夕食を済ませ、毎日の日課である筋トレも済ませ、歯磨きも済ませてあとは寝るだけとなったナイルである。ジャンはというと、ナイルより先に歯磨きを済ませ、少しだるいから先に寝ると言って、一人で二階に上がってしまった。

(この感じじゃ、今日はお預けだな)

 セックスをしたいという気持ちがジャンの中にないわけではないのだろうが、やはり未知の領域に足を踏み入れるというのは気後れしてしまうのだろう。キスをしたときだって、どうすればいいのかまるでわからない、というような反応をしていた。
 何より彼の体調が好調ではないから、ナイルも始めからお預けを覚悟していた。さっき裸のジャンに触れてかなり興奮したのはしたのだが、いまはすっかり落ち着きを取り戻しているし、次回に持ち越しでも全然構わない。

(やっぱり、酒でも飲むとするか)

 その前にジャンの様子を窺っておこうと、ナイルは二階の寝室に向かう。
 ドアを開いた途端、予想外のものが視界に飛び込んできて、ナイルは思わず呆然となった。ベッドの上に肌色の何かが鎮座している。いや、何かと言わずともそれがジャンであることはすぐにわかったのだが、まさか全裸で正座しているなんて思ってもみなくて、ナイルの中に驚きと興奮が同時に湧き上がった。

「……な、何やってんだよ? 風邪が悪化するだろうが」
「――オレを抱いてください」

 真剣な顔で、真剣な声で、ジャンがそう口にした。

「こええけどさ、やっぱそれ以上にナイルさんとやりてえよ。せっかく恋人になれたんだから、いままで妄想で終わらせてたこと全部してえ」
「お前な……風邪っぴきだろ? 無茶すんじゃねえ」
「ナイルさんだってさっき風呂でやりたそうにおっ勃ててたじゃねえか。それに恋人らしいことなんてセックスしかできねえとも言った」
「確かにそう言ったが……やっぱりお前の身体も大事だ。無理はさせたくねえ」
「無理じゃねえよ! 風邪なんかもうほとんど治ってるし、セックスしたくらいで悪くなったりしねえよ!」
「したことねえくせに、よくもそんなことが言えるな」
「う、うるせえ! とにかくオレはいましてえんだ!」

 まるで子どものようなことを言う。そう呆れる半面でそれでも可愛いと思ってしまうのは、惚れた弱みというやつだろうか?

「……そこまで言うならやるか。せっかく裸で出迎えてくれたわけだしな」

 そこまでやらせておいて拒否したら、ジャンに恥を掻かせてしまうことになるだろう。何よりナイル自身もジャンと身体を重ねたかったし、体調のことが少し心配ではあるが、拒否する理由など何もない。

「少しでも辛かったら、ちゃんと言うんだぞ? やって具合悪くなりましたじゃ話にならないからな」
「わかってるよ」

 と言いながらも、きっとジャンは意地を張って大丈夫と言い張るのだろう。だからその辺りはナイルのほうがよく様子を見てやらなければならない。

「寒くなかったか?」

 訊きながらナイルは、ベッドに腰を下ろして裸のジャンを抱きしめた。

「布団被ってたから平気だった」
「そうか。ならいいんだが」

 下の暖炉もまだ点いているし、身体が冷えたということはないようだ。
 ナイルはそのままジャンの身体をベッドに押し倒す。切れ長の瞳に浮かぶのは、期待なのか、それとも不安なのか――どちらともつかぬそれをじっと見つめ、そして額にキスを落とした。

「ホント可愛いな、お前」
「だろ?」
「否定しろよ馬鹿。そういうところは可愛くないぞ」
「冗談だって。オレはナルシストじゃねえ。――ナイルさんはやっぱり男前だな。いつ見ても惚れ惚れするわ」
「う〜ん……結構おっさんだと思うんだけどな〜」

 それでも好きと言ってくれるのだから、気にする必要はないのだろう。談笑はもう終わりだ。ここからは恋人同士が互いの愛を確かめ合う時間だ。
 最初は啄むような軽いキスから始めて、それが徐々に深く噛み合うようになっていく。それから舌を口内に侵入させると、ジャンは必死に自分の舌を絡ませてきた。

「やべえ、もう完全に勃起しちまった……」
「気にすんなよ。俺だってもうカチカチになってる」
「マジだ。すげえ」

 ナイルのズボンの異様な膨らみを、ジャンはやわやわと触り始める。

「かてえな。やっぱ全然おっさんなんかじゃねえよ」
「判断基準はそこかよ」
「大事なことだろ? ここが勃たなきゃ何も始まらねえ。それにオレで興奮してくれてるのはやっぱり嬉しいからな」

 痛いぐらいに隆起したそこを解放してやろうと、ナイルは着ているものを手早く脱いだ。その一つ一つの動作をジャンが食い入るように見つめているのに気づいて、思わず苦笑が零れる。

「そんなに見んなよ」
「見たくなるのが普通だろ?」
「さっき風呂で見ただろうが」
「あんときはそんなにじっくり見れなかったんだよ。勃起させたくなかったしな」
「いまはしてんのか?」
「愚問だな。そんなの当たり前だろ」

 ナイルは布団の中に手を入れ、ジャンのそれを探り出す。熱くて硬い感触は、同じ男として馴染み深いもののはずなのに、初めて握る他人のそれはなんだかまったく別のもののような気がした。

「ナイルさんの……すげえ太いな」

 ジャンも形を確かめるような手つきでナイルのそれに、直に触れてくる。

「こんなのがマジでケツに入るもんなのか?」
「さあな。そればっかりは俺もやってみねえとわかんねえよ。ただ、やっぱ嫌だっつっても今更遅いからな」
「へっ、こんだけ勃たせてりゃ我慢なんて効かねえだろうな」
「お前もな」

 ナイルはジャンのあそこに触れていた手を、今度は胸の辺りに滑らせる。女のような膨らみはないが、代わりに乳首の感触がすごくわかりやすい。周りはざらりと、中心はぷくっと膨れていて、指で押すと柔らかく沈む。

「乳首、どうだ? どんな感じがする?」
「なんか、よくわかんねえ……すげえ変な感じ」

 変な感じがするということは、そこが性感帯であるという可能性が高いと、ナイルはいままでの経験で知っている。だから指でこねくり回すようにそこを弄り回し、ジャンの反応を窺う。

「やめっ……そんな、すんなって」

 そう言いながらナイルの指から逃れようと身体を捩るのは、きっとそこを責められるのが嫌だからではないだろう。触っているうちに小さな突起は硬くなってきたし、あそこもまったく萎えていない。

「気持ちいいだろ? 乳首硬くなってきたぞ?」
「んなことねえよっ」
「嘘つけ。身体びくびくなってんじゃねえか。俺はなあ、ジャン。意地張るやつより素直なやつのほうがだいぶ好きだぞ?」
「だから、何?」
「だから、感じてんなら素直にそれらしい声出せっつーの」

 組み敷いた相手を鳴かしたくなるのは、男の本能というものだろうか。鳴かせる術ならそれなりに心得ているし、ここからは大人の経験値というものをフルに生かしてやろう。
 相手の身体を責められるのは、何も手だけではない。この口だって立派な武器となる。たとえばこんなふうに乳首を舐めると――

「あっ!」

 お喋りなジャンの口から、甘ったるい声が零れて部屋に響いた。恥ずかしそうに口元を手で押さえたジャンを見下ろしながら、ナイルはつい顔がにやけてしまう。

「ほら見ろ。やっぱり感じてんじゃねえか」
「ち、ちげえよっ」
「じゃあいまの声はなんだ? すげえ可愛い声だったぞ?」

 そうして再び乳首に舌を這わせると、ジャンの身体は硬く強張った。声はどうにか堪えているようだが、時々震える身体は感じていることを正直に教えてくれる。それが逆にナイルの加虐心を煽って、余計に虐めてしまいたくなった。

「ふあっ……」

 強く吸いつけば、ジャンは濡れた目で喘ぎながら、ナイルの腕を強く掴んだ。

(ホント可愛いな、こいつ)

 顔も身体も男なのに、ナイルに触られてよがっている姿は、そこらの女よりも遥かに可愛く映る。こんなに興奮するセックスは、結構久しぶりかもしれない。
 暇になったほうの手で触ったジャンの性器は、どうしようもないくらいに硬くなっていた。先端が少し湿っているのは、きっと先走りのせいだろう。それを指で押し広げるように亀頭を擦ると、ジャンは可愛い声を出しながらしがみついてくる。

「ナイルさんっ……ホントに、男とは初めてなんだよな……?」
「そう言っただろ?」
「なんか、上手すぎねえか? 気持ちよすぎておかしくなりそう……」
「そりゃ、俺も同じ男だからな。同じ身体してりゃ気持ちいいところもだいたいわかる」

 邪魔な掛布団を除けると、ナイルの予想どおり、ジャンの股間は濡れ濡れになっていた。早くどうにかしてくれ、と言いたげにひくひくと動く様子は妙にいやらしくて、ナイルは思わず息を飲む。

(なんか普通にいけそうだな)

 無遠慮に観察した股間のそれは、大きさこそ違うが、やはり自分の股間にあるものと同じだ。そこを女がしてくれるみたいに自分の口に含むなんて、少し前のナイルなら吐き気さえも催していたかもしれない。でも、いまは違う。目の前のこれを口に入れて、ジャンを気持ちよくしてやりたい。そんなふうに思えた。

「人のチンコじろじろ見てんじゃねえよっ」

 言いながらジャンは、自分の股間を手で隠した。けれど勃起したものが片手に収まるわけもなく、先のほうが少し顔を覗かせている。

「いや、お前のそれを喰っちまいたくなってな」
「喰うって……あっ、ちょっ!?」

 ナイルが何をしようとしたのかジャンもすぐにわかったのだろう。口をそこに近づけるのを制止しようと手を伸ばしてくるが、ナイルはそれを掴んで除け、欲情したそれに舌を這わせた。

「あっ、うあっ……」

 舐めた瞬間、酸っぱいような味が口の中に広がるが、決して不快ではない。裏筋をなぞるように舌を上下させ、それから亀頭全体を丁寧に舐めていく。

「んっ……あっ、あぁっ」

 口に含むと、ジャンの太ももがピクッと震えた。そのまま何度も口で扱いて、ジャンを喘がせる。
 抵抗もなくそこを咥えられたのは、やはり相手がジャンだからだろう。形も、感触も、匂いも、すべてが愛おしく感じられる。
 ナイルはジャンの太ももを持ち上げると、フェラをしながら尻を無遠慮に掴み、揉みしだいた。無駄な脂肪がない、そこそこに逞しい身体の中で、唯一そこだけは柔らかく揉み心地がいい。

「はあっ……やっ、あっ、駄目っ……」
「何が駄目なんだ? さっきから我慢汁が出まくってんじゃねえかよ」

 ナイルはフェラチオを一旦中断し、再び乳首を責めてやる。
 尻を揉む手をその谷間に滑らせると、ジャンは抵抗するように足をバタつかせたが、もうすっかりやる気になってしまったナイルの本能は止められない。
 汗に湿ったそこに指を当てれば、入り口がきゅうっと窄まって侵入を拒絶する。しかし、ナイルはそれを無理やりこじ開け、狭い空間に押し入ることに成功した。

「き、汚くねえのかよ?」
「さっき風呂に入ったから大丈夫だろう。それより痛くないか? 処女なだけあって、結構きついみたいだぞ?」
「ちょっといてえ……」
「だよな。ちゃんと用意しておいてよかったぜ」

 言いながらナイルは、ベッドサイドの引き出しから小瓶を取り出した。中身はマッサージなどに使われるオイルで、これを使えばジャンも少しは楽になるだろうと、さっそくそこに垂らしてみる。

「冷てっ! 何付けたんだ!?」
「オイルだよ。これならここも、痛くなくなるだろ?」

 下に垂れ落ちていくオイルを指ですくい取り、そのまま窄まりに突っ込んだ。やはりさっきのようなつっかえる感じがなくなって、スムーズに奥のほうへと押し入っていく。
 数分もすればそこはほどほどに柔らかくなって、指も二本、三本と飲み込めるようになった。さすがに四本目はかなりきつそうだったが、ゆっくりほぐせばなんとか拡がった。

「ジャン……そろそろ入れさせてくれ。大人げねえけど、もう我慢はできそうにねえ」

 本当はいきり勃った自分のモノをしゃぶってもらおうかと思ったのだが、息をするたびにひくひくと動くジャンの後ろを見ていると、どうにも堪らなくなってしまった。入り口の辺りに性器を押しつけながら、それでもわずかながらの理性でジャンに確認をする。

「ははっ、今更何訊いてんだよ? 入れたくて堪んねえって顔してるくせに」
「恐いって言ってたのはお前だろ?」
「そうだけど……でもやっぱ、好きな人と一つになりてえって気持ちのほうが大きいぜ?」

 弱々しく微笑んだ顔にナイルは手を触れさせ、優しく口づけを落とした。そしてまだ大人に変わり切っていない身体を抱きしめれば、ジャンもまた抱きしめ返してくれる。

「無理はすんなよ?」
「大丈夫だって。だから早く、それ入れてくれよ」

 先走りを垂らしている様は、まるでジャンの淫らな姿に興奮して涎を垂らしているようだ。いや、実際に興奮は臨界点を超える寸前ではあるが、その興奮に負けて乱暴なことをしないように気をつけなければならないだろう。
 自分でも驚くくらいに硬くなったそれに手を添え、改めてジャンの入り口に宛がう。そのままゆっくりと腰を押し進めると、意外なほどすんなりと先端が中に入り込んだ。
 途端にジャンの身体が緊張したように強張り、ナイルの性器がぎゅっと締めつけられた。

「痛かったか?」
「いや、思ったよりも太くてびびっただけだ。痛くはねえ……」
「ホントか? じゃあこのまま奥に入れてくぞ?」

 ずぶずぶとジャンの体内に入っていくナイルの性器は、ついに根元まで完全に飲み込まれてしまう。ジャンは苦しそうに表情を歪めるが、痛くはないと、ナイルの心配を否定する。
 彼が息をするたび、ナイルの性器は吸いつかれるような感触に襲われた。気を抜いたらそれだけでもイってしまいそうだ。

(つーか、こんだけきつくて痛くないわけねえよな……)

 きっと多少無理と我慢をしているのだろう。ここでまた気遣う言葉をかけても余計に強がるだけだろうと思い、ナイルは何も言わずにそのままの状態でしばらく待つことにした。
 しばらくするとジャンの表情が少し和らいだため、ナイルは腰をゆっくりと動かし始める。

「うっ、あっ……」
「痛いか?」
「ちげえ……なんか、変な感じだっ」

 そこに突っ込まれるのがどんな感覚なのか、経験のないナイルには想像もつかない。しかし、ジャンの苦しいというよりはなんだか切なげな表情を見る限り、決して悪くはないのだろう。

「ジャンの中、すげえ温かくて気持ちいいぞ」
「ホ、ホントか?」
「ああ。すげえ吸いついてくる。そんなに俺のこれが欲しかったのか?」
「う、うっせえな。どんだけ妄想の中でそれを入れられたと思ってんだよっ」
「へえ。そこまで妄想してたのかよ。いやらしいやつだな」

 口ではそう言いながらも、ずっと一途に想われていたことがナイルは嬉しかった。薄く開いた唇に堪らず口づけ、短い髪を柔らかく撫でる。

「妄想しながら一人でするより、絶対気持ちよくしてやるからな」

 ジャンが頷いたのを確認して、ナイルは進入角度を少し調整する。

(確か、前立腺とかいうのがあるんだったよな)

 入り口から少し入ったところに、男でも気持ちよくなれるところがあると本には書いてあった。ただ、誰でも感じるというわけではなく、個人差が結構あるらしい。
 ジャンの場合はどちらだろう。もちろん、責める側としては前者であってほしいが、そもそも簡単に見つけられるものなのかもよくわからない。
 とりあえずものは試しだと、下から突き上げるような形で腰を動かしてみると、少し抵抗感のある部分を見つけて、感触を確かめるようにそこを擦ってみた。

「あっ!」

 するとジャンの口から甲高い声が零れ、探していた場所を一発で見つけたのだと悟った。ジャンの感じるところさえわかれば、あとはこっちのものだ。ジャンの太ももを強く掴むと、抜き差しする動きを速めていく。

「あっ、ちょっ、待てって!」
「もう待てねえよ。それにお前だって、中擦られて感じてんだろ?」
「ち、ちげえって……あっ!」
「何が違うっつーんだ? ほら、チンコだって触ってもねえのにビンビンになってんぞ」

 少し触れたジャンの性器は、先走りとナイルの唾液でグチョグチョになっている。それを優しく扱いてやれば、ジャンは上擦ったような甘い声を漏らした。

「妄想の中の俺にもこんなことされてたんだろ? それとももっとすげえプレイでもしてたのか?」
「して、ねえよっ……普通だっての!」

 感じているジャンの顔は、とても十代半ばの少年とは思えないような艶めかしさを浮かべてナイルを煽る。さっきまであったはずの理性は、汗とともに身体の外に出ていってしまったらしい。もう彼の身体を気遣いながらやるなんてできそうになかった。

「あんっ、あっ、あっ……」

 喘ぐ声も、可愛くて愛おしい。もっと鳴かせてやろうと、ぷくりと尖った乳首に吸いつけば、ジャンの身体は過剰なほどの反応を示した。

「ジャン、気持ちいいか? 気持ちいいよな? そんだけ可愛い声出してんだから」
「あっ、気持ちいいよ、ナイルさんっ」

 ナイルの名前を呼びながら、ギュッと抱きついてキスを求めてくるジャン。少し潤んだ瞳は、もっと、とナイルを熱烈に求めているような気がした。

「あっ、ああっ、気持ちいっ」
「俺も、気持ちいいぞ」

 抉るようにピストンさせ、中を激しく撹拌すれば、ざらついた粘膜は更に強く吸いついてくる。なんだか何もかもを搾り取られそうだと思いながら、それに負けないくらいの快感を与えようと、教えたばかりの弱みを上手く刺激してやった。するとジャンはひときわ高い声を上げながら、腕の中の身体をしならせる。

「なんか、出そうっ……」
「なら出せよ。俺も結構来てっから」

 もうあまり長くは持ちそうにない。ジャンがイきそうだというなら、自分ももうセーブせずに、存分に中を犯してやろう。

「ジャン……愛してる」
「オレも、ナイルさんのこと愛してる」

 愛の言葉を捧げ、そして同じ言葉と想いが返ってくる。それがどんなに幸せなことだったか、このときになってナイルは思い出した。嬉しくて胸が温かくなる感覚が、欲情して熱くなった身体に行き渡って、ナイルはジャンの身体を強く、強く抱きしめた。

「ジャン……イけるか?」
「あっ……もう、駄目っ……」

 互いに絶頂間近とわかって、ナイルは残る力を振り絞り、激しく腰を打ちつける。

「中に、ぶちまけるぞ?」
「いいぜっ……オレの中に、全部出せよ――あっ!」

 先に達したのはジャンのほうだった。白濁が勢いよく飛び散り、ジャンの上半身を汚していく。そしてその瞬間に後ろがぎゅっと窄まり、ナイルもジャンの体内に欲望のすべてを吐き出した。



「なあ、ジャン」

 本日二度目の風呂に入りながら、ナイルは腕の中のジャンに話しかける。

「お前、憲兵団に入ったらここに住めよ。そうしたら毎日顔合わせられるだろ?」

 ジャンは以前、憲兵団を志望していると言っていた。憲兵団は内地での勤務が基本であるから、生活拠点も内地に移さなければならない。ならばここで一緒に住むほうが何かと都合がいいし、何よりナイルはジャンにこの家にいてほしかった。

「そりゃ、そうしたいのは山々だけどよ……いいのかよ?」
「こんな広い家に一人で住んでるなんて、もったいねえだろ? だから遠慮なんかすんな」
「そうじゃなくて……。一緒に住むってことは、その……オレがナイルさんの嫁になるみたいなもんじゃねえか」
「まあ、そうだな。嫌か?」
「嫌じゃねえよ。むしろ、ナイルさんのほうが大丈夫かなって。だってオレ、まだこんなガキだし」
「確かにガキだけどな。でもすぐに大人になるさ。それに俺が惚れてんだから、ガキだろうがなんだろうが関係ねえよ。まあ、お前が同棲は嫌って言うなら仕方ねえけど」
「だから嫌じゃねえって! オレ、誰かと付き合ったことなんかねえから、こんなにとんとん拍子に話が進んでいいもんなのか、よくわかんねえんだ」
「お前が俺と住みたいと思うなら、そうすればいいだけだ。少なくとも俺は、お前にここにいてほしい」

 ナイルはジャンの手をギュッと握り締める。

「俺はお前が大事だ。だからいつも目の届くところにいてほしいし、毎日その声を聞かせてほしい」
「……オレも、毎日ナイルさんの顔見てえな。そんで毎日こうして二人で風呂に入って、毎日一緒に寝たい。でも、ホントにオレでいいのかよ?」
「お前じゃないと駄目なんだ。俺が愛してんのは、お前だけだからな」
「……そんな恥ずかしい台詞、よく言えるな」
「お前だってさっきは自分から言ってくれたじゃねえか」
「あ、あれはヤってる最中だったから、頭ぐちゃぐちゃで……」
「ヤってるときじゃねえと言ってくれねえのか? あーあ、寂しいな」
「なっ……そんなわけねえだろ! ヤってるとき以外だって言える」
「じゃあ、いま言ってくれ。ジャンの口からちゃんといま聞きたいんだ」

 そもそもついこの間までは、平気そうな顔してナイルに好きだ好きだと言ってきたくせに、どうして今更恥ずかしがるのだろうか? セックスをしたことで彼の中で何か変わったのだろうか?

「あ、愛してるよ、ナイルさん」

 少し口ごもるような調子で呟かれた言葉だったが、ナイルの耳にはしっかりと聞こえていた。それは内耳から身体中に巡っていって、湯に包まれるよりもずっと温かな気持ちが湧き上った。

「俺も愛してるぞ、ジャン」

 頭を撫で、柔らかな頬にキスをする。

 三十数年という人生の中で、本気で人を愛するのはただの二度目だ。辛い結末を迎えた一度目の本気の恋愛は、いまも尚ナイルの心に傷を残している。だからこそなかなか次の恋に進めなかったし、そもそも恋愛をしたいとも思えなくなっていた。
 そんなナイルの冷えた心に、この少年が忘れかけていた情熱を取り戻してくれた。決して幸せなことばかりではないけれど、辛いことよりもきっと嬉しいことのほうが多いだろう。それを二人で分かち合いながら生きていくことの喜びを、ナイルはふと思い出した。

(今度はちゃんとハッピーエンドを迎えられるんだろうか……)

 未来など、どうなるかなんて誰にもわからない。でもきっと、自分が腕の中の彼を愛し続け、大事にしていくことが明るい未来に繋がるのではないだろうか。

「愛してる」

 そう思いながらナイルはもう一度愛の言葉を囁いて、まだ大人に変わり切っていない彼の身体を強く抱きしめるのだった。




終わり





inserted by FC2 system