04. 我慢していることよりも、幸せに感じることのほうが多いんだ


 アルミンとマルコのおかげで作戦が決定し、次の休暇にさっそくプレゼントを買いに一人街に出た。
 衣料品店が並ぶ辺りには、男下着を専門的に扱った店もあり、そこでプレゼントを選ぶことにする。確かになかなか値は張るようだが、思っていたほどじゃない。これなら二着くらい買えそうだな。ついでに自分用のも買っておこう。
 どれにするか選んでいる最中、男臭いお兄さんや三十代前半と思われる男から、明らかにベッドの誘いと思われる声掛けがあったりしたが、それを丁重にお断りしながら商品を物色していく。ジャンと付き合ってなけりゃ、すぐにでも相手をお願いするところだけどな。
 どれが一番似合うかと、値段を考慮しながら選別していき、プレゼントにする二枚を決める。自分の分も気に入ったのを適当に取って会計し、買い物は終了だ。

 さっそくジャンに渡そうと思ったが、さすがに人のいるところじゃ渡せなくて、夕食のときにあとで馬小屋裏に来るようこそっと耳打ちしておいた。
 その頃には外もずいぶんと暗くなり、春になったばかりでまだ冷たい夜の空気が顔を撫でる。着いた馬小屋裏ではジャンがすでに待っていて、声をかけると短い挨拶を返してくれた。

「またキスしたくなったのか?」
「それもあるが、今日はジャンにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント? オレの誕生日は夏だって言わなかったか?」
「誕生日のプレゼントじゃねえよ。付き合い始めた記念だ」

 店で丁寧に包装してもらった箱を渡すと、ジャンは中身を予想できなかったのか、不思議そうな顔をしながら俺を見る。

「開けてもいいか?」
「ああ。開けてくれ」

 てっきりジャンは包み紙をベリベリと剥がすものだとばかり思っていたが、予想外にもそれを綺麗に剥がし取っていく。綺麗な包み紙だからさすがにもったいないと思ったんだろうか。
 最後に無地の箱を開いて、ジャンは驚いたように目を大きくした。ついでその顔が嬉しそうににやけ、まるで幼い子どものような反応だと、俺もつい笑ってしまう。

「お気に召したか?」
「ああ。下着欲しかったからな。でも、こんなのお前の下心が見え見えだぞ」
「別にそんなもんはねえよ。マルコに訊いたらジャンは下着を欲しがっていると言っていたから。それならちゃんと使ってもらえるだろ?」
「まあ、な。正直かなりありがてえ。こういう見た目のいいやつは高くてなかなか手が出せなかったし、二枚ともなかなかにオレ好みのパンツだ」
「そりゃよかった」

 結構きわどいビキニタイプのパンツを選んだんだが、ジャンってこういうの好きだったのか……。俺の趣味がそれに合致してよかったぜ。

「付き合い始めた記念、か。ならオレもライナーになんかあげたほうがいいよな。何か欲しいものはあんのか?」
「ものはいらねえよ。俺はジャンが欲しい」

 ジャンのその心が、俺は何よりも欲しい。もちろん身体だって欲しいけど、心が繋がってからじゃなければ、きっと気持ちいいだけで嬉しくなんてないんだろう。

「俺はいつも心からそう思ってる」
「……それはまだやれねえ」
「わかってるさ。まあ、つまりあれだ。お前のこと好きって言いたかっただけ」

 ランプに照らされたジャンの瞳が俺から逸らされる。照れたときのお決まりの仕草だ。
 俺はジャンとの距離を一歩詰め、少し冷えた身体を抱きしめた。

「一年以上は温めてきた想いだ。ジャンが思っている以上にデカくて重いと思うぜ? さっきはないって言ったけど、本当は下心だってめちゃくちゃある。こんなふうに、ここを触って……」
「ちょっ!? ケツ触ってんじゃねえ!」
「これ以上はしねえから、ちょっとくらい赦せよ。ああ、やっぱり触り心地いいな〜、お前のケツ。他のやつよりふっくらしてて、ずっと触りたいって思ってたんだ」

 プレゼントしたパンツは結構ぴっちりしているはずだから、履いたらそのふっくらとしたケツの形のよさが浮き彫りになるだろう。ああ、早く見てみたい。そんで他のやつには見せたくねえ。

「揉みしだくなよ馬鹿!」
「やべえ、勃起しそうだ」
「やめろよ変態ホモゴリ――んっ!?」

 とりあえずうるさい口は俺の口でふさいでおこう。ついでに舌をジャンの口の中に忍ばせて、じっくりと濃厚なキスを味わう。
 こうなるといつもジャンは一切の抵抗をしなくなる。しかもただ大人しく受け入れるわけじゃなく、むしろ自分からも舌を絡めてきたりなんかして、俺にとっては嬉しいことこの上ない。それこそ俺のこと好きになったんじゃないかと信じちまいそうだ。

「駄目なら駄目でいいんだ。ただ、ちゃんと真剣に俺のことを考えてくれ。悩みに悩んだ末の結論なら、俺はどんな返事だって受け入れる」

 いろいろと覚悟は決めているんだ。もちろん正式に恋人になることを諦めたわけじゃないが、適当な気持ちでそういう関係になるんなら、以前のままの友達でいるほうがましだ。

「……いろいろと待たせたり、我慢させたりしてわりいな」
「いいんだ。お前は男同士なんて考えたことなかっただろうし、ましてや相手はこの俺だ。すぐに結論を出せなくて当然だろう。それに俺はいま、我慢していることよりも幸せに感じることのほうが多いんだ」
「ライナー……」
「そんだけお前のことが好きなんだ。それだけはちゃんとわかっていてくれ」
「そんなの、言われなくてもわかってるよ。こうやって抱きしめられたり、キスされたりするとき、お前の気持ちが全部伝わってくる」

 そっと顔を上げたジャンの表情は、どこか恥ずかしそうな感じだった。

「お前といるとなんだか安心する。優しいし、あったけえし、何もかもを預けても大丈夫だと思えてくる。でもまだそれは、ライナーに惚れたってはっきりしたわけじゃねえ」

 もう少し、と言いながらジャンは俺の身体に抱きついてくる。

「もう少しだけ、待ってくれ」


続く





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