから、俺はベッドにダイブした。
 はあ、朝から夜まで親父に疲れさせられた一日だったぜ。変な性癖拗らせやがって……まったく手のかかる親父である。
 つーか何気にさらっとフェラの経験があるみたいなこと言ってたよな? 親父ってやっぱホモなのか? でも母さんと結婚して俺が生まれてきたわけだし……男も女も両方いけるっていうあれなのか? 別にそれはそれで構わねえんだけど、性的な欲求を息子である俺に向けてくるのはマジで勘弁してほしい。
 結局その日はオナニーしなかった。なんかすっかりその気が失せちまったし、親父が今にも部屋に飛び込んできそうな気がして集中できなかった。



 前にも言ったかもしれないが、親父は変態的な部分を除けば割といい父親である。この間も試合の応援に来てくれたし、その日の夜は結構豪勢な晩飯を用意してくれていた。そういういい父親の部分を見せられると、寝てる間に顔射されたり、布団に勝手に潜り込まれたりするのも大目に見てやろうという気持ちになってしまうのだ。
 部活が終わって家に帰り、リビングに顔出そうとするとその向かい側にある和室に親父がいることに気がついた。半開きになったドアの向こうで、親父は手に持った何かをじっと見つめていた。――母さんの遺影だ。

「まーちゃん……寂しいよ……」

 哀愁を漂わせた弱々しい声で呟きながら、親父は遺影の中の母さんを抱きしめた。
 まーちゃんっていうのは母さんの愛称だ。昔から親父たちは愛称で呼び合っていて、今思えば夫婦っていうよりすげえ仲のいい友達同士みたいな雰囲気だったな。

「大我もいい子だから何も言わないけど、きっとまーちゃんがいなくて寂しいんだと思う」

 まあ確かに寂しいと思うことはあるが、最近は親父がたびたびちょっかいを出してきやがるからそんなの感じる暇もなかったよ。……もしかして親父は俺が寂しくないようにあんな変なことしてくるのか? その手段はとても褒められたもんじゃねえけど、優しいけど不器用な親父のやりそうなことではある。

「俺ね、大我と二人きりでもすごく幸せだよ。だけどやっぱり時々、ここにまーちゃんがいてくれたらなって思う。まーちゃんと一緒に大我の成長見守っていきたかったよ。柔道の応援も一緒に行ってさ、まーちゃんの作ったお弁当三人で食べたりしたかったな……」

 親父の目からツーっと涙が流れ落ちる。遺影を抱きしめたまま、しばらくの間肩を震わせていた。
 親父、やっぱり母さんいなくて寂しかったんだな。全然そんなそぶり見せたことなかったけど、あれだけ仲よかったんだから亡くして寂しくなかったわけがねえ。俺の前じゃずっとこうやって泣きじゃくるの我慢してたんだ。
 親父が泣いている姿を見ながら、俺も無性に泣きたくなった。丸くなった親父の背中をさすってやりたいと思った。けれど部屋に入ろうとしかけたところで、親父がまた静かな声で母さんに語りかける。

「今の大我を見たらまーちゃんびっくりするだろうな〜。もうすっかり大きくなっちゃって、背丈も俺とほとんど変わらないんだよ」

 確かにいつの間にか目線の高さが親父と変わらなくなってたな〜。

「身体も柔道のために鍛えたからか、ガッチリしてて逞しいんだ。腹筋なんか六等分どころか八等分だよ? もうその溝を何度指で辿ったかわからないよ」

 ……あれ? なんか話が変な方向に転がっていってないか?

「けどお尻はプリッとしていて可愛いんだ。張もあるしスベスベしてて揉み心地最高だよ。それとおちんちんのほうも立派になったよ! まーちゃんが生きてる頃はまだ可愛いぞうさんって感じだったかもしれないけど、今じゃ皮も剥けてすっかり大人チンポだよ。何度むしゃぶりつきたくなったかわからないな! ちなみに勃起時の大きさはなんと十八センチ! この間朝勃チンポ測ってびっくりしたよ!」
「てめえは母さんに何を報告しとんじゃボケエエエエエエエ!!!」

 要らねえ報告を聞くのも堪えられなくなり、俺は和室にズカズカと押し入ると遺影を抱きしめたままの親父を押し倒した。「いやん?」と気色の悪い声を出した変態を腕挫三角固で締めてやる。

「もっと他に報告することあるだろうが! 俺のケツとかチンポの話されても母さん困るつーの!」
「あああんっ! 大我のすね毛ボウボウの生足サイッコーだよまーちゃあああああんっ!」
「黙れえええええええっ!」


 ◆◆◆


 この日は俺こと築城素久の、三十九回目の誕生日だった。
 仕事を終えた俺は、高揚した気分で車を運転していた。歳をまた一つ重ねてしまうことには毎年うんざりさせられるけど、誕生日には楽しみもある。それは息子からもらえるプレゼントだ。
 一人息子の大我は、毎年誕生日にはちゃんとプレゼントを用意してくれている。昨年はネクタイ、一昨年はベルトをプレゼントしてくれて、それ以前にくれたプレゼントも含めて今も大事に使わせてもらっている。どれも決して高価なものじゃないが、可愛い一人息子からもらえるものならどんなものでも嬉しかった。
 今年はどんなものをくれるのだろうかとワクワクしながら運転していると、あっという間に自宅に着いた。ガレージから玄関までの短い距離をスキップで移動し、インターホンを押す。鍵を持っているから外から開けることもできたが、大我に迎えてほしくてわざわざそうしたのである。

「――お帰り」
「ただいま、愛しのマイサン?」

 ドアが開くと俺は中にいた大我を抱きしめた。いつもならこういう肌の近いスキンシップを嫌がる息子だが、父の日と俺の誕生日のときだけは受け入れてくれると知っている。案の定、俺の腕の中から逃げようとはせず、背中をポンポンと優しく叩いてくれた。

「ああ、俺の可愛い息子よ。なんでお前はそんなに可愛いんだい?」
「この俺を可愛いとか言う変態は親父くらいだよ。プレゼント用意してるから早く着替えて来いよ」
「うん、わかった。マッハで着替えてくるから待っててね!」

 俺は急いで二階の寝室まで駆け上がり、部屋着に着替えてまた階段を駆け下りる。
 リビングに入ると大我はダイニングテーブルのいつもの席に着いていた。俺もその正面の席に座り、何となく姿勢を正して大我と向き合う。

「あのさ、親父。実は今回、物は用意してないんだ」
「えっ、そうなの? もしかしてお小遣い少なかったか?」
「いや、そういうことじゃねえんだ。ちょっと趣向を変えようと思ってな……」

 いつもは真っ直ぐに俺を見るのに、大我はなぜだか気まずそうに目を逸らした。これはひょっとしてあれだろうか? 肩叩き券とか一緒にお風呂券とかそういう恥ずかしいものを用意しているのかもしれない。それはそれで物をもらうより嬉しいかもしれないが。

「俺の……をもらってくれねえか?」
「ん? 大我の何だって?」

 ゴニョゴニョと口ごもるように言ったからはっきりと聞き取れなくて、俺は訊き返した。

「俺の童貞をもらってくれないかって言ったんだよ!」
「えええええええええええええええっ!!!???」

 あまりにも予想外なプレゼントに俺は声を裏返らせていた。まじまじと息子の顔を見返せば、その男らしい顔は耳まで真っ赤に染まっている。

「要らねえならいい! ちゃんとした物用意するから!」
「いや、要らないなんて言ってないぞ! むしろ本当にもらえるならもらいたいよ。けどどうしちゃったんだ? あれだけパパとのスキンシップ嫌がってたのに……」

 肌の近いスキンシップをとろうとすると、大我はいつも怒って柔道技をかけてくる。それはそれで触れ合うことができて嬉しかったが、まさか大我のほうからそういうスキンシップを――むしろ俺がいつも仕掛けていた以上のそれをしようと言ってくるだなんて想像もしたことがなかった。だから嬉しさよりも今は驚きや戸惑いのほうが俺の中で勝っている。

「親父が本当に欲しいものってなんだろって考えてたら、そこの行き着いたんだよ。どうせなら一番欲しがってるものあげたいだろ?」
「いや、そりゃ俺は嬉しいけど、大我が無理する必要なんかないからな。自分のできる範囲のことでいいんだ」
「無理なら最初からこんなこと言い出したりしねえよ。親父とならいっかなって思って言ったんだ。それに俺だってセッ……クスしてみたかったし」

 恥じらうようにそっぽを向いた息子のその様子に、愛おしさが込み上げてくる。ああ、もう自分の持っているもの全部差し出してやりたいと、いつも以上に献身的な気持ちになってしまう。

「本当にいいんだな? 俺はお前の父親だぞ? 血もちゃんと繋がってる」
「そんなことわかってるよ。俺は……親父がいい」

 嘘はない、無理もしていないと、意志の強そうな瞳が言っている。本当に大我が俺としたいと思っているなら、断る理由はもうなかった。

「わかった。じゃあパパはシャワー浴びてくるから、大我はパパの寝室で待ってなさい」
「おう」

 階段を上がっていく息子の背中を見届けてから、俺はバスルームへと向かった。身体を洗う前に最近放置しがちだった陰毛と、今から使うであろう後ろの秘部ともいうべき場所の周りの毛を処理した。陰毛は短く整える程度に、後ろの毛は完全に剃り、それから中を念入りに洗う。
 しかし、まさかこんな日が来るだなんて夢にも思わなかったな〜……。息子と身体を重ねる。正直に言えばずっとしたいと思っていたし、俺の妄想の中ではもう何度もしてきた行為でもある。けれどそれが現実のものになるなんて、微塵も思っていなかったのもまた事実だ。だって俺たちは親子、仮に大我がゲイやバイであったとしても、そういう目で俺のことを見てくれるなんてありえないと思っていた。今だってまだ信じられないような気持ちがしている。ひょっとしたら、風呂から上がるとドッキリと記されたプラカードを持った大我が待ち構えているのかもしれない。
 まあそういうプレイも興奮するんだけどな?
 一応自分で後ろをほぐし、髪の毛の先から足の爪先まで丁寧に洗ってから俺はバスルームを出た。全身をタオルで拭き、そのタオルを腰に巻いて二階の寝室に向かう。
 部屋に入ると大我は神妙な顔つきでベッドに座っていた。ドッキリと書かれたプラカードはどこにもない。どうやら本当にセックスをするつもりのようだ。

「もう一回訊くけど、本当に相手が俺でいいんだな?」

 隣に座って訊ねると、大我は「おう」と頷いた。

「男に二言はねえ。それに親父とするの、嫌じゃねえし。初めてだからちょっとだけ緊張はしてるけどな」
「ホント、身体カチコチだな。硬くするのはチンポだけでいいんだぞ?」
「やかましいわ」

 俺は自分の腰に巻いたタオルを取ると、ベッドに寝転がってさっきじっくりほぐしたそこを大我に見せつける。

「大我、早く服脱いでパパのここに大我のチンポ挿れてくれよ」
「い、いきなりかよ!?」

 可愛い息子はぶわっと顔を赤らめたが、その目はしっかりと俺の後ろの穴を捉えていた。

「風呂でほぐしてたら疼いちゃって、早くチンポハメられたくて堪らなくなっちゃったんだ。だからほら、ここに大我のチンポ突っ込んで掻き回してくれよ」

 前戯も楽しみたかったけど、今は早く息子に犯されたい衝動を堪えられそうになかった。
 大我は覚悟を決めた顔で着ているものを一枚一枚脱いでいく。決してトロトロしていたわけじゃないけど、期待しまくっているせいでその動作にもどかしさが募りそうになる。
 地味なボクサーパンツを脱ぐと、ビンビンになったチンポが勢いよく飛び出した。どうやら俺の身体にちゃんと興奮してくれたみたいだ。パパ嬉しいっ?
 毎日のようにこそっと朝勃ちをチェックしていたから、そこがまあまあご立派なのも知っている。ひょっとしたら俺のよりも少し大きいかもしれない。父親としてそこは悔しがるところなのかもしれないが、受け入れる身としては大きいのは大歓迎である。
 全裸になった大我がベッドに上がってくる。スプリングが軋む感触にさえ興奮しつつ、俺はベッドサイドの棚からローションを取り出した。

「ほら、これを大我のチンポに塗りなさい。男の穴は濡れないから」
「お、おう……」

 大我は慣れない手つきでボトルの蓋を開け、ギンギンのそれにローションを垂らした。その間に俺は枕を自分の腰の下に差し入れる。男の穴は後ろのほうにあるから、こうしないとタチは結構掘りにくいんだよな。

「マジで挿れるぞ?」
「ああ、いいぞ。大我のそのぶっといチンポ、俺の中にぶち込んでくれ」

 膝立ちになった大我の腿と俺の腿が触れ合う。そして入口に硬くて熱いそれをあてがわれ、いよいよなんだと俺も息を飲んだ。息子の童貞、いただきまああああすっ! ……と期待も更に高ぶったわけだけど、大我は挿入に苦戦しているみたいでお望みのものはなかなかイントゥーアナルしてくれない。

「もうちょっと下のほうだよ、あ、行き過ぎちゃった」
「ちゃんと当たってるように見えるのに何で入らないんだ?」
「角度も大事だからな。ほら、この辺だよ」

 俺が手を添えて位置を調整してやると、ようやく入口に押し入ってくる感触がした。

「そのままゆっくり入って来るんだ。一気に挿れられるとさすがのパパも痛いかもしれないから」
「わかってるって……」

 ズブズブと熱い塊が俺の中に少しずつ入って来る。若いだけあってやっぱり硬いな〜。それにやっぱりサイズもなかなかだ。この圧迫感、最近受け入れた男の中では間違いなくナンバーワンだな。

「全部入ったぞ……」

 そう言って俺を真っ直ぐに見下ろした大我の瞳は、まさに欲情しきった雄のそれだ。早く中で暴れたいと、言葉にしなくてもそう思っているのがわかった。

「大我と一つになれてパパ嬉しい」
「実の息子にチンポハメられたいなんて思う変態は親父くらいだよ」
「そういう大我だってパパのケツマンコに突っ込みたかったんだろう?」
「ケツマンコ言うな! 別に率先して突っ込みたかったわけじゃねえよ! 誕生日のプレゼントだって言っただろ!」
「そんなこと言って、パパのケツマン見ただけでチンポビンビンになったくせに。ツンデレなんだから?」
「やかましいわ!」

 ああ、もうほんっと可愛いっすわ、うちの息子。そんな息子の初体験の相手になれるなんて幸せすぎて死んじゃいそうだ。いや、けどまだ死ぬわけにはいかない。まだチンポ受け入れただけで犯されたわけじゃないし、中出しされるまでが俺の夢だ。それが叶う瞬間まではたとえ大病に犯されていたとしても無理していただろう。

「ほら、もうパパのケツマン大我のチンポの形に広がったから、動いて大丈夫だぞ。パパのこと思う存分犯してね?」
「……おう。途中でやめてっつって泣いてもやめてやらないからな」
「童貞のくせに威勢がいいな〜。でもそういうところも大好き?」
「うるせえ。覚悟しろよ、変態親父」

 最初は中の具合を確かめるような、ゆっくりとした律動で始まった。けれどサイズが大きいせいかゆっくりでも結構苦しくて、思わず力が入りそうになる。動きに合わせて呼吸することで何とかそれをやり過ごしながら、中が完全にほぐれるのを待った。

「あっ、気持ちいっ」

 苦しいのが落ち着いてくると、覚えのある快感がそこから湧き上がってくる。そうそう、これこれ。このチンポを中から刺激されてるみたいな感覚が最高に気持ちいいんだ。

「大我っ、もっと突いて? パパのケツマンタフだから激しくしても大丈夫だよ?」
「そうかよっ。じゃあ遠慮なくガン掘りさせてもらうからなっ」

 唸るような声でそう言ったあと、後ろを圧迫していたそれの動きが速くなる。それに比例して快感も増し、俺は堪らず嬌声を零した。

「あんっ? 大我のチンポすごく気持ちいいっ? 童貞チンポのくせにパパの感じるとこいっぱい突いてきてっ、堪んないよっ?」
「そうかよっ……期待に応えられたみてえで何よりだっ……」
「大我は気持ちいいっ? パパのケツマンでちゃんと感じてるっ……?」
「ああっ……悔しいけどすげえ気持ちいいっ……熱いのが絡みついてきて、ギュウギュウ締め付けやがるっ」

 本当に気持ちよさそうに目を細めた大我の表情に満足しながら、俺も与えられる快感に乱れまくった。想像していたとおり、大我のセックスは野性的だった。本能のままに激しく腰を振り、容赦なく中を掻き回し、俺の身体を蹂躙する。

「あっ、大我のチンポすごっ? ホントに童貞なのかっ? パパ気持ちよすぎて昇天しちゃいそうっ」
「正真正銘の童貞だよっ……貴重な初めてを親父にくれてやったんだからっ、ちゃんと感謝しろよっ」
「感謝してるぞ? 大我の童貞チンポもらえてパパ超嬉しいっ?」

 大我は疲れというものを知らなかった。ペースを落とすことなくリズミカルに奥を突き上げ続け、一瞬も気を抜くことが許されない。

「そういう親父はどうなんだよっ……このエロいケツはいったい何人の男のを咥えてきたんだっ……?」
「あんっ? そんなのもう憶えてないっ」
「憶えてねえほど食い散らかしたのかっ……? ホント変態だな、親父はっ」
「実の父親のケツマン犯す息子も十分変態だよ?」
「うるせえっ……一緒にすんなっ……」

 繋がった部分が熱い。まるで大我のチンポに中を溶かされていっているような錯覚に陥りながら、俺の太腿をホールドしていた大我の手に手を重ねる。すると大我は何も言わずにその手を握ってくれた。男らしくゴツゴツした手。よく手を繋いでいた小さい頃のそれとはもう全然違う、大人の男の手だ。チンポだけじゃなくてそういうところもしっかり育っている。

「大我っ、パパ変態でごめんなっ……あっ? 大我のこと愛おしすぎて何もせずにはいられないんだっ……あっ、そこ駄目っ?」
「今更殊勝になってんじゃねえよっ……顔射したりチンポ揉みしだいたりしてきやがって……けど、そんなことをされても見放せねえ程度にはっ……親父のこと大事なんだよっ」
「嬉しいっ……パパもう死んでもいいくらい幸せっ?」
「死ぬとか、言うんじゃねえよっ……俺を独りにするつもりかっ」

 律動が更に激しくなる。俺の身体のことなんか少しも考えてなさそうなほどに暴力的なピストンなのに、気持ちいいところを的確に突いてきて一気に絶頂が近くなる。

「あっ? もう駄目っ? 大我のデカチンにイかされちゃうっ?」
「イきたきゃイけよっ……俺もイくからなっ……全部親父の中に出してやるっ」
「あんっ、出してっ? 大我の精子パパの中にいっぱい出してっ?」

 そこから先は言葉もなくお互いの身体をぶつけ合い、高みに昇り詰めていく。童貞のくせにホント、最高に気持ちいいセックスをしやがるな。まあ俺も上手いってよく褒められてたし、そういうのは遺伝もあるのかもしれない。
 先に限界が来たのは俺のほうだった。下半身が痺れるような感覚に襲われるとそれが一気に頭の中まで達し、身体を硬直させながら精子を撒き散らした。

「うわっ、締付けすげえっ……親父のケツっ、マジ最高っ……!」

 最後の仕上げと言わんばかりに大我は激しく腰を叩きつけ、そして一番奥深いところを突き上げたところで全身を震わせた。
 熱いものが中に注ぎ込まれてくるのがわかる。大我の精子だ。最愛の息子に種付けされたことに喜びと幸福を感じながら、俺はそっと倒れてきた逞しい身体を抱き止めた。


 ◆◆◆


「――っていうのを期待しながら帰って来たんだけど、どうかな!?」
「そんな展開あるわけねえだろボケエエエエエエエエ!!!」

 こいつはもうホント、なんでこうも変態なんだ。親父のケツにチンポ突っ込むだなんて、この俺のどこを見てたらそんなアホな妄想に行き着くんだよ……。
 これはもしかしてあれか? もっとちゃんと俺が躾けなきゃ駄目なのか? いつも柔道技でそれなりに痛みを与えていたつもりだったけど、親父には言葉で教育するほうがいいんだろうか?
 よし、じゃあ今日は大外刈りからの寝技で締め上げるのはやめてやろう。言葉でたっぷりお仕置きしてやる。

「このクソ変態親父! てめえの脳みそはひょっとしてチンポなのか!? だからいっつも卑猥な妄想に耽ったり、俺に変なことしたりしてくるのか!? 親父の皮を被ったクソチンポめ! てめえのせいで毎日無駄に疲れてる俺に謝れ! その亀頭地面に擦り付けて謝罪しろや! こんな汚ねえチンポでごめんなさいって言え! チンポの分際で息子に迷惑かけてごめんなさいって言え! 何なら生まれてきてごめんなさいでも許してやるよ! ほら、どうしたチンポ! チンポだから人間様の言葉なんてわかりませんってか!? そんな言い訳が通用すると思うなよ! この――」

 汚い言葉を更に投げつけようとしたところで俺はふと我に返った。これじゃ教育じゃなくてただのパワハラだわな。親父もすっかりしゅんとなって足元見てるよ。いろいろ溜まっていたとはいえ、さすがに言い過ぎたな……。

「あの、親父……」
「……ってください」

 肩に触れようとした手を、親父の手が目に留まらぬ速さで掴んできた。そしてパッとこちらに向けられた顔には、うっとりと恍惚とした表情が浮かんでいた。

「もっと言ってください! もっと俺を……いや、この薄汚いチンポ野郎を罵ってください!」
「なんでそうなる!?」

 あ、やばい。親父完全に変態モードに入ってるわ。こうなったらたぶん柔道技をかけてもどうにもならない。そんな勢いを俺は親父から感じ取った。

「もっと罵ってくださいご主人様あああああああああああ!!!」
「チンポおっ勃てたまま迫って来るんじゃねええええええええええ!!!」

 天国の母さんへ。
 今日も親父が変態すぎて生きるのが辛いです。
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おしまい





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