02. お父さんの場合-5


 時計の針が日付を新しくしようとしていた。

 テレビ番組もそろそろおもしれえのがなくなってきたし、自分の部屋に上がって寝るとするか。そう思って立ち上がったとき、ふと親父がまだ帰ってきてねえことに気がついた。
 飲みに行くと言って親父が家を出たのは、まだ日が落ちたばかりの頃だった。そんなに遅くはならねえっつってたのに、すでにこんな時間じゃ遅いどころの話じゃねえよ。帰り道に何かあったんじゃねえかって心配になっちまう。

 そもそも親父が外に飲みに行くこと自体珍しいことだ。酒好きなのは知っていたが、職場の飲み会以外で外に飲みに行った記憶なんてねえ。じゃあなんで今日は家以外で酒を飲んでいるのか――その理由はわかっている。そう、母さんのことだ。

 昨日親父は俺と自分自身のために、他の男と遊んでいた母さんとは離婚すると言ってくれた。しかし、親父のほうはどうもまだ未練があるらしく、あれからずっと浮かねえ顔をしていた。
 こうなったら飲んで忘れるしかねえとでも思ったんだろうか? つーか、飲んで忘れたいほどあの浮気女のことが好きっつーのが納得いかねえ。俺とあの女のどちらかを選べと言われて迷っていたのも、実はちょっと怒っていたりする。

 やり場のねえ感情に苛々しながらリビングを出ると、ちょうど真正面にある玄関のドアが開いた。夜闇の向こうから顔を真っ赤にした親父が現れる。そんでおぼつかねえ足取りで入ってくると、そのままカーペットの上に倒れ込んだ。

「親父!?」

 俺はすぐに駆け寄る。

「って、うわっ!? 酒くせえ!!」

 たらい一杯に酒を入れたってこんなに臭くないんじゃねえかってくらい、親父は酒臭かった。顔が赤くなるようなことはあっても酔ってこけるようなことはなかったし、相当飲んで来たんだろう。

「大丈夫かよ? ほら、掴まれ」

 呻くような声を上げはしたが、自ら動く気配はまったくねえ。仕方ねえから重い図体を引きずって移動する。幸いにも親父の寝室は一階だからこの方法で運べるけど、問題はどうやってベッドの上に――って、そうだ、親父はベッドじゃなくて床に布団敷いて寝てるんだった。なら何も苦労するようなことはねえな。
 クローゼットにしまってあった布団を手早く敷くと、その上に上手いこと親父の身体を乗せる。まったく世話の焼ける親父だぜ。まあ、こうなるのも仕方ねえとは思うけどな。離婚なんてやっぱ当人してみれば苦渋の決断だし、別れるのは辛いに違いねえ。

「水いるか? あんまり具合悪いようなら救急車呼ぶぜ?」
「……救急車はいらん。水をくれ」

 どうやらちゃんと意識はあるらしい。返事があったことにホッと胸を撫で下ろして、キッチンからコップ一杯の水を汲んでくる。親父はそれを一気に飲み干し、再び布団に倒れ込んだ。

「んじゃ、俺は部屋に上がるから。なんかあったら呼んでくれ」

 まあ、放っておけばそのうち爆睡するだろうから、呼び出されることもねえだろう。明日は休みだし、自然に目が覚めるまで寝てたっていいんだぜ?
 そんなことを心の中で呟きながら立ち去ろうとしたとき――俺は思いのほか強い力によって、布団に引きずり込まれた。

「な、なんだ!?」

 予想もしてなかったからもちろん身構えてもねえわけで、背中から派手にひっくり返る。親父の身体の上に倒れたから痛くはなかったが、逆に親父の身体が心配になるくらい勢いよく倒れちまったぜ。
 親父は呻き一つ上げず、そのまま俺の身体を抱きしめた。その意図がわからず腕の中で困惑していると、何か硬いものがケツの当たりに押付けられる。

「親父!?」
「……母さんの代わり、してくれるんだろう?」

 その言葉に、俺は親父が何をしてえのか理解した。つーか、言葉よりも雄弁に欲望を主張しているもんがケツに当たってるから、嫌でもわかっちまうぜ。

「お前としたい」

 そうして親父はその台詞を、余裕のねえ声で言った。
 普段の親父ならそんなことは絶対に言わねえ。でもたぶんいまは、酔った勢いと酒に飲まれた心が親父を暴走させているんだろう。間違っていることだってわかっていても、それを止めてくれるはずの理性がちゃんと機能してなくて、本能のままに行動しようとしている。
 もちろん俺だっていまからしようとしていることが世間一般から見て間違っていることだっつーのはわかっている。俺の場合はわかっていて――そしてちゃんと理性を保てているのに、親父に抱かれたいと心の底から思っていた。

「いいぜ、親父」

 俺は抱きしめてくれている親父の腕を握った。

「抱いてくれ。そんで、あの女のことなんて忘れちまえ」

 いまは単に母さんの代わりってことでもいい。俺を抱いて少しだけでも親父の心が落ち着くんだったら、喜んでこの身体を差し出すさ。
 身体を捻り、向き合うような形で抱き合う。視線が交わった切れ長の瞳に、昼間俺を抱きしめてくれたときの優しさはねえ。まるで野獣みてえな獰猛な瞳が、俺に欲情しているんだと訴えていた。

「キスしてえ」

 そう言うと、親父は何も言わずに俺の唇に自分の唇を重ねた。
 最初から激しいキスだった。生温かい親父の舌が固く閉じた俺の歯を抉じ開けて、口の中に侵入してくる。そんで俺の舌を絡めとって、時々吸い付いて、貪るようなキスが長く続いた。
 キスってこんなに気持ちいいもんなんだな。初めて味わうそれに身体は熱くなっていく一方で、特にチンコははち切れんばかりに膨らんじまっている。
 それは親父も同じだった。いつの間にか俺が親父の下になって、押付けられる下半身に熱く硬いものを感じる。

「親父っ……」

 激しいキスは結局三十分も休みなしに続いた。ようやくそれが落ち着いて目を開くと、親父がじっと俺の顔を見下ろしていた。

「可愛い……」

 ただ一言それだけを告げて、再びキスを交わす。その間に親父の手がTシャツの裾から入ってきて、俺の胸をもそもそと弄り始めた。

「揉めない……」
「当たり前だろ。女じゃねえんだから」
「でも乳首は気持ちいいだろう?」
「あっ……」

 ざらざらとした指が胸の突起に触れた瞬間、痺れるような感覚が俺の身体を駆け巡った。自分でも訳がわからず呆然としていると、親父がにやりと笑った。

「やっぱり気持ちいいんだな、ここ。遠慮せずに声出してもいいぞ。どうせ俺たち以外には誰もいない」

 Tシャツを捲ると、今度は生温かい舌が乳首を弄び始める。指でされたときよりも強い快感が小刻みに訪れて、なぜか全然関係ねえはずのチンコがヒクヒクと反応していた。

「あっ……あ、嫌だっ……」

 気持ちよくて堪らないはずなのに、俺の口は拒絶を口にする。それが本心じゃねえってことをわかっている親父はしつこく吸い付き、甘く噛んできて、このままじゃ意識が飛んじまうんじゃねえかって気になってくる。
 そんな瀬戸際で親父は乳首を攻めるのをやめた。いやらしい舌は脇や腹、そしてへその辺りを通ったあと、パンツを脱がされて露になっていた俺のチンコに何の躊躇いもなく触れてきた。

「!?」

 まさか親父がそこまでしてくれるとは思ってなかったから、すげえびっくりした。
 でもまあ、やっぱノーマルな男っつーだけあって、フェラするほうには慣れてないらしく、お世辞にも上手いとは言えねえ。それでもあの親父がしてくれているのかと思うとチンコはギンギンになって、萎える気配なんて欠片もなかった。

「んっ……親父っ」

 一心不乱に俺のチンコをしゃぶる親父の顔が艶かしく映る。それが行為のいやらしさを自覚させて、すげえ興奮した。

「あっ……くっ、ああっ……あっ……」

 無意識の内に俺は親父のズボンの中に手を入れていた。そこにあった硬く張り詰めたものを握って、優しく上下に扱く。

「いやらしいな。どこで覚えてきたんだ?」
「だってよ〜、親父の、こんなにデカくなってんだもん。触らないわけにはいかねえだろ?」

 しかも先走りで亀頭がベトベトだぜ。いやらしいのはどっちだよ?
 やがて親父もフェラのコツを掴んできたのか、なんだかかなり気持ちよくなってきた。俺の喘いだところは執拗に攻め、舌先でカリの裏側をほじるようにしてくる。

「すげえ親父……なんでそんな上手いんだよ?」
「お前は俺の息子だからな。どこが感じるかわかっちまうんだよ」
「いや、それおかしいから! 普通わかんねーよ! それとも遺伝してるとか言いてえのか!?」
「うん、まあそういうことだ。だから俺のをフェラするときは、同じようにやってくれ」

 親父は俺の服を上から順番に脱がしていく。それから自分の服も同じように上から脱いでいって、最後に地味なトランクスを脱ぎ捨てた。




続く……





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