BLボイスドラマ『鳥のように』無事に完結しました。最初から最後まで聴いてくださった方々、感想やいいねをくださった方々にはもちろんのこと、ボイスドラマの実現に協力してくださった語り手(キャスト)のいなばともひろさん、そして素敵な表紙を描いてくださった町田マーチさんにも大変感謝しております。本当にありがとうございました!
 ここからは『鳥のように』のあとがきというか、原作・ボイスドラマの裏話などを紹介していきたいと思います。最後までご覧になっていただけると幸いです。


【目次】(クリックで飛べます)

1. 『鳥のように』は約12年封印していたネタだった!
2. 当初は『こと』ではなく『バイオリン』
3. 大空のポジションにいたのは実は女性キャラだった!?
4. 『鳥のように』タイトルに込められた想い
5. ボイスドラマ化に評価の低かった『鳥のように』を選んだ理由
6. 実は音読ソフトで前身となるものを作っていた
7. キャストのオーディションと、いなばともひろさんに決めた理由
8. いなばともひろさんのご紹介とインタビュー
9. 町田マーチ先生のご紹介、インタビュー、イラストをお願いすることになった経緯
10. マーチ先生のイラスト-構図から仕上がるまで
11. 飛鳥と大空、来世の話
終. ラセルの今後の活動について





1. 『鳥のように』は約12年封印していたネタだった!

 この物語は元々『魔法』をテーマにした小説コンテストに応募するための作品として書き始めたものでした。それが約12年(くらい)前の話。ところが執筆中にそのコンテストが急遽中止になり、僕自身も目標をなくすと同時に書く気を失ってしまい、意図せず封印されることになったのです。書きかけのデータは行方不明に……。


2. 当初は『こと』ではなく『バイオリン』

 上記のコンテスト用に書いていたものも、『鳥のように』と同様に幽霊状態の主人公が弟のために、自分のことが見える人間の力を借りて楽器を作るという内容でした。しかし、その楽器は箏ではなくバイオリンだったのです。当時の僕はまだ箏と出逢っておらず、箏のこの字も思い浮かびませんでした。かといってバイオリンの知識があったわけではないですが、音が好きだという理由でバイオリンを採用した覚えがあります。

 箏と出逢ったのは実はほんの二年くらい前(2019年)の話で、ミーハーなきっかけであれですが、アニメ『この音止まれ』を観たことで初めて僕の中でちゃんと楽器として認識されました。それからアニメの筝曲をCDを買って聴くようになり、聴いているうちに自分でも弾いてみたいと思うようになって、昨年(2020年)の夏に中古の箏を購入しました。
 最初は基本の曲とも言われている『六段の調』を覚えるのにも苦労しましたが、今では伴奏が入る曲もなんとか弾けるようになり、下手ながらも趣味として楽しんでいます。ただ残念ながら『鳥のように』はまだ綺麗に弾けません(笑) 大空ひろたかも言ってたけど難しいんだよあの曲!
 まあそんなこんなで改めて小説にするにあたっては、今一番自分が好きな楽器である箏にしようとなったわけであります。マイナーな楽器ですが、奥が深く弾くほどに好きになっていきます。


3. 大空のポジションにいたのは実は女性キャラだった!?

 コンテスト用に書いていた話のほうでは、『鳥のように』の大空のポジションにあたるキャラを女性にしていました。と言っても当時から僕はBLしか書いてなかったので、主人公とその女キャラが恋愛をすることはなく、あくまで性別の壁を越えた固い友情で結ばれる話でした。
 ただこの女性キャラには裏設定があり、実は死んでしまった主人公を幽霊状態で召喚したのは彼女だったのです。特に主人公と繋がりがあったわけではなく、たまたま主人公たち兄弟の死別を知り、それを憐れんでの行動という感じ。その不思議な力に関しては特に深い設定はなかったと記憶していますが、とにかく彼女の力によって主人公は弟のためにバイオリンを作るという最大の未練を死後に叶えることになります。
 また短い間ながらも主人公と関わり合った彼女は、主人公に対して情を抱くようになり(恋愛感情ではない)、バイオリンを作り終えて成仏しようとした主人公を今度は魔法で生き返らせるのでした。主人公はその一連の流れが彼女の仕業(おかげ)であることを最後まで知ることはありませんでしたが、最愛の弟の元に戻って再び幸せな日々を送ることになります。
 最後の場面、映画を観終わって喫茶店で食事をする主人公たち兄弟。その店の片隅には彼らを優しく見守る彼女の姿が――。彼女は空になった自分のカップに魔法でコーヒーを淹れ、「魔法っていうのはこういうのを言うんだよ」と呟いて物語は終わります。こうして振り返ると『鳥のように』とはずいぶんと違った部分もありますね。


4. 『鳥のように』タイトルに込められた想い

 さて、ここからは『鳥のように』の話です。
 この『鳥のように』というタイトルは、もちろん主人公である飛鳥の一番好きな曲というのもあるのですが、「過去の辛い別れに囚われ続けるのではなく、前を向いて自由に飛び立っていってほしい」という意味も込められています。
 これまで僕はたくさんの別れを書いてきましたが、今作の飛鳥と大空の別れはまず間違いなく最も辛いものだったと思います。ただの失恋と違ってもう相手に二度と逢うことは叶わない。連絡を取り合うこと、声を聴くこと、触れ合うこと――何もかもをもう絶対に叶えられないというのはきっと、想像を絶するほど辛いものなのでしょう。それでも、どんなに辛い別れでも乗り越えられないことはない。そういう想いがあっての先ほどの「過去の辛い別れ〜」という想いを込めて『鳥のように』というタイトルを付けました。


5. ボイスドラマ化に評価の低かった『鳥のように』を選んだ理由

 Pixivの僕の作品一覧を見てわかるように、今作はここ四年くらいで書いた作品の中で最も評価の低いものでした(※分冊作品を除く)。じゃあどうしてそんな作品をボイスドラマ化しようとしたかというと、一つはそのボリューム。今作は約七万字(ボイスドラマでは約六万字)という長すぎず、短すぎずのボリュームで、音声化するのにはちょうどよかったのです。僕の作品は十万字を超えることが結構あるのですが、そこまでのボリュームのものを音声化しようと思ったら大変な苦労を伴うと思います。
 また、登場人物が四人しかいないというのも都合がよく、一人のキャストで何とか回せるのではないかと結論付けました。
 もう一つの理由は飛鳥、大空に対する思い入れが強かったこと。硬派で職人気質、けれどなかなかのブラコンな飛鳥。そして明るくていかにも遊んでそうな陽キャ、けれど実はものすごく一途なゲイの大空。この二人はこれまで生み出してきたオリキャラの中でもすごく気に入っていて、二人のやりとりをぜひ音声でも再現したいという思いがあったのです。気に入っていると言いながらも二人を幸せにしてやることはできませんでしたが(笑)、原作・ボイスドラマともに完結した今も大好きです。


6. 実は音読ソフトで前身となるものを作っていた

 You Tubeにて公開されているボイスドラマでは、いなばともひろさんがキャラクターの声を感情豊かに演じてくださってますが、実は一度音読ソフトを使ってボイスドラマのようなものを作っていました。けれどお察しの通り、やっぱり音読ソフトだと感情を表現するのが難しいし、自分の望んでいたものとは程遠いものになってしまっていたのです。2話目まで作成・公開したところでやっぱりちゃんと人間に読んでほしいという思いが強くなり、そして語り手(キャスト)の募集を開始します。


7. キャストのオーディションと、いなばともひろさんに決めた理由

 BL作品だし、僕自身が無名な同人作家なので募集をかけたところで応募してくださる方がいるのか心配だったのですが、オーディションには12人の方がご応募してきてくださいました。本当はもっと多かったのかもしれませんが、これ以上は僕のほうが捌ききれないと判断し、募集開始から二日で締め切らせていただきました。
 ご応募された方にはボイスサンプルを提出していただき、それを判断材料にキャストを選考させていただきました。皆さん本当に魅力的な声の方ばかりで迷いに迷いました(汗)
 ちなみにボイスサンプルとして収録していただいた台詞はこちら

飛鳥「今は職人として箏を作ってるけど、小・中学生の頃は教室に習いに行ってたんだ。高校でも部活で弾いてたし、俺にとっては一番身近な楽器だよ。何? その厳つい顔には似合わないって? やかましい! 顔は別に関係ないだろ! 失礼なやつだな〜」

大空「あ、見て見て! あの人すげえカッケー! どうにかしてお近づきになれねえかな〜。……って、冗談だよ、冗談。そ、そんなにポテンシャル上げて怒らなくてもいいだろ? ごめんって。ほら、あそこのアイス奢ってやるから、機嫌直せよ。な?」

「箏作るの、すごく楽しいよ。目が回るくらい忙しい日もあるけど、自分の手で作られた箏が演奏会で使われているのを観ると、すごく大きな達成感というか、満足感みたいなもので胸がいっぱいになるんだよね。ああ、頑張って作ってよかった、って」

「将来は箏の奏者になりたい。とても難しいことだってわかってるけど、俺にとって一番楽しい時間って、箏を弾いてるときなんだ。だからできればそれで生きていきたい。いろんな人に俺の演奏を聴いてもらいたい。兄ちゃんには迷惑かけちゃうかもしれないけど、どうしてもその道に進みたいんだ」

※台詞以外の朗読部もあったけど長いので略


 翼と鷹に関しては割と皆さん似たり寄ったりな感じだったのですが、いなばさんの飛鳥と大空の声が理想としていたそれに最も近く、また、台詞以外の朗読部分がかなり聞き取り易かったので、今回のボイスドラマの語り手(キャスト)はいなばさんにお願いすることに決めました。
 ボイスドラマが完結した今、本当にいなばさんにお願いしてよかったと心から思っております。終盤の悲しみや寂しさを露わにする大空や、精神が強そうな飛鳥が堪えきれず泣くシーンなどは、いなばさんだからこそ繊細に表現できたのではないかと思います。


8. いなばともひろさんのご紹介とインタビュー

 いなばさんが一体何者なのか気になってる方もいらっしゃるのではないかと思います。
 いなばさんはフリーの声優・ナレーターとして活動されている方で、Youtubeの漫画広告動画や地方CMのナレーションなどの経験をお持ちでらっしゃいます。
『鳥のように』ではすべてのキャラクターの声と描写部の朗読を担当していただき、絶妙な声の使い分けと高い演技力で作品に貢献してくださいました。特に大空の声はキャラクターにかなり合っていた上、泣いたり怒ったり、喜んだり落ち込んだりと、感情豊かで意外と繊細なところもある彼を本当に理想以上に表現してくださったように思います。
 そんないなばさんに『鳥のように』に関する質問をいくつかさせていただきました!


【質問1】『鳥のように』の登場人物の中でいなばさんが一番好きなキャラクターとその理由を簡単に教えてください

【いなばさん】
迷いますが鷹さんです!
職人としての技術と実績があって、それでいて傲慢にならずに優しく飛鳥と大空の琴作りをサポートしてくれる。余裕のある大人って感じで憧れます!


【質問2】4人のキャラクターを演じる上で最も難しかったキャラクターとその理由を簡単に教えてください

【いなばさん】
飛鳥です!
幽霊になってしまった自分への不安、弟に何もしてあげられない焦りや後悔。大空に気持ちが惹かれていくことへの戸惑いなど、常に何かしらの葛藤があり、それを表現するのが難しかったです。セルフで録り直した回数は多分一番多いです。
ちなみに弟の翼も声色のことも相まってかなり模索したので、鷲巣兄弟は二人とも難しかったですね 笑


【質問3】逆に一番演じやすかったキャラクターは? よければその理由も教えてください!

【いなばさん】
大空です!
自分の持ってきた演技をラセルさんにイメージ通りと言ってもらえて、自信を持って演じることができました! 軽薄そうに見えて意外と芯はしっかりしていて、結構甘えん坊でその裏にはやっぱり兄のことが影響してるのか。など、言葉の裏に隠れている気持ちを表現できていたら嬉しいです。


【質問4】最も印象に残ったシーンはどこですか?

【いなばさん】
三の三、飛鳥の亡くなった場所に行くシーンです。
大空がちゃんと気持ちを伝えて飛鳥も自分の気持ちを受け入れて、でも生きている人間と幽霊の間には明確な壁があって…。とにかく切なかったですね…


【質問5】最後に、視聴者様に何かお伝えしたいことなどあればどうぞ!

【いなばさん】
作品から何を受け取るかは、それを見た人の自由なので、それぞれの感性で楽しんでくれたら嬉しいです。
もし、「鳥のように」を良いと思ってくれて、誰かにとって時間が経っても記憶に残るような作品になってくれているのなら誇りに思います。

ラセル:鷹さんが好きとはなかなか渋い(?) 最後のお言葉は作者としても嬉しい限りです。
    キャストを担当いただいたことを含め、本当にありがとうございました!
    いなばさんの一ファンとして今後のご活躍を楽しみにしております!
    そして次回作もぜひよろしくお願いいたします(笑)


9. 町田マーチ先生のご紹介、インタビュー、イラストをお願いすることになった経緯

 僕が語らずとも多くの方がきっとご存知かと思いますが、続いては町田マーチさん(以下マーチ先生)のご紹介です。
 マーチ先生は主にPixivで活動されている同人漫画家さんで、元々Pixivのほうで少しだけ連載されていた『コワモテ男子の弁当が美味い理由』が今現在電子やコミックで発売中です。Pixivではもちろんのこと、Twitterでも多くの方にフォローされており、その人気の高さが窺えます。
 かくいう僕もマーチ先生の大ファンで、先生を知るきっかけとなった『コワモテ男子の弁当が美味い理由』は電子で単話を買った上で紙コミックも購入し、それとはまた別で購入したサイン本を額に入れて飾るくらいの熱中ぶりです(笑)

 そんな大好きなマーチ先生にぜひとも『鳥のように』のイラストを描いていただきたいと、勇気を振り絞ってご依頼メールを送ったわけですが、九割方お断りされるだろうなと覚悟していました。こんなどこの馬の骨とも知れない素人同人作家の依頼を受け入れられるほど先生はお暇ではないだろうし、興味も持たれないだろうと思っていたからです。なのでメールを送る瞬間こそ緊張していたものの、その後はお断りメールを待つだけ(最悪返信すら来ないのでは?)だと少し気を抜いて眠りに就いたのを憶えています。
 ところが目を覚ましてメールを開くと、マーチ先生からのご返信が! そして中身を確認すると、『私で宜しければ是非描かせてください』の文字が!! 一瞬寝ぼけているのかと自分を疑いましたが、何度確認しても目にした文字に間違いはありませんでした。「えっ!? 嘘!? マジデジマ!?(古っ)」と嬉しさで舞い上がると同時に、憧れの同人漫画家さんとご一緒にお仕事(非商用なので正確には違いますが)できるとなって一気に緊張が湧き出してきました。
 その日は本当に緊張で何も手につかず、食欲もなくして体調を少し崩してしまいました。それくらいマーチ先生は僕にとってすごい存在であり、ご一緒にお仕事できるのは恐れ多いことだったのです。

 実際にマーチ先生とお仕事をしてみて、描いていただいたイラストはもちろんなんですが、そのお人柄もまた魅力的でした。ご丁寧に対応していただいただけでなく、『鳥のように』の原作を読んでその感想をくださったり、宣伝方法やサムネについてもご教授いただいたりと、積極的に企画に関わってくださり、本当にいろいろ助けていただきました。ますます好きになっちゃったよ、マーチ先生!

 そんなマーチ先生にも『鳥のように』に関していくか質問させていただきました!


【質問1】『鳥のように』の登場人物の中で、マーチ先生が最も好きなキャラクターは誰ですか? また、その理由もぜひ教えてください!

【マーチ先生】
みんな魅力的ですが、飛鳥君ですかね?
坊主が好きなのと真面目な堅物キャラも好きなので!


【質問2】今回イラストを描いていただきましたが、苦労したところなどありますか?

【マーチ先生】
琴の知識が無かったので不備が無いように資料を見ながら描くのが大変でした


【質問3】印象に残ったシーンなどあれば教えてください(原作、ボイスドラマどちらからでもOK)

【マーチ先生】
最後のお別れのシーンが1番悲しくて美しくて大好きなシーンです!
折角結ばれたと思った矢先だったので…辛いシーンですがとても感動的な場面として脳裏に焼き付きました!


【質問4】マーチ先生の今後の活動(お仕事)予定ついて、公表できるものがあればぜひ教えてください!

【マーチ先生】
いつ発表になるか分からないのですが、春頃にまた商業の方でBL漫画の連載が始まる予定です!
是非よろしくお願いいたします?!

ラセル:好きなキャラは予想通り! マーチ先生と言えば坊主キャラですもんね。
    素晴らしいイラストを描いていただき、本当にありがとうございました!
    新連載とても楽しみにしております!


10. マーチ先生のイラスト-構図から仕上がるまで(イラストはクリックで拡大可)


まずは僕が作った構図です。
絵がまったく描けないのでエクセルのオブジェクトで作ってます。
改めて見るとなんかシュール(笑)



続いてはマーチ先生からご提示いただいたキャラのラフ案。
それぞれAとBのパターンを用意していただき、 飛鳥はBで瞳を大きめに、
大空はAを選びました。
 



キャララフ選択の後、全体のラフを描いていただきました。
この時点でもう大興奮の僕(笑)
絵の中でマーチ先生が飛鳥の背のことに触れてらっしゃいますが、
実は飛鳥の身長は一般的な十三弦箏と同じという設定になっています。



箏は飛鳥と大空が協力して作ったやつです。
飛鳥オリジナルの龍頭の模様もマーチ先生にご提案いただき、
描いていただきました。(僕はあくまで“菊花紋をアレンジした模様”としか決めておらず、細かい部分はマーチ先生頼みでした)
千鳥を入れてくださったのは嬉しかったというか、発想になるほどすごいとなりました!



そしてついに完成!
細部まで丁寧に表現された素晴らしいイラストに、感激して涙が零れそうになったのを今でも憶えております。
原作自体は切ないストーリーでしたが、飛鳥と大空はきっといつかまた巡り逢えると信じて前に進みだしたので、イラストの二人も笑顔にしていただきました。



こちらはポスターバージョン。



マーチ先生が用意してくださった別バージョン。
6話の背景としても使わせていただきました。
二人の行く末を知っていると、切ない気持ちに駆られます……。




11. 飛鳥と大空、来世の話

 ボイスドラマのほうは「来世でまた逢おうな」の二人の台詞で締めくくられていたかと思いますが、じゃあこの二人は本当に来世でめぐり逢うことができるのか――結論から言うとめぐり逢うことができます。正確には違う世界線の二人ということになるのかもしれませんが、幸せなストーリーも作者の中では存在していたのです。
 しかし今のところ文章化する予定はなく、けれどこのままお蔵入りにするのもちょっと寂しいということで、大雑把にではありますが来世の二人の話を書き残しておこうと思います。


タイトル:if〜鳥のように

・飛鳥十八歳、高校三年生の夏。ものづくりの道に進みたい飛鳥と箏奏者になってほしいと願う両親の間で激しい口論。その末、飛鳥は家を出て近くの公園(オリジナル版で大空と初めて出逢った場所)に立ち寄る。

・同じく十八歳の大空、上記の公園のトイレがゲイのハッテン場であると知り、興味本位で行ってみる。(この時点では大空に男性経験や交際経験はない)

・トイレ前のベンチに座っていた飛鳥をゲイ仲間だと誤解し、声をかける大空。一方の飛鳥も大空を家出仲間だと勘違いし、お互いのことを話す。そして話しているうちに互いが勘違いし合っていたことに気づく。大空は飛鳥に一目惚れしており、何としても親しくなりたいと思い始めている。

・家に帰りたくないという飛鳥に大空がラブホに泊まることを提案。無一文で飛び出してきた飛鳥に代わってホテル代を出すという大空、その代わり飛鳥の腕枕で寝させてほしいと言ってくる。

・飛鳥はそれを渋々受け入れ、二人でラブホに。約束通り腕枕してやると、大空に触れた瞬間に自分がものすごく優しい気持ちになっていることに驚く(※前世の記憶が作用しているという設定)

・翌日、親に怒られるのを回避するためにあえて大空を自宅に連れ帰り、目論見どおり怒りのボルテージを下げることに成功。自室に上がると大空の前で「鳥のように」を弾いてやり、自分も弾いてみたいと言い出した大空に箏を教えてやる。

・帰り際、飛鳥に惚れていると正直に告げる大空。これからも逢いに来ていいかと訊かれて迷う飛鳥。最終的にはそれを了承し、連絡先を交換。

・なんやかんやで更に親しくなる二人(一緒に映画に行ったり、水族館に行ったりとデートイベント)。けれど積極的に好意を伝えてくる大空に対し、ゲイじゃない飛鳥は彼に対して恋愛感情は抱いておらず、二人の気持ちは平行線を行く。

・大空のそばにいることに居心地のよさを感じ始めていた飛鳥だが、自分のしていることは大空を悪戯に期待させてしまっているだけで、最終的には彼をひどく傷つけてしまうことになるのではないかと思い始める。大空と距離を置くべきだと判断し、逢うことも連絡を取ることも控える飛鳥。毎日のように来ていた大空からのメッセもやがて途絶える。

・十一月、近くの釣り具の製作所に就職が決まっていた飛鳥だったが、美濃羽琴製作所の求人広告をたまたま目にし、採用試験を受けることに決める。

・試験の日、美濃羽製作所に行くと同じく採用試験を受けに来ていた大空と再会する(これは偶然)。少しぎこちなさを感じながらもお互いの近況を話し、大空に恋人ができたと知ってもやっとする飛鳥。

・美濃羽鷹、三十二歳。箏作りの弟子を採るための採用試験で、実技の出来の良かった飛鳥と大空のどちらを採用するか悩む。器用さは大空のほうが上だが、箏への知識や情熱は飛鳥のほうが勝っている。最終的にはシェア拡大の構想もあることを考慮して、両方を採用する。

・同じところに就職が決まったことで、一度離れていた飛鳥と大空の距離はまた近づいていく。大空は飛鳥のことを諦めようとしていたが、やっぱり諦めきれないと自覚しつつも年上の男と付き合い続ける。

・大空、美濃羽製作所に就職する前に箏のことを理解しておこうと、飛鳥に弟子入りして箏を習う。

・飛鳥と大空、高校を卒業して間もなく美濃羽製作所で働き始める。

・大空は年上の男と別れ、それから恋人ができたり遊びまわったりの日々を送る。一方の飛鳥も友人の企画した合コンに駆り出され、そこで彼女ができたりするも翼を優先したがることを理由にフラれる。

・ある日、大空の顔に痣ができていることに気づいた飛鳥。階段から落ちただけだと本人は言っていたが、数日後には腕に、それからまた数日後には胸の辺りにと、不自然な怪我が増える大空に飛鳥は問い詰める。すると大空は今付き合っている恋人に暴力を振るわれていると白状する。別れるよう提言するが、それでも好きだから別れたくないと泣く大空。

・仕方なく様子見に徹する飛鳥。しかし、ついに大空が腕の骨を折られるという大怪我を負わされてしまい、飛鳥は怒り狂って大空の恋人の元に向かう。大空が必死に止めようとするも制止できず、大空の自宅にいた相手と顔を合わせる。

・口論の末、相手が飛鳥を包丁で刺そうとするが、それを大空が身体を張って庇う。重傷を負い、救急車で運ばれる大空。それに付き添う飛鳥。処置が終わるのを待ちながら、大空を絶対に失いたくないと飛鳥は強く思う。

・処置が終わり、大空の命に別状はないとわかって飛鳥は安堵する。以下、翌日の二人の会話。

大空「あっちゃんのこと身体を張って守りたいって思うくらい好きなんだ。ずっと諦めようと努力してきたけど、やっぱり駄目だった」

飛鳥「なんで俺なんかを……」

大空「最初は一目惚れだったんだけどさ、今は中身もすげえ好き。男らしいけど優しくて、芯が強くて、箏に関して熱血で……ブラコンが過ぎるのはちょっとあれだけど、でもそれも簡単に許しちゃうくらい全部好きだ」(オリジナル版と同じ台詞)

・大空の真剣な告白を聞いて、初めて飛鳥の中にも彼に対する恋愛感情が芽生え始める。

・大空を刺した男は逮捕されたが、腕を骨折して生活に不自由を強いられている大空のために、飛鳥は彼のアパートに居候を始める(大空もそれを望んでいた)。はっきりとした進展はないものの、飛鳥は大空に対して今まで以上に心を許していく。骨折が完治しても同居は継続。

・飛鳥が二十歳になって間もなく、両親が交通事故で死去。悲しみに暮れる翼を慰めつつ、兄としてしっかりしていなければならないと思う飛鳥は泣くのを堪える。けれど大空と二人きりになって慰められたところで我慢できなくなり、彼に縋りついて泣くじゃくる。優しく飛鳥を支えてくれる大空に対して恋愛感情を抱いていることを確信する(今までも気づきかけてはいたが、自分が自分じゃない何かになってしまう気がして見ないふりをしてきた)

・翼を一人にするわけにはいかないため、飛鳥は実家に戻ることを決めるが、翼と相談して大空にも一緒に住んでもらうことに(大空にも懐いている翼は了承、大空も飛鳥から離れたくないため快諾)

・四十九日が終わり、両親を失ったことへの悲しみが落ち着いたところで、自分の想いを飛鳥は大空に伝える。こうして二人は恋人同士になる。

・飛鳥、二十三歳の秋。翼の箏を作るための桐木を選びに山に入る。斜面に生えている立派な桐木を見つけ、近づこうとするも足を滑らせる。しかしすぐに大空が飛鳥の腕を掴み、滑落せずに済む。下を見ると大きな岩が待ち構えており、ひょっとしていたら死んでいたかもしれないと肝を冷やす二人。その瞬間に二人とも前世の記憶(オリジナル版での邂逅した記憶)を思い出し、喜び合う二人。

・それから数ヵ月後、テーマパークでデートする二人。飛鳥は最初グッズの被り物を嫌がるも、場の雰囲気や大空と二人でいることの楽しさに飲まれ、自ら被り物を被る。この幸せが今度こそ続くよう願う二人。

・それからまたしばらくの後、美濃羽製作所に雑誌の取材(日本の伝統楽器を受け継ぐ若者というテーマ)が入る。飛鳥と大空のツーショットの要求があり、雰囲気を出すためにと作務衣を着せられ、一台の箏を二人で支える画を撮影。

少しだけ触れ合った部分から、慣れ親しんだ大空の温もりが流れ込んで来た。この温もりをもう二度と失いたくない。自分のすべてを差し出したいと思うほどに大切だった相手と離れるのがどれだけ辛いことか、飛鳥は気が遠くなるほど昔に経験した人生の中で知った。けれど今度は大丈夫だ。飛鳥はこうしてちゃんと生きている。最後には大空の身体さえもすり抜けてしまったこの手は、今ちゃんと大空の手と触れ合い、互いの体温を共有できている。泣きたいくらいの幸せを改めて噛み締めながら、飛鳥はその手を大空の手にそっと重ね合わせ、この幸せが逃げて行かないようにと優しく包み込んだ。

の文で物語は終わる。


 以上が飛鳥と大空、来世の二人の話です。途中いろいろ辛い出来事はあったものの、オリジナル版の別れのことを考えると、十分に幸せな結末だったと言えるんじゃないでしょうか? もちろんこの先も二人は別れることなく、いつかはオリジナル版で飛鳥が言っていたように、お互い爺になったななんて言い合いながら最後まで一緒にいるのだと思います。


終. ラセルの今後の活動について

 興味ないとか言わずに最後まで読んでいって!(笑)
 まず『鳥のように』に関しては、大空の、飛鳥がいなくなってからの一年間を書きたいと思っております。それから翼を主人公にした話(飛鳥、大空も登場予定)なんかも書けたらなと思いつつ、時期はまったくの未定です。本当に書くかどうかすら未定(笑)

 小説の執筆に関しては現在『とある高校球児の恋』というお話を書いているところです。執筆スピードが亀速で仕上がるのにまだ一ヵ月以上かかりそうだけど、そのうち公開予定。

 ボイスドラマに関しては、三月にでも『二人ぼっちの広い世界』を音声化できたらなと考えております。『鳥のように』ではすべてのキャラクターをいなばさんに演じていただきましたが、今度はキャラクターごとにキャストさんを変えてみる予定です(そのうちの一人をいなばさんにお願いしたいですが…)。
 それと今回の反省を生かして、次回は台詞中心の台本にしたいですね。今回の企画は元々朗読という名目で始めたものだったので描写がかなり多かったですが、原作とのメリハリを付けたいです。イラストもまたマーチ先生にお願いできたらいいけど、新連載始まるからお忙しいかな……。

 ここまで読んでくださった心優しい方、ボイスドラマや原作にも触れてくださった方、ありがとうございました。今後もラセルの活動を生温かく見守っていただけると幸いです。


【ボイスドラマへのリンク】

『鳥のように』予告・あらすじ
第1話 見える男
第2話 美濃羽琴製作所
第3話 二人の時間
第4話 最後の願い
第5話 ドアの向こう/第6話 琴音



2021年12月30日 『鳥のように』セルフライナーノート/by.ラセル
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