03. 担任の先生の場合-2


 ついこの間まで俺は岡部に対して苦手意識を持っていた。
 岡部はテストが終わるたびに成績不振者に対して面接の場を設けていた。俺も漏れなく呼び出され、その説教めいた面接を受けされられていたわけである。
 めんどくせえ。それが正直な感想だった。岡部は生徒のことを思ってやっていたのかもしれねえが、俺にとっては鬱陶しいだけで、岡部に対するイメージは必然的に悪くなっていた。
 ところがこの間のテストで、俺の成績がぐんと上がったことにまるで自分のことのように喜んでくれた岡部の笑顔を見た瞬間、ああ、実はこの人すげえいい人なんだということを理解したんだ。そんでいままで抱いてた苦手意識がどっかに消えて、いまはそれとなく先生のことは好いている。顔もタイプだしな。

 だからナイトで岡部の姿を見つけたとき、俺は嬉しかった。ゲイであれバイであれ、男に興味があるっつー共通点を持っている。そんでもしかしたら岡部とエロいことするチャンスがあるかもしれねえ。
 岡部とやりてえ。どんなチンコを持ってんだろうか? そんな感じで妄想が膨らんでいき、その日は岡部をオカズにオナニーした。


 ◆◆◆


 一学期最後の体育は水泳だった。
 授業で使った道具を片づける係りはあみだくじで決めるというルールがあり、俺はこの日運悪くはずれを引いてしまったのである。水球のゴールやボールを片づけ終わる頃にはクラスの連中はとっくに教室に戻っちまっていて、しんと静まり返ったプールサイドを一人歩く。

「先生、鍵持ってきたっすよ……って、いねえし」

 教官室に体育担当の岡部の姿はなかった。まさか職員室に帰ったってことはねえだろうから、着替え中か? 着替え終わってんの待ってたら貴重な昼休みが短くなっちまうから、教員用の更衣室を覗いてみるとするか。
 もしかしたら岡部の全裸姿を見られるかもしれねえ、なんて期待はしてねえ。残念ながら俺にはラッキースケベなんて属性は備わってねえからな。時間的にもよくて服を着ているところだろうよ。

 だが、どうやら神は俺の味方だったらしい。

 ノックもなしに更衣室のドアを開けたとき、岡部は水着を足から抜き取ったところだった。上は何も着てねえし、タオルも巻いてねえから完全に生まれたままの状態だ。
 ガッチリと張った肩に厚い胸板、綺麗に割れた腹筋……まるで彫刻みてえな身体だと改めて思う。下腹部にぶら下がるチンコは親父のほどじゃねえけど、それなりにでかく、黒くふてぶてしい。
 俺はしばらくの間、そのチンコに見惚れていた。勃起したらどれくらいの大きさになるんだろうか? いったい何人の男にしゃぶられたんだろうか? ケツに突っ込んだこともあるんだろうか? 疑問は徐々に妄想へと変わってきて、あのチンコにむしゃぶりつく自分の姿を頭ん中に思い描いちまう。

「片付け終わったか?」

 俺のフェラで気持ちよく喘いでいる岡部を想像しかけたところで、本人の声が俺を現実に引き戻した。

「うっす。鍵返しに来たっす」
「ご苦労さん。もう帰っていいぞ」

 さすが体育会系の男だけあって、俺が入ってきてもチンコを隠したりしねえ。むしろ見てくれと言わんばかりに身体をこちらに向け、堂々としている。
 俺は自分の下腹部がじんわりと熱くなってくるのを感じた。だってタイプの男が目の前に全裸でいるんだぜ? 興奮しないほうがおかしいだろ。

「そんなに人のチンコを見るなよ」

 俺の視線に気づいて岡部はそう言うが、恥らう気配も嫌悪する気配もまったくねえ。下着もなかなか履こうとしねえし、もしかして挑発されてんじゃねえかって勘違いしちまうぜ。まあ、岡部がどういうつもりであろうが、次に俺が言う台詞は決まっている。

「先生って、男もイケる口だぞ?」

 そう言った瞬間、岡部の表情が凍りついた。顔が青くなるって表現があるだろ? まさにいまの岡部はその言葉どおりで、見る見るうちに顔から血の気が引いていっているのがわかる。

「な、何言ってんだ」

 ようやく返ってきた声は、少しばかり上擦っていた。

「俺は普通に女しか抱けないぞ」
「……嘘はよくないっすよ。俺見たんだぜ? 先生がナイトに来てるの」

 まるで悪魔にでもなった気分でにやりと笑ってやった。一方の岡部は表情を引きつらせたまま、何か言い訳でも考えているのかしばらく無言だった。

「なあ先生、取引しようぜ?」
「な、なんだよ……?」
「先生がゲイってこと秘密にしておいてやるから、チンコしゃぶらせて」
「なっ!?」

 俺は岡部の厚い胸板にそっと触れる。ついさっきシャワーを浴びたばかりだからか、肌は冷たい。だが、タイプの男に触れたという感覚が俺のチンコに熱をもたらした。そのままチンコのほうへと手を持っていこうかと思ったが、岡部がその手を柔らかく引き剥がす。

「俺は教師で、お前は生徒だろう? そんなの駄目に決まってる」

 口では取引を拒否しながらも、岡部の瞳にはどこか迷いがあった。

「じゃあ、先生がゲイだって学校中に言いふらしてやるぜ」

 こんな脅しをする柄じゃねえって自分でもわかってるさ。けどよ、こんなタイプの男が目の前に全裸になってんのに何もしねえってのは逆におかしいだろ? しかも相手も男がイケるってわかってんだぜ? ここで大人しく引き下がるなんて考えられねえ。

「……わかった」

 やがて岡部は苦笑気味に俺の要求を呑んだ。

「その代わり、絶対に他人に言いふらしたりするなよ? っつか、他人にこのこと言ったらお前だってゲイがばれるぞ?」
「わかってるって」

 そもそも岡部が拒否しようがしまいがばらすつもりなんてねえんだから、そんな心配いらねえよ。もちろん岡部にはそのことを教えてやらねえけど。
 岡部の手が俺の肩に触れる。そのまま背中に滑ってきて、包み込むように抱きしめてくれる。厚い胸板が顔面に押しつけられ、その硬く雄々しい筋肉に俺は興奮した。

「こんなおっさん相手でいいのか?」
「全然おっさんなんかじゃねえよ。すげえカッコイイと思うし、俺すげえ好きだぜ。逆に先生は俺のことどうなんっすか?」
「そうだな〜。顔は結構好きだぞ? 性格もまあ、生意気なところもあるけど、頑張りやだから好きだな。生徒じゃなければ俺から誘っていたかもしれない」

 そして背中を優しく撫でてくれていた手は、更に下へと滑ってきて俺の尻を揉んだ。いつの間にか勃起して大きくなっていたチンコを、同じものがぶら下がる俺の腰に押しつけてくる。ズボン越しにその硬い感触を感じて、思っていた以上の質量に息を呑んだ。
 手で触れるとじんわりと熱が伝わってくる。軽く亀頭を擦れば、岡部は俺の耳元で小さく喘いで、尻を揉みしだく手を激しくした。

「先生の舐めていい?」

 自分でそう訊いておきながら、俺は岡部の返事を待たずに膝を突き、腹まで反り返ったそれにしゃぶりついた。
 ついさっきまでプールに入っていたからか、チンコからは若干塩素臭がする。それに混じってわずかに鼻を突くイカ臭さに興奮しながら、一心不乱に岡部のチンコをフェラした。

「谷口っ……お前、こういうの慣れてんのか?」
「まあ、そこそこっす」

 唾液でぐっしょりになった亀頭を時々手で扱いたり、舌先で裏筋を舐めたりと、坂上に教え込まれたテクニックを駆使して岡部を気持ちよくしてやる。案の定、岡部は荒い息に混じって時々喘ぎ声を漏らしていた。
 にしても、なんで俺のタイプの男ってのはこうもチンコがでけえんだろうな? あんまし長時間フェラしていると顎が外れちまいそうだぜ。

「ちょっとストップ」

 そろそろイクんじゃねえかって頃合いになって、岡部は俺を股間から引き剥がした。

「ちょっと壁に手を突いて、ケツを突き出してみろ」
「ケ、ケツに入れんの?」
「ちげえよ。ちょっと当てるだけだ」

 本当にちょっとで済むのか疑いたくなるような切羽詰った声だったが、俺は要望どおりに両手を壁に突き、ケツを突き出すという恥ずかしい態勢になる。すると岡部は手でしっかりと俺の腰を固定して、生温かい肉棒をケツの谷間に差し込んできた。

「うあっ……」

 硬い感触を入口に感じた瞬間、掻痒感にも似た気持ちよさが全身に伝わってきた。チンコも限界の硬さまで張り詰め、それを岡部が手で扱く。
 まるでバックで挿入されてるみてえだ。そんな状態に恥ずかしさよりも興奮のほうがせり上げてきて、理性が吹っ飛んじまいそうになる。いや、もしかしたら岡部にカマをかけた時点でそんなもんはなかったのかもしれねえ。

「谷口っ……」

 荒い息の中で岡部が俺を呼んだ。
 ケツの入口が湿っているのは、たぶん岡部のチンコから出た先走りのせいだろう。かく言う俺のほうもさっきから涎みてえに透明な汁がチンコから垂れて、岡部の手と床を汚していた。

「先生、エロすぎ……」
「おまえだって人のことは言えんだろう。ケツにチンコ押しつけられて喜んでるじゃねえか」
「だってなんか、気持ちいいんだもん。それに先生のチンコすげえ硬いし」

 この硬いものがケツに入ってきたらどんな感じがするんだろう? 親父に指を入れられたときみてえに、やばいくらい気持ちいいんだろうか? なんだか気になって入口を擦るそれを受け入れようと思わねえこともねえけど、ここで簡単に捧げていいもんじゃねえって本能が訴えているから、明け渡したりなんかしねえ。
 岡部の腰の動きが激しくなってきた。たぶんそろそろイっちまいそうなんだろう。ちょうど俺も限界が見えてきたところだから、岡部がもっと気持ちよくなるように自分で腰を振った。

「谷口っ……そろそろイクぞ」
「先生っ、俺も、俺もイクっ」

 背中に熱い液体――岡部の精液がかかるのを感じた瞬間、俺のチンコからも白濁が飛び散った。それは壁まで届いて、流れ落ちる水滴みてえに垂れていく。



「生徒とヤっちまった……」

 二人してシャワーで身体を洗い、更衣室の長椅子に座った俺を後ろから抱きしめてきた岡部がそんな一言を漏らした。

「別に気にすることないっすよ。俺誰にも言わねえし」
「おまえを疑ってるわけじゃないんだ。なんか罪悪感がすごくて……。ってか、おまえのご両親にどんな顔して会えばいいんだ」

 一人懺悔する岡部に俺は持たれかかり、逞しい腕を掴む。冷たいシャワーを浴びた直後だからか身体は少しばかり冷めていて、それが暑い気温にはちょうどいい。

 もしももっと早くに自分が男もイケるんだと自覚し、もっと早くに岡部がお仲間だと知っていたら、岡部に惚れちまうなんてこともあったのかもしれねえ。顔はかなりタイプだし、身体もいいし、性格も世話焼きで面倒見がいい。こんな好条件がそろった男なんてそうそういねえだろう。
 しかし俺は、岡部よりも先にあいつと出会っちまった。そしてあいつに惚れちまったことによって、どんだけタイプな男と出会っても恋愛感情なんてものを抱くことがなくなっちまった。
 だから岡部ともこれ以上の進展はねえだろうし、進展したいとも思わねえ。まあ、岡部のほうもそう思ってるかもしれねえけどな。

 なあ、坂上。おまえは俺のことどう思ってるんだ? ただのセフレなのか? それともそれ以上の感情を抱いてくれているのか?
 岡部の腕に抱かれておきながら、俺はまた別の男のことを想っていた。




担任の先生の場合 終





inserted by FC2 system